8話 冒険者試験を受ける&新形態を発動
――冒険者試験当日。
僕とアルカは街の外れにある、冒険者ギルドの支部に来ていた。
「冒険者登録試験と、ソロ試験の受験でよろしかったですね?」
「はい。よろしくお願いします」
試験を行う屋外の修練場に案内される。
そこには、他の受験者達もいた。全員ある程度体格が良くて風格がある。
細身の僕とアルカは頼りなく見えるのだろうか? 時折他の受験者が侮ったような目で見てくる。
「それでは、試験の内容を説明する!」
修練場に、試験監督の野太い声が響く。
試験監督の歳は40前後だろうか。胸にエリート冒険者の証である金のバッジが輝いている。身のこなしから、かなりの修羅場をくぐってきた熟練者であることが伝わってくる。
「第1試験はターゲットの破壊! 各自の腕力や魔力を見せてもらう。そして第2試験では試験監督を相手に模擬戦闘を行ってもらう。2つの試験の得点が基準を超えれば、合格となる」
試験監督の説明で、周りの受験者たちの雰囲気が引き締まる。
「質問はあるか? なければ、第1試験を始める」
修練場には、様々な形のターゲットが設置されていた。
何本も設置された金属製の柱に、皮や鎖など様々な素材が巻かれている。
地上だけでなく、上空にもターゲットが設置されている。木の間に張られたワイヤーに木製のマトがぶら下げられている。
さらに一部のマトは、ワイヤーに引っ張られて複雑に動いている。そういえば近くの川に水車があった。あれを動力源にしているのだろう。
「君たちには今から、あれらのターゲットを破壊してもらう」
そういって教官は沢山設置されたターゲットを指し示す。
「制限時間は1人5分。非公開だが、ターゲットには点数が割り振られている。頑丈だったり遠くにあったり動いて狙いにくいターゲットほど点数が高い。自分の戦い方にあったターゲットを狙って点数を稼いでくれ」
なるほど、どのターゲットを狙っていいのか。
冒険者は、1人1人得意な武器が違う。当然それによってできることも変わってくる。
例えば、ハンマーや大剣を使う冒険者であれば、強固な装甲を持つモンスターを倒すのが得意だろう。
弓や魔法を扱う冒険者は遠くにいるモンスターを狙撃するのが得意だろう。
短剣を扱う冒険者は破壊力は無いかも知れないが、高い機動力を活かして防御力の低いモンスターを複数撃破するのが得意だ。
この試験は、受験者の長所を見ることができる。合理的なやり方だ。
「では、受験番号1番。前に出てくれ。……試験開始!」
「行きます!」
片手剣を持った青年が、皮製のターゲットに向かって攻撃を仕掛ける。
皮は中々しっかり巻かれているようで、一撃では破壊できない。何度も斬りつけて、ようやく破壊できる。
「――そこまで!」
制限時間内に1番の受験生が破壊できたターゲットの数は、5個。
試験監督のリアクションを見る限り、得点は悪くはなさそうだ。
壊れたターゲットには、試験補佐官が新しい皮を巻いて修理する。そして次々と受験者たちが呼ばれて試験を始めていく
「では、次! 受験番号21番、バルザ!」
「よし、俺の出番だな!」
「頑張って、兄ちゃん!」
出てきたのは眼光が鋭い青年。背中には大振りな弓を背負っている。
「ほう、あいつらはバルザとオメガの兄弟じゃねえか」
いつの間にか、僕とアルカの隣に試験監督が立っていた。手には火のついたタバコ。
「いやー、最初の説明が終わったらしばらく試験監督は仕事がなくってヒマなんだよな。壊れたターゲットの修理も得点計算も全部補佐官たちがやってくれるしな」
といって試験監督さんはけらけらと笑う。ヒマなので適当な受験者を見繕って雑談しに来たらしい。
「で、あの兄弟だ。あの2人は凄腕の猟師らしくてな。受験する前から結構有名人で、今回の試験で一番有望視されてるんだわ」
試験が始まり、バルザというらしい眼光の鋭い青年が、上空のターゲットめがけて矢を放つ。
矢は、遥か上空のターゲットの中心を見事射貫いた。
呼吸を整えて、更に一矢。またもやターゲットの中心を正確に破壊する。
「まだまだ、こんなもんじゃないぜ」
バルザは、今度は動くターゲットに狙いを定める。
さっきから観察していて分かったことがある。ターゲットの動きは複雑だが、決してランダムではない。
1つ1つをしっかりと観察すれば、決まった動きを繰り返していることが分かる。
「そこだ!」
バルザが集中して狙いを定め、放つ。
矢はターゲットの進行方向に先回りし、真ん中から少し外れたところを撃ち抜く。
「すげぇ! あいつ、あの動くターゲットを撃ち抜いたぞ!」
周りにいた受験者もざわめく。
「な? やるだろあいつ?」
と、試験監督さんが話しかけてくる。
「受験生があの動くターゲットを撃ち抜いたのは3年振りくらいだな。それだけ難しいんだよ、あれは」
試験監督さんは少し満足そうな顔をしている。有望な冒険者の誕生がうれしいのだろう。
「――次、受験番号22番、オメガ!」
「はい、よろしくお願いします!」
今度は、筋骨隆々の青年が出てくる。大人を見下ろすだけの背丈と太い腕はすごい迫力だ。背中にはごついハンマーを背負っている。
試験が始まり、オメガというらしい青年が、ハンマーでターゲットをぶん殴る。
――一撃。
ターゲットに巻かれた鎖の一部がちぎれ飛ぶ。更に、2撃3撃とハンマーを振るい、ターゲットに巻かれていた金属製の鎖を完全に破壊する。
「やべえぞあいつ。たった3発で金属製の高得点ターゲットをぶっ壊しちまいやがった」
周りの受験生がざわめいている。
5分の間に、オメガは高得点ターゲットを7個破壊した。
「弟の方もすげぇパワーしてるよな。あの兄弟は、すげぇ冒険者になるぞ」
と、試験監督さんは顔をしわくちゃにして笑う。
試験は続き、他の受験生も順番にターゲットを攻撃していく。
「いやー、この試験監督って仕事は楽で良いぜ。実務はほとんど補佐官に任せっぱなしでいいからな」
随分とぶっちゃけたことを言い出したぞ、この人。
「まぁ、もし勇者級のとんでもない受験生が来て、ターゲットを根こそぎ全部壊しちまったら忙しくなるだろうが。……あるわけないよな、そんなこと!」
試験が進み、とうとう僕らの番がやってきた。
「――試験開始!」
試験の火ぶたが切って落とされる。
「アルカ、
「了解しました!」
アルカの身体が虹色の光に包まれる。
光の中で、アルカの魔法によって異次元に格納していた武装を現実世界に呼び出していく。
光が消えると、アルカの姿は先ほどと大きく変わっていた。
先ほどまでの普段着ではなく、深紅のフレアスカートを纏っている。フレアウルフの素材を使った、耐火装備だ。
アルカの右腕は大きく変形し、手のひらの代わりに狼の頭を象った武装が付いている。
この火炎放射形態《フレイムモード》のアルカは、剣を握れない代わりに超強力な火炎魔法を発動可能だ。そして、その熱からアルカ自身を守るために熱に強いフレアウルフの防具を装備する。
アルカが右腕の武装を、空高く浮くターゲットに向けて構える。
「行きますよ、フレアブラスト!」
”ゴオオオオオオオオオオオォ!!”
アルカの右腕、狼の口腔から、一直線に業火が放たれる。
炎は天高く登っていき、ターゲットを飲み込んでいく。
動くターゲットも動かないターゲットも関係なく、まとめて焼き払う。これなら、結構いい点数が出せるだろう。
ターゲットを吊っていたワイヤーごと焼き払ってしまったので、ターゲットを修復するのは結構大変かもしれない。その点は少し申し訳ないが、手加減して不合格になったら元も子もない。
「「な……!?」」
一方で、周りの受験者と試験監督は、全員言葉を失っていた。
「なんだよ、なんだよあれ!」
「魔力量がバケモンじみてやがる」
「俺たちとはまるで桁が違う……!」
受験者たちが次々に感想を口にする。
「あの、マスター。私もこんな武装だとは聞いていなかったのですが……!」
アルカが震える左手で右手の武装を指さしている。
「あれ、『手から火が出る
「火力が凄すぎますよ! ……いえ、その分マスターの力になれるので、不満は全く無いのですが。火力が出過ぎてびっくりしてしまいました」
アルカが右手の武装を左手で撫でる。気に入ってくれたのなら良かった。
「よくやった、アルカ」
アルカのおかげで大量得点できた。しかし、これではまだ十分かわからない。
念には念を入れて、地上の固定ターゲットもできるだけ破壊しておこう。
アルカには十分働いてもらったし、地上にあるターゲットは僕が受け持つことにしよう。
新しい戦術も試してみたいことだし。
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