20話 眠れぬ夜

「はぁ……今日は本当に疲れた。もうクタクタ、何もできる気がしないわ」


 私たちは洞窟から出て、今はもう田舎のビジネスホテルにいる。シンプルな家具に、ベッドが占領している狭い部屋だけど、この際疲れが取れればなんでもよかった。

 今日は朝から本当に大変だった。ただでさえ歩きにくい道をひたすら歩き回ったり、海岸で遺物を用いて戦ったりと、とにかく体力を消費した一日だったわ……


 シャワーを浴びて、備え付けのシンプルなパジャマに着替えると、ホテルのベッドに腰を降ろす。ふわふわとした柔らかさが、足腰にたまった疲労を取り除いているような気がした。

 そのままベッドに横になり、両目を瞑る。しかし、今日あった出来事が頭の中で駆け巡って、私の睡眠の邪魔をし始めた。

 もう眠くて仕方ないはずなのに、逆に目が冴えてしまう。


モルガン……


 なぜ彼女は剣で騎士たちを殺し、実の弟にあれほどの憎悪を向けるのか……

 疑問を消そうとすればするほど、また気になる点が増えていく。眠れない悪循環が私を襲った。もうここまで気になってしまったら、今夜は眠れる気がしないわ。

 眠れるようになるためには、気にならなくなればいい。要は答えを調べればいい。幸いにも私の相棒は、「歩く百科事典」なのだから……




「というわけで来たの」

「来ちゃったかぁ……」


 そうして今に至る。私はハワードの部屋の椅子に腰かけて、彼の部屋に来たわけを説明したところだ。ハワードは私の真向かいに座り、両腕をテーブルの上に置いている。

 私が説明し終えると、彼は呆れたような顔をしつつ、でもどこか嬉しそうな穏やかな笑みを浮かべた。……なんで嬉しそうなのかしら?  


「僕も色々考えすぎて、眠れなかったところだよ。ちょうど良かったくらいさ」

「本当? なら良かったわ」


 そして彼は腰を上げると、冷蔵庫から二つの瓶ビールを持ち出す。眠れない夜に最適なチョイスね。

 こうして蓋を開ける時の、プシュッと気持ちの良い音を合図に、ハワードによる講義が始まったのだった。


「モルガンがなぜ、実の弟でもあるアーサー王を、殺意を抱くほど憎んでいたか……だったね?」

「えぇ。確かに仲の悪い姉弟はいるけれど、殺したいほど憎むなんて、どんな理由なのか気になって」

「それは、彼女の生い立ちに関係あると思う。簡単に説明するとね……」


そして彼は語りだす。

彼女の鮮烈で悪にまみれた生い立ちを、

大切なものを奪われ続けた生い立ちを……

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