4話 いざコーンウォールへ
車窓からは、のどかな風景が見える。イギリス・コーンウォールの風景は、昨日までいたロンドンとは大きく違うことに、私は驚いていた。
イギリス最南西部、コーンウォール、ペンリン。そこには、先日殺されたデクスター教授の家がある。今日はその家に向かい、警察官のフリをして、家屋内を調査する予定。
青々と茂る草花、草原を闊歩する動物たち、目をこらすとかなたに海が見える。こんな自然豊かな、まるでおとぎ話のような場所で、凄惨な事件が起きたなんて、信じられない……。
「ねぇ、ハワード。奴らは、どうして教授を、あんな風に殺したのかしら?」
「あんな風って?」
「だって……」
思わずワイズ教授の、あの写真を思い出してしまって、言葉が詰まってしまった。
あんな、下半身だけ中途半端に残して、他は灰にするなんて……
「死者を辱めているとしか、思えない」
絞りだすように言葉に出すと、私は俯いて唇をかみしめた。
昔からの癖ね。
私は、唇を噛み締めて抑え込むの。
何も出来ない自分に対する怒り、無力感、そういったものを。
「そういう奴らなんだよ、『昔から』ずっと」
そう言うハワードの瞳は、あまりに冷たかった。
いつもの柔和な雰囲気とは全く違う。
「神を狂信し、自分たちが正義だと決めつける。敵だと思う者は、残酷になぶり殺すんだよ。それがたとえ、女子供であっても。本当に反吐が出る」
怒りと侮蔑に満ちた言葉を、ハワードは吐き捨てた。
彼は楽園の使者の話になると、いつもこうなる。
我を忘れて、別人のように、憎しみを隠そうともせずに。
なぜなのか、理由は未だに聞けていない。
理由を知りたいとは思うけれど、私、そういう個人的なことには、あまり立ち入りたくないの。
「……ごめん、ちょっと感情的になりすぎたね」
ハワードは、一呼吸置くと私に謝ってきた。感情的になりすぎることを、彼なりに良くないと思ったのでしょうね。
初対面でもないし、彼がこうなるのは初めてではないのだから、別にいいのに。
「いいのよ。私も同じ気持ちだもの。それに奴らのことを憎むのは、部隊に入っているなら、当然持つ感情よ。人をあんなふうに殺すなんて、同じ人間だと思いたくもない。」
私が素直に、自分の気持ちを話すと、彼はなんだか安心したようだった。
時々調子に乗って、気に入らないことを言う時もあるけれど、
同じ志を持つ仲間だということは、間違いないわ。
「さて、暗い話はここまでにしようか。もうすぐ、目的地に着くと思うからね」
「はぁ~、やっと着くのね」
かれこれ6時間以上、電車に乗っているんだもの。足腰が限界よ、限界!
その分、車内サービスは完璧だったから、良いのだけれど。
でもよかった、ハワードも元の調子に戻ったみたいだし。
「あ、アレックス!」
「? なにかしら??」
「どうかな? うまく撮れているだろ? 君の寝顔の写、おぶぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
私がすねを蹴り上げると、彼は悶絶した。当然よ、先の尖った靴で蹴ったのだもの。昨日とは大違い。
そうして、彼が悶絶している間にスマホを奪い取り、私の寝顔の写真を消す。
列車の中で撮られたようね。無駄に高画質なのがさらにむかつくわ!!
「あぁ! なんで消すのさ! せっかく、おもしろ……可愛く撮れてたのに!!」
「今面白いと言いやがりました?」
「言ってませんね」
「じゃあ、それを私に、わざわざ見せつけた理由は?? 嘘言ったら、もう片方もいくわよ?」
「それは君の反応が面白いからです。あばぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
前言撤回。やっぱり、いつもの調子に戻らなくていいわ、コイツ。
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