27話 災害級モンスターも罠ハメ戦術を使えば怖くない

 数時間後。


 僕達は、ブロンズアームグリズリーがいるであろう穴の周囲に集合していた。


 ――そして、そこで落とし穴を作っていた。


 ブロンズアームグリズリーの腕力は凄まじい。どんなに歴戦の冒険者であっても、近接戦を挑むのは危険だ。僕は、この討伐隊から1人の犠牲も出したくない。


 なので、遠距離戦だけでアームグリズリーを仕留める。


 基本戦術は、インスタントゴーレム達と落とし穴でグリズリーを足止め、その間に遠距離攻撃をひたすら叩き込む。


 ブロンズアームグリズリーの装甲も完ぺきではない。動く以上、どこかの関節に絶対に隙間ができるはずだ。そこを攻撃する。


 それに、切り札はまだ用意している。


 討伐隊メンバー全員で、スコップを手に穴を掘っていく。


 僕も大型のインスタントゴーレムを2体作り出し、穴掘り作業を始める。


 後で戦闘にも参加してもらう予定のため、魔力をたっぷりと注ぎ込んで頑丈に作ってある。


 インスタントゴーレム達が手で穴を掘っていく。


「すげぇ、力自慢の俺の10倍以上のスピードで掘り進んでるよ……!」


 討伐隊の誰かがそうつぶやいた。


 こうして、10を超える大型の落とし穴を設置した。これだけ用意すれば、どれか1つにははまるはずだ。


「マスター、ブロンズアームグリズリーが目覚めます!」


 アルカが叫ぶ。


 穴の奥から巨大な何かが動く音が、はっきりと僕たちの耳にも聞こえた。


「先手必勝だ! アルカ、火炎魔法を叩き込んでやれ!」


「了解です、形態変更モードチェンジ、フレアカノン!」


 アルカが右腕の火炎放射器を構える。


「フレアブラスト:ストレート!」


 炎の帯が、穴の奥に一直線にほとばしる。


 余波で熱風が僕たちにも押し寄せる。


「これがアルカさんの火力……! 凄まじいです!」


「近接戦闘だけじゃなく魔法も使えるのか、なんて性能だ!」


「これじゃブロンズアームグリズリーも黒こげ間違いなしだ」


 だが、予想に反して穴の奥からブロンズアームグリズリーが姿を現す。


 シルエットは普通の熊に近い。


 しかし、その大きさは比べ物にならない。姿は、体長4,いや5メートルはあるだろう。


 そして全身を覆う青銅色の厚い甲殻は、大砲でも撃ち抜けないのではないかという迫力がある。


 アルカがずっと火炎魔法を当てているが、平気で動いている。


「全く効いていない訳じゃないけど、あの甲殻は耐熱性が高いみたいだ。アルカ、一度通常形態モードに戻って別の方法で攻撃を仕掛けてみて」


「了解です」


 アルカが通常形態モードに戻り、こんなこともあろうかと用意しておいた弓を構える。


「ほ、本当に俺たちであんな化け物倒せるのか……?」

「だめだ、勝てるビジョンが見えねぇ……」


 アルカの火炎魔法が効かないのを見て、何人かが戦意を喪失しそうになっている。


「皆さん大丈夫です! 火炎魔法が効かなくても、落ち着いて作戦通り戦えば必ず勝てます!」


 僕は声をふり絞って呼びかける。


「そうだ、俺たちにはナットさんとアルカさんが付いてるんだ! 必ず勝てる!」

「ナットさんとアルカさんがいて負けるはずがねぇ!」


 闘志を取り戻した討伐隊のメンバーが武器を構える。


「やるな、ナット君。メンバーの士気が下がったときに声を掛けるのもリーダーの仕事だ。ベテランの俺がフォローしようと思っていたが、心配なさそうだな。流石だ」


 僕の隣でザナスさんが頷いていた。


 怒ったブロンズアームグリズリーが四足歩行で突進してくる。そして、落とし穴にかかった。


”グオオオオオオオォ!?”


 下半身が完全に穴にはまり、上半身だけが地上に出ている。つまり、格好のマトだ。


「今です! 全員総攻撃!」


 僕の指示で、討伐隊のメンバーのうち遠距離攻撃が得意なものが一斉に攻撃を仕掛ける。


 普段近接武器しか使っていないメンバーには、弓を使ってもらっている。


 アルカも武器屋にあった一番大きい弓で戦っている。


 『その弓は相当な力自慢じゃないとまともに扱えないぞ』と店主さんに言われたのだが、難なく使っている。狙いも本職の弓使いより正確だ。


 動きを封じられたブロンズアームグリズリーに、


 矢が、


 電撃魔法が、


 投げナイフが、


 殺到していく。

 

”ゴアアアアァ!!”


 ほとんどの攻撃は甲殻に弾かれてしまったが、一部は弱点である関節に当たった。


 関節にダメージを受けたブロンズアームグリズリーの動きが鈍る。


「す、すげぇ。俺たちがあのブロンズアームグリズリーを押してる……!」


 誰かが信じられないような声で呟いていた。


 ブロンズアームグリズリーが落とし穴からやっと這い上がってくる。


 だが、


「させない! いけ、インスタントゴーレム!」


 落とし穴掘り兼戦闘用のインスタントゴーレム2体がブロンズアームグリズリーに全力のタックルを仕掛ける。


 ブロンズアームグリズリーがよろめいて、再び落とし穴にはまる。


 そしてまた、遠距離攻撃で集中砲火する。


”ゴアアアアァ!!”


「よし、いい感じだ。そろそろ切り札を投入しよう!」

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