18話 真実は映し出される

「あっっつ!」

「どうしたの!?」


 それは突然のことだった。

 ハワードが驚きの声と共に、ガラス玉を足元に落とし、顔をしかめて手を抑える。

 私が慌てて彼の手を覗きこむと、ほんのり赤くなっていた。


「いきなりガラス玉が熱くなってね。反射ですぐ手放したから良かったけど、反応が遅れていればどうなっていたことか……」

「大丈夫なの!? 他に異常は? 冷やす物とかあったほうが良い?」

「火傷になってないから問題ないよ。心配かけてごめんね」


 私の心配を他所に、彼は爽やかな笑顔を浮かべて答える。確かに火傷じゃないかもしれないし、今回は何もなかったかもしれないけど、もう少し気を付けてほしいわ! 

 まったく、本当に心配かけるんだから!!


「なら良いけど、無理しないでよ? 遠慮せずに私を頼りなさい」

「えぇ? すっごい不安……嘘です頼りがいしかないですね!」

「よろしい。じゃあ、ガラス玉をどうするか……」


 『相談しましょう』と言おうとしたのに、そこから先は言葉が出なかった。

 信じられない光景が、私たちの前に広がっていたから。

 ハワードが落としたガラス玉は、当然彼の近くにあるはず。だというのに、それは周辺にはなかった。


 ガラス玉は下り坂ではない道をころころと、独りでに洞窟内を転がっている。ろうそくの火のようなぼんやりとした光が、ゆっくりと私たちから離れていく。

 追いかけようとしたけれど、それはある一点でピタリと動きを止めた。

 そこは天上に穴が開いており、そこから光が差し込んでいる場所。私たちから5メートルくらいしか離れていない地点。


「様子を見てみよう、アレックス。何が起きるかわからないから」

「そうね」


 私たちは敢えてガラス玉を追いかけずに、その場から見守ることにした。どんな変化も見逃さないように、じっと注視する。


 ガラス玉がぶるりと、大きく震える。

 その瞬間、天上の穴から差し込む光がガラス玉のみに注がれた。差し込む光は逆三角形の形となって、その頂点がガラス玉に注がれている。

 その不可思議な光景に息をのみ、私たちは暫くの間言葉を失った。


潮騒に耳を傾け、光は失われる 

そして、真実は映し出される


 ふと暗号文のことを思い出し、ある考えが浮かんだ。天才の相棒が同じ考えなのか、あるいは他のことを考えているのか、確かめるために私は口を開く。


「ハワード、暗号文の『光は失われる』って、こういうことなの?」

「あぁ。周囲の光源エネルギーを奪って、あのガラス玉は何かを、『真実を映し出そう』としているんだ」


 ガラス玉は、注がれた光を貪欲に吸い込んでいき、ぼんやりとした光だったものが、またたく間に、目も眩むような輝きを放つようになった。

 その瞬間一筋の光線がガラス玉から放たれ、洞窟の壁面を照らし出した。ジジッという、何かが焼けこげるような音も聞こえる。


 そして照らし出された壁面に、段々とある映像が浮かび上がっていった。

 私たちはこれから、教授が伝えたかった『真実』を知ろうとしている。


 

 

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