第3章
19話 凶器と黒幕
「嘘でしょう……?」
最初に出た言葉はそれだった。その一言しか出なかったのは、信じられないものを目の当たりにしたから。
隣にいるハワードは何も言わないけれど、目を大きく見開いて固まっている。私と同じ感情を抱いているのは明らかだ。
モルガンと呼ばれる女性の凶行に怒号。それらを映し終えると、ガラス玉は徐々に光を失っていき、壁に映し出された映像も消えていった。
あとに残されたのは静寂と、風で運ばれた潮の香りだけ。
今まで何度も任務をこなしてきた。遺物による不可思議な現象、未知の力を扱う人間。そういった物には慣れている。
けれど、今回のはあまりに衝撃的だった。
もしかすると私たちは、実際に過去にあった出来事を目にしたのかもしれない。
「今のって、本当に過去にあったことなの?」
「……今はまだわからない。けれど、君も見ただろう?」
少しの沈黙の後、ハワードが私にそう言った。その声には、いつもの明るさや自信が感じられなかった。
視線が壁に張り付いたまま、彼は言葉を続ける。
「あの騎士たちの最期は、教授と全く同じだ」
肉や骨すらも一瞬で焼く高温、だというのに周辺は燃えてすらいない。あとに残るのは『灰』のみ。
モルガンが剣を向けた瞬間、眩い白銀の光が彼らを包み込み、彼らはああなってしまった。
ハワードの言う通り、遺体や周辺の様子は今回の事件と全く同じもの。つまり……
「教授は、あの剣で殺されたんだわ……」
「そして、その凶器を神父に伝えようとした。彼は既に『自分が殺されること』を知っていたんだよ」
ハワードが地面から、輝きを失ったガラス玉を拾い上げる。もう熱はないみたいで、そのままコートのポケットにしまった。
そしてバッグからiPadを取り出し、現場の写真を撮り始める。静かな洞窟内で、シャッター音が奇妙に響いていた。
「はぁ。謎が解けたと思えば、またさらに謎が増えていくばかりね」
「教授についてもっと情報が必要だね。でもそれは、本部にいる『彼』に任せようか」
「そうね、それが最適解だわ。今はとにかく、犯人を追いましょう」
早速ハワードはスマホを取り出して、慣れた様子でメッセージを送信している。
送信してすぐに返信音が鳴ったことから、『彼』は存外任務に乗り気なようだ。普段の無気力な様子から、考えられないほどに。
そうして男二人がメッセージでやり取りしている間、私はあの女性のことが気になっていた。
剣を使って騎士を灰と変え、寝室で一人怒り狂っていた女性、モルガンについて。
「そういえば、あの映像に出ていた女性も、誰か突き止めないとだわ」
「えっ、君知らないのかい?! こんなの常識d」
「は? 何か言いたいことでもあるの?」
「いえ、なんでもありません。喜んで説明させていただきます」
一呼吸置くと、彼は腕を組みながら説明し始める。
その内容はかなり、いえ、とても衝撃的なものだった。
「モルガンは、アーサー王伝説における最大の敵だよ。それと同時に、彼の実の姉でもあるんだ」
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