第11話 ➡︎仲間になる
森は静寂に包まれた。
ワイワイガヤガヤしていた30人近くの声が、ピタリと止まった。
全員がこちらをギロリと睨んだが、俺は緑髪の女性の肩に押し当てられた剣の動きしか見ていなかった。僅かに血が流れているが、なんとか止まってくれている。
「なんだ? お前」
誰が言ったかわからないが、さっきまでの楽しげな声ではない。トーンをグッと落とした、ドスの効いた声だ。
そして心臓マッサージを受けて心音が戻るように、ようやく俺の思考が巡り始める。
(やばいやばいやばいやばい!!)
さっきまでちゃんと考えてたのに。俺の頭のスーパーコンピュータが「ピピ……勝率、0%デス」って言ってたのに。
でも、綺麗事じゃなく、見過ごせないだろ。無抵抗の美女が酷い目に遭わされかけている。第一、彼女が本当に大罪人かどうかなんてわからないじゃないか。俺やフィンリィがそうであるように、彼女も記憶を失くしてるかもしれない——
——いいや違う。違うぞカナタ。
そんなんじゃない。そんなのは今、俺が飛び出してしまったことを正当化する言い訳に過ぎない。なんとか理由をこじつけているだけだ。何かを考えて、プロセスを持って結論付けて、「こうするべきだ!」と確固たる意思を持ってしたわけじゃない。
ただ——やっちまったってだけだよ、どちくしょう。
フィンリィがすぐに駆けつけ、俺を
「あれ〜?
集団の中から聞き覚えのある声。さっきの変態エビモヒカンが集団の中から顔を出した。こいつらの仲間だったのか。
「オメェの知り合いか?」
「さっきちょっとな」
「もしかしてお前、殴られたのあいつか? ハハッ! あんなガキに何やられてんだよ!」
「うっせぇボケ!
モヒカンに頭と呼ばれた男が、集団の中から現れた。スキンヘッドで筋骨隆々の身長2メートル近い大男で、全身に鎧を身に纏っていた。鎧と言っても金属は使われてなく、鉱石や魔獣を剥ぎ取って作られたであろうものだ。その巨体と相まって、バイクぐらいなら、轢かれてもバイクの方を壊しそうな印象を受ける。
「話を聞いた時はまさかと思ったが、そのマント、確かに安物じゃねえな。霊術師と言やあ、今や世界に20人と居ないはずだ。オルフェウスという名は聞いたことねえが、どこのお姫さんだい? 嬢ちゃん」
(お姫様……?)
確かにそこはかとなく気品があるし、可愛いし、可愛いけどそんな事は初耳だぞ。
「フィンリィってお姫様だったのか?」
「カナタさんのおバカ! そんなこと今どうだっていいです!」
小声で声を押し殺しながら叱られた。おバカだと? なるほど、悪くない。
「こんなところにお姫様が入るたあ世も末だ。だが、俺たちにとっては幸運と言える。嬢ちゃん、俺たちと組まないか?」
まさかの勧誘。
「ふ、ふざけんなハゲ! 誰がお前らみたいな変態集団に!」
とフィンリィを押しのけて前に出る俺。
「……誰だあいつは」
「そいつは今日入った新入りで、カナタ・アタナって奴です! ただののぞき魔ですよ!」
「のぞき魔……だと?」
スキンヘッドの男は監獄時計のメニューを開いて、何やら操作している。俺の名前を調べているようだ。
そして——
「……ぷっ……! ぶわっはっはっはっ!!」
大声で笑い出した。
それにつられるように他の男達も腹を抱えて笑い出した。爆笑の大合唱である。
「たーはっはっはっ!! そんな奴見たことあるかぁ!? おい!」
「あるわけねぇ! ここはあの
「のぞきっ……! のぞきだけで……! クククっ……!」
「しかもあんなガキで!? こいつぁまた世も末だぜ!」
なんというか、シンプルに恥ずかしい。リリィに余計なことを言ったのが心底悔やまれる。
「なぁお姫様、悪いことは言わねえ、俺たち"
と再び誘うスキンヘッド。
「お断りします」
と俺を押しのけて前に出るフィンリィ。
「まあ聞け。俺は
くいっ、とスキンヘッドが顎で指示する。すると、男達は身体中に仕込まれた
「1階で採れる有用な鉱石を集め、使えそうな魔獣の素材を合わせ加工した装備。それに、高名な秘術師の
世界で一番危険な存在、
「俺たちはこの階でくたばることを決めた腰抜け共とは違う。意地を張って一匹狼のまま上に挑んで死んでいく馬鹿とも違う。だが残念ながら、今4階や5階にいる化け物共ほど強くはねえ。だから万全な準備を整えてきたが、念には念を、だ。ここで使える秘術は心術以外には霊術のみ。そしてこれから攻略をしようって時にその希少な霊術師のアンタに会った。これは運命だ」
レイナードは緑髪の女性を親指で指さした。
「こいつの事を気にしていたな。こんな監獄でなんの正義感か知らねえが、アンタが一緒に来るってんなら助けてやる」
「ちょっと待ってくれ」
と、再び俺はフィンリィの前に出る。
「それだけの準備と情報があるなら、わざわざその人を痛めつけなくても、もっと上の階で——」
言いかけた時、レイナードは壁でも叩くように、右腕を曲げてから思い切り伸ばした。
すると地面が一直線状にガリガリと削れていき、その先の大木がパァン! と音を立てて半球状の大きな穴が出来た。見えないが、球体に凝縮されたかまいたちの球を飛ばした、と言ったところだろうか。恐らく奴の
「黙れのぞき魔。殺すぞ」
ゾクっとした。
中学生の時、夏祭りで肩がぶつかったヤンキーにカツアゲされた時の3倍は迫力がある。人を殺してそうな目、というのが比喩じゃなく存在して、俺の目を視線で突き刺した。
それを聞いたフィンリィが再び俺を押しのけて前に出る。なんだこのポジションの取り合いは。バスケのリバウンドでも取るつもりか。
「そののぞき魔もお気に入りのようだな。離れたくないってんならそいつも連れて行ってやってもいい。たかがのぞき魔、罰回しをくれてやる必要もないだろうからな」
「ハハハ!! 違ぇねぇ!!」
またドッと笑いに包まれる。これから先どれだけ笑われるのかと思うと気が重い。
「私が付いて行けば、カナタさんとその女の人には危害を加えないと約束できますか?」
は?
「もちろんだとも」
と、レイナードはニヤリと笑った。
選択肢に無さすぎて、一瞬理解が追いつかなかった。
「なに言ってんだフィンリィ!! そんなの良いわけないだろ!!」
なんなんだ、この子は一体。一体なんなんだこの子は。
やたら俺のことを庇って前に出てくれるし、俺が霊術で一網打尽にできるか聞いた時も、俺がやるなら自分が代わりにやると言っていた。俺は彼女に恩を売るような真似をしたか? 俺が勝手に彼女をヒロイン扱いしてるだけで、彼女にとってはなんでもないただの男なはずだ。それともよくある謎の主人公補正の不思議な力で——
——いや待て。不思議な力?
俺は思い出していた。
(ですから
あの時は胸を見るのに気を取られて深く考えていなかった。
俺の
そしてフィンリィは言った。
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