17話 きらきら光る……

 小包の中には、木製の小箱が入っていた。手に取ると片手に収まるほど小さくて軽い。そっと振ってみると、カコンと小さく音がした。

 事件の手がかりにして、楽園の使者へ近づくための切符。一体それはどんなものなのか……

 恐る恐る蓋を開けてみると、ぱかっと乾いた音と共に中身があらわになる。


「え……?」


 それは新たな暗号でも、場所を示す地図でもなく……


 キラキラと輝いている、ただの小さなガラス玉だった。


 これにはハワードも予想外のようで、目を丸くして驚いている。

 こんな何の変哲もないガラス玉だけど、これを唯一の友人に託したということは、きっと何か理由があるはず。

 暗号と照らし合わせれば、なにかわかるかもしれない。まだ意味が明確に分かっていない、最後の2つの文章を!


潮騒に耳を傾け、光は失われる 

そして、真実は映し出される


「海の近くで暗い場所。そこでガラス玉を何かするっていう意味かしら?」

「そうだね。もしかするとこのガラス玉は、どこか決まった場所で使われるキーアイテムかもしれない。その場所は、暗号に書いてある通りだ」


 潮騒がよく聞こえて、光が失われるほどに暗い場所? でももしかすると、夜にそこに行けという意味かもしれないし……

 時間はまだ午後3時。インプを使って私を襲った使者もまだいるかもしれないし、夜まで待つ時間なんてない。

 まだ明るい昼間だというのに、海の近くで暗い場所なんて……


「あの、変な質問をして申し訳ないのですが、『海の近くで暗い場所』って、この近くにありますか?」

「ありますよ」


 そうよね、そんな場所あるわけないし、やっぱり夜まで待つしk……って


「あるのですか!?」


 驚いて聞き返す私を見て、ハワードがニヨニヨと小馬鹿にするように笑っている。

 ギロリと睨みつけてやったけれど、表情を変えずに彼はこう続けた。


「全く君は本当に面白いね。昼間でも暗い場所なんて、1つしかないじゃないか」




「まさか、こんな場所に洞窟があるなんて……」

「そうだね。ちょうど干潮で良かったよ」


 マーリン洞窟

 その名の通り、アーサー王伝説の重要人物である魔術師マーリンが、かつて住んでいたという伝説があるみたい。

 普段は海水で満ちていて入ることはおろか、その存在すらも見つけることはできない。けれど潮が引いた干潮なら洞窟内に入れるそうだ。

 教えてくれたチャールズ牧師に、感謝しなくちゃね。


 洞窟のかなり奥の天井には、ぽっかりと大穴が開いており、そこが唯一の光源となっている。だからその周囲はほんのり明るいけれど、それ以外の場所は薄暗くて気味が悪い。

 横にいるハワードに悟られないように、自分の片腕を握って震えを抑える。


『……大丈夫、もうあんなことにはならない』


 意を決して洞窟に足を踏み入れた。歩く度に土を含んだ海水が、ぐちゃりと音を立てる。


「今のところどう? 何かガラス玉に変化はある?」

「なんともないよ。残念ながらね」

「……そう」


 ハワードの手に握られたガラス玉は、薄暗い場所だというのに、相変わらずキラキラと輝いている。やっぱり、暗号の解釈が間違っていたのかしら?


「ただ光に反射して輝いているだけなんて、クリスマスオーナメントにでもしてしまえば?」


 あと少しで何か掴めそうなのに、何も思い浮かばない自分にイラついて、つい皮肉めいたことを言ってしまう。そんなこと言っても、何も役に立ちはしないのに。


「待ったアレックス、君さっきなんていった?」

「だから、ただキラキラしているから、クリスマスオーナメントにでもしてしまえばって」

「それだよ!!」


 いきなり大声を上げる彼に、驚いて体が硬直する。そんな私を気にも留めず、ハワードは話を続けた。


「ここは洞窟の中で、光はほとんどない。なのにこのガラス玉は、今なお輝いている。光を反射できるわけないんだ!」

「じゃあ、もしかしてこれは、自発的に輝いているということ?」

「あぁ、きっとそうだ。君の発言のおかげで気づけたよ!」


 まるで子供のように目を輝かせて、ハワードは私を見つめそう言った。普段私を馬鹿にすることが多い彼らしくない行動に驚くけれど、まぁ、悪い気はしないわね。

 むしろ私に感謝して敬うべきでは?


「ふふっ。やっぱり私って、昔から何かと気づく方なのよね!」

「そうですねー。皮肉のセンスは目も当てられないけれど」

「おだまり」

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