45話 黒幕をゴーレム技術の力量差で完膚なきまでに叩きのめす

「見るがいい、これが我がゴーレム研究院のナンバー2である俺の技術力だ」


 ステージの上で、ボイルは改造ゴーレムにホウキを手渡す。


 改造ゴーレムはそれを使って、掃き掃除を始めた。


「どうしたナット。驚きのあまり、声も出ないか?」


 もしかして、掃き掃除ができるだけ……?


「驚くのはまだ早い。なんと、チリトリを使える機能の実装も考えている。まぁ、1カ月は掛かるだろうが。完成を楽しみにしておくといい」


 インスタントゴーレムはそんなに長期使用を想定して作っていないのだが。


 見た感じだと、耐久性関連の部分はまるで改造していない。今この瞬間動かなくなってもおかしくないのだが、ボイルはその点を分かっているのだろうか。


「くくく、驚きのあまり声も出ないようだな」


 当のボイルは何故か誇らしげな顔をしていた。


『では続いて、ナットさんのゴーレムのパフォーマンスです!」


「頼むぞ、アルカ」


「お任せください。マスターを罠にかけたあの男は、完膚なきまでに叩き潰します」


 アルカが空高く飛び上がり、宙返りする。同時に、#形態変更__モードチェンジ__#。


 #家事形態__ハウスワークモード__#(メイド服に着替えただけ。機能は一切変わっていない)になったアルカがステージ上に着地する。


「すげぇ、宙返りしたぞ!」

「一瞬で着替えた? どういうこと!?」

「メイド服可愛い!」


 アルカのパフォーマンスで観客席が湧く。当のアルカは用意していたホウキとチリトリで、掃き掃除を始めた。


「アルカちゃんの方が、手際がいいし丁寧だぜ」

「しかも、チリトリもキッチリ使ってる」

「ていうかボイルのゴーレムは、大きすぎて部屋の中じゃ使えないなじゃいか アルカちゃんの方が絶対役に立つ!」


 観客の反応を見る限り、既にアルカが優勢のようだ。


「馬鹿な……戦闘以外のこともできるのか」


 ボイルは目を見開いていた。


「まだこれだけではありませんよ」


 続いてアルカが取り出したのは、フライパン。あらかじめ用意していたホットケーキが乗っている。


 そして


「ほいっ」


 フライ返しを使わず、右手だけでホットケーキをひっくり返した。


「すげぇ!」

「料理慣れしてないと出来ないぞ、あれは」

「人間でも難しいのに!」


 観客は大興奮だ。


「まだです、行きますよ」


 今度は、準備していた机と椅子をステージ中央に運ぶ。


 そして、そこで書類を書き始める。その様子をリエルさんが覗き込む。


『何の書類を書いているのでしょうか……ああ、これは! なんとアルカさん、【確定申告】の書類を作成しています!!』


「確定申告だって!?」

「あの難しいのをやれるのか! 俺のもやってほしい!」

「人間でも難しいのに!」


 今日一番の衝撃が、観客席を襲っていた。


 ――【確定申告】。税金を納めるために、必要な書類だ。


 この国の税金は、国民1人1人がその年に稼いだ額によって変わる。


 そして国民は『私は今年いくら稼ぎましたよ』という書類を提出する。これが確定申告だ。


 単純に入ってきた金額を合計すればいいというものではなく、そのお金を得るためにいくら使ったか、も申告しなければならない。


 そしてこの確定申告、とにかくめんどくさい!!


 冒険者は特に確定申告に手間がかかるので、確定申告がイヤで冒険者を辞めてしまう者もいるらしい。


 しかしアルカはこの作業を、本を読みながら1晩のうちに習得してしまった。


「馬鹿な、確定申告だと……!? 俺自身ですら毎年苦労しながらやっている作業を、ゴーレムがやれるというのか……!」


 ボイルは膝をついていた。


『これは勝負ありましたかね? ”掃き掃除ができる巨大ゴーレム”VS”掃き掃除と料理と確定申告できてしかもすんごい可愛いゴーレム”。 それでは、観客の投票に移りたいと――』


「がっかりだなぁ。せっかくゴーレムを他に作れる人がいるっていうから、どんなゴーレムを作れるか楽しみだったのに。僕のゴーレムを改造して、この程度かぁ……」


「が、がっかりだとぉ!」


 僕のつぶやきを聞きつけて、ボイルが顔を真っ赤にして怒る。


「そこまで言うなら仕方ない! このゴーレムは試作品だ! 我がゴーレム研究院の、本当の力を見せてやる。こんな使い捨てゴーレムを改造しただけではない、0から作った本物のゴーレムだ!」


「あれ、さっき『我々では0からゴーレムを作れない』って言ってませんでしたっけ?」


「最近作れるようになったのだ! 待っていろ、『宙返りしながらホットケーキをひっくり返せてしかもイケメンなゴーレム』をすぐに持ってきてやるからな! 見ていろよクソガキ!」


 ――10分後。


「俺がゴーレム研究院の最高傑作であるゴーレムだ」


 ボイルの代わりに、全身甲冑に身を包んだ、自称ゴーレムが現れた。


 しかも、声が全くボイルと同じなんだけど……。

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