22話 保護された情報
「じゃあ、君なりの結論が出たんだね」
「えぇ、おかげでスッキリしたわ。ありがとう」
「いえいえ、お役に立てたようで何よりでございます」
「ふふっ、馬鹿な人」
私がお礼を言うと、彼は胸に手を当てて仰々しく返事をした。その大げさな様が可笑しくって、つい口元がほころぶ。何を考えているかわからない時もあるし、時々イラつかせてくるけれど、なんだかんだ言って優しい人なのよね。
・モルガンは悪女で、アーサー王を憎んでいるが、それなりの理由があった
・モルガンは教授殺害の凶器、エクスカリバーに関係がある
ハワードの話を聞き、ようやく自分なりの結論を出すことができた。これならよく眠れそうだわ。これ以上迷惑かけるわけにもいかないし、もうそろそろお暇しないとね。
少し名残惜しいけれど、私は出口へと向かい、「おやすみ」と言い残して自室へと戻った。
「おやすみ、アレックス。また明日」
殺神部隊・イタリア支部
今日も俺はミカエラさんから与えられた部屋、エナジードリンクとスナック菓子の山の中で、仕事に追われている。
本来ならば今日は休暇中で、推しのイベントに参加できるはずだったのに……。
あのムカつく先輩のせいで、また仕事をするはめになってしまったのだ!
俺可哀そすぎる、誰か慰めてくれ。いや誰も慰めてはくれないけれど、絶賛ボッチですけど。
先輩が送ってくれた洞窟の写真については、すぐに調べがついた。これは簡単だったけれど、もう一つの依頼が厄介なんだよな……
悔しいけれど、今日中には無理だ。とりあえず、先輩に報告だけしておこう。そうして俺は、スマホの通話ボタンを押した。
『やぁ、ノエ。今日はありがとう。もうそろそろだと思ってたんだよね』
「ハワード先輩、夜分遅くに失礼するっす。諸々の報告です」
電話の相手は、休暇中の俺に仕事を寄越しやがった、部隊の中で一番のイケメン、ハワード先輩だ(俺調べ)
絶賛ボッチ、コミュ障の俺を気にかけてくれたり、よく話しかけてくれるのは、まぁありがたい。やっぱりハワード先輩は良い上司? なのだろうか……
「調査がギリギリまでかかっちゃって、もう寝るところでしたかね?」
『いやそんなことないよ。アレックスは、さっき部屋に戻って寝たけれど』
「で、でた~~。さりげないマウント! 『こんな夜遅くまで一緒にいました、それくらい信頼されてます』アピール!!」
『ふふっ、なんせ長い間一緒にいるからね。まぁ、そこらへんは自負しているかな?』
あぁ、電話の向こうでニタニタしながら笑う先輩の顔が浮かぶ。こういうさりげないマウントを、アレックス先輩が俺の『推し』だとわかった上でとってくる。
前言撤回、やっぱムカつく先輩ですわ。羨ましさのあまり死にそう。ちなみに俺は、女性と良い仲になるフラグが一切ありません、ご愁傷様です。
「とりあえず、派手に転んで膝小僧から血が止まらなくなる呪いかけました。それで洞窟の方ですが……」
『さらっと怖いこと言うね』
先輩を無視して、俺はフォルダを送信する。ハワード先輩たちが訪れたという、洞窟の写真についてだ。
先輩はこの洞窟に更に仕掛けがあるんじゃないかと推測し、俺の方へ写真を送ってきた。悔しいことに、その推測は大正解。中々に面白い結果が出たのである。
『なるほど……。うん、これはまた場所を指し示しているね。明日の目的地はそこになりそうだ。観光地だから、おみやげ買って帰ろうか?』
「いやいいっす。それよりもう一つの依頼について、少しばかり相談が……」
本題はそっちの方。先輩が俺に頼んだ二つ目の仕事、『殺された教授、デクスター・ワイズの情報』についてだ。
俺の遺物を使い、彼の情報を盗もうとしたのだが……
『結界?』
「そうっす。脳内に情報が展開される直前、急に何も見えなくなって。何度やっても同じでした。あれは絶対遺物によるものです」
『……何者かが教授の情報を、保護しているということかい? 誰にも見られないように?』
その目的は何一つわからない。それに、俺の遺物が使えなくなるなんて、こんなこと初めてだ。情報を保護しているのは、遺物が使える人間、楽園の使者の可能性が高い。
ただでさえ、使者の動きが活発になっているし、この事件には何か裏があるかもしれない……。嫌な予感がする。
「この事件、俺たちの予想よりかなり複雑だと思います。とにかく無茶しないように、アレックス先輩に伝えてください」
アレックス先輩は、特に無茶しやすいタイプだ。確かに先輩は強い人だけど、それは命があってこそだし、推しの幸せ=俺の幸せなので、苦しい目には合ってほしくない。そんな俺の発言に対し、ハワード先輩はこう言い返してきた。
『大丈夫だよ。死んでも無茶させやしないさ』
その声には普段の先輩らしくない、確固たる決意と自信に満ち溢れているようだった。
やっぱりアレックス先輩にはこの人が必要だと、俺は実感せざるを得なかった。
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