21話 悪女か否か

「モルガンはティンタジェル領主と、その妻イグレインの間に生まれた娘なんだ。

だけど当時の王ウーサーは、イグレインに一目惚れしてしまってね、彼女を手に入れるためだけに、領主を殺している」


「人間の屑ね。その男」

「それには僕も同感」

 

 アーサー王伝説の舞台は、大体5世紀~7世紀頃だとハワードから聞いたことがある。その時代なら、今より倫理観がなかったり、物騒なのはしょうがないかもしれない。でもだからって、そんな理由で誰かの家族を奪えるものなの?  

 

「ちなみに、その計画を練ったのは魔術師マーリンだよ。彼の助言により、王とイグレインは結ばれて、男児を設けたのさ」

「……大体読めたわ。ウーサーとイグレインの間に生まれたのが、アーサー王なのね」

「ご名答」


 アーサー王の父親は、彼女にとって父の仇で母を奪った人物。

 ウーサー、その血を引くアーサー王、そして計画を練ったマーリンも、彼女の憎しみの対象なんだわ。


「確かに彼女はアーサー王に対して、良い感情を抱けないわね。でも正直、彼はあまり関係ないんじゃない? だって元凶はウーサーとマーリンでしょう?」

「アーサー王が即位する頃には、ウーサーは戦死している。それとマーリンはね、ある日旅に出て以来、戻って来なかったんだ。これがまた面白くて……」

「その話はまた後で聞くわ。それで元凶に復讐できなくなって、アーサー王に矛先を向けたということなのね」

「あくまで僕の推測さ。で、スッキリしたかな、眠れそう?」


 ここでハワードが、瓶ビールの残りを飲み干した。上品な彼らしくない豪快な飲みっぷりがつい珍しくて、そのまま見つめてしまう。

 そんな私の様子が滑稽だったのか、ハワードがにやりと笑って言った。


「なんだいアレックス、もしかして僕に見惚れてたのかい?」

「そうね、珍獣を見ているような気持ちよ」

「ねぇ僕泣いていい?」


 ハワードが何か言っているのを無視して、私はあるシーンを思い出していた。モルガンが騎士たちを焼き殺す、その時使っていたあの剣について。

 

「彼女が使っていた剣、あれは聖剣エクスカリバーなの?」

「そうだと思う。彼女は狩猟中のアーサー王一行に近づき、船に乗る乙女の幻術を見せた。その乙女たちは船内で王をもてはやし、彼らがいい気分で寝ているときに、モルガンはエクスカリバーを盗んだ……というエピソードがあるんだよ。

映像でも騎士が言っていただろう? 『乙女らが王を船に連れ去った』ってね」


 

 両親を突然奪われ、その仇の血を引く異父弟が、救世主だともてはやされる。彼女はそれを、どんな気持ちで見ていたのかしら。

 彼女が妖艶な笑みを浮かべながら、騎士たちを焼き殺すあの映像を思い出す。彼女は幼い頃の境遇によって、性格が歪められた哀れな女性だけど、人を楽し気に殺すことができてしまうことも事実。

 そんな彼女は、やはり悪女に間違いないわね。

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