第1章 『1階 朝焼けと絶念の牢獄』
第1話 ➡︎パンツを覗く
パンツだ。パンツがある。
仰向けにスカートの中を見上げている。
長い時間は眠っていなかったと思うが、頭はぼんやりしている。まだ
でも間違いない、見上げているのは純白のパンツだ。スラリと伸びた美しい白くて長い脚。その先にある小ぶりのお尻までしっかり見えている。
スカートかと思ったが、どちらかと言うと
そして、パンツを通り越して引き締まった腰のラインとおへそまで見えているのは、それほどまでにこのパンツ——もとい女の子が俺の頭の傍に立っているからだ。
(誰だ……?)
女の子は振り返り、一歩動いた。ちっ、そのせいでパンツも逃げた。
今度はそのパンツの主が視界に映った。
(クノイチ……?)
美少女だ。
歳は18、9といったところか。小さい顔を短い黒髪が包んでいる。キリッとした目つきは鋭いが、長い
そしてその美少女が空に手をかざした瞬間、彼女は跡形もなく消えた。
(なんだ……夢か……)
まあいい。たとえ夢でも見ないよりマシだ。しかし、夢の割には頬や首がジンジンと痛い。寝ぼけて頬でもつねったのだろうか。
(……いや待て。寝てる? 俺はどこで何をしてるんだ?)
一気に眠気が飛び、バッ! と起き上がる。すると、とんでもない景色がそこには広がっていた。
「なっ——」
巨大な塔である。
「なんだこりゃぁぁああ!!」
赤みがかった円柱状の建造物が、東京タワーぐらいの高さでそびえ立っている。見上げると首が真上を向くほどだ。高くてよく見えないが、頂上からは橋のようなものが外へ向かって伸びている。
そのうえ、周りを見渡せばさらに異常な状況だ。
「台風……いや、竜巻……? ここは巨大な竜巻の中なのか……?」
土を吸い上げた茶色い風が、巨大であるが故にゆっくりと、轟音を立てて回っている。それだけの景色が広がっていながら、まさに台風の目の中にいるように俺が立っている場所は無風だった。
巨大な竜巻の中に佇む巨大な塔。その横にアリのようにちょこんと佇むちっぽけな俺。現場からは以上です。
「ハハ……どうやら日本ではなさそうね……」
ポケットの中身を手で探るが何もない。というかポケットがない。よく見ると服が寝巻きじゃなくなっていて、異国風の黒い民族衣装のようなものを着ている。ポケットを探していると、腰に短剣がぶら下がっていることに気づき、恐る恐る抜いてみた。刀身がギラリと輝き、自分の顔を写す。
「だれ……?」
美少年になっていた。
なんということでしょう。年齢は17、8歳程度。天パだったはずの髪は直毛の短髪に、馬面だった顔は整った
スー、ハー。
一度深呼吸して考えてみる。
「異世界転生的なことか……?」
小説やらアニメで見かけるあれ。なってみたいとは思ったことあるが、まさか本当に自分に起きると思うかね。
かろうじて現実として飲み込めているのは、あの動画に対するコメントや、魔法陣が輝くところを目の当たりにしたからだろう。あの現象のおかげで自分の中の非日常へのスイッチが入ったというか、人智を超えた何かへの受け入れ体制が心のどこかで整っていた。
とはいえ、その手のジャンルには
「ん……そういえば、あの動画……『力を貸してください』だったよな。その割に誰もいないとは--」
いや、待て。
「あのパンツの女の子か? 夢かとも思ったが……そういや立派なケモ耳だったな……」
とにかく、人に会いたい。誰か説明してくれ。言葉は通じるのか、モンスターやら魔法やらはあるのか、確かめたいことが山積みだ。
まあ、竜巻の中に塔があるということは竜巻が動かないから建っていられるわけで、むしろ外敵から守るために存在しているということだろうから、超常的な何かがあることは明白である。そしてどうやらあの塔へ行くしかないということもまた、明白である。幸い、扉と思われるものが正面に見えている。
「……行ってみますか」
近づいてみるといよいよデカい。両開きの扉も当然のようにデカく、一応10メートルぐらいの巨人の方もニッコリして屈まずに入れることだろう。
やたら重い扉を大玉転がしでもするように踏ん張って開き、恐る恐る中に入るや否や、バタン! と、ひとりでに扉が閉まった。そして扉がモコモコと隆起したかと思えば、その隆起した粒が無数のイモ虫のようなものになり、両扉の隙間だった場所に群がる。
「気持ちわる……」
思わず呟いた。そしてまるでそのイモ虫が”隙間”というものを食い尽くしたかのように隙間がなくなり、扉であったはずの場所が壁に変わってしまった。
「もう外には出さないってわけね……」
中は真四角の大きめの部屋だった。無機質な黒い材質で、壁や床には
その部屋の中心に、木で出来たプレハブ小屋があった。壁の材質からするとその小屋は違和感が強く、明らかに異質である。
突如——
バキバキッ!
「ぐはっ!!」
プレハブ小屋の扉が内側から吹き飛んだ。
同時に赤髪の大男が転がり出てきた。20代後半に見える。こいつにもケモ耳が生えており、身長は190程のムキムキの体。よくそれで死ななかったな、というぐらいの傷跡が顔を斜めに横断している。
「てんめぇ……偉くなった気でいやがって……!」
男はムクっと立ち上がり、小屋の中を睨みながらそう言った。
小屋の中には、深い藍色の長髪をした美しい女の子が椅子に座っている。
女の子は小さくあくびをして、ティーカップを口に運ぶ。今にも「あーあ、空から大金でも降ってこないかな」とでも言い出しそうな表情である。そして男に
「別に私は偉くないけれど、ここに来るあなたは見下されるような人間なのよー」
「こんのガキ……!」
俺はこの二人を交互にマジマジと見つめ、言葉が分かることに安堵し、これからどうなるのかという不安も覚えていたが、同時に全く別のことを考えていた。主に赤髪の男のケモ耳を見て。
(やっぱりファンタジーっぽいな……しかしあの美少女……さては巨乳か?)
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