44話 黒幕との決闘開始

 そして、ゴーレム対決当日の正午。


 僕とアルカは、いつもの闘技場にいた。


 入場すると、前回と同じくらい観客が入っている。


 勇者の称号というのも人々の関心を引いていたが、同じくらい『ゴーレム』というものにみんな興味を持ってくれているのだろう。嬉しいなぁ。


 そのうちアダマンタイト採掘以外にも、人の役に立つゴーレムでも作ってみようかな。


 正直、今日の相手が僕を勇者パーティーから追放するように仕向けたことなどは、大分どうでもよくなってきていた。


 人々にゴーレムのすばらしさを見せられることと、相手がどんなゴーレムを見せてくれるか。その2つでわくわくしっぱなしだった。


 意識を闘技場に戻す。


 闘技場中央には、木材を積み上げて簡易的なステージが出来ている。


 反対側の入場ゲートから、髭の生えた中年男性が優雅に歩いてくる。


”ずしん、ずしん”


 中年大生の後ろから、大きな足音をさせて、何かが入場してくる。


「あ、あれは……」


 勇者選抜試験の時に、僕が作った戦闘用インスタントゴーレムだ。どうしてここに? そして、何故僕が作ったのとは違う動きをしているのか。


「始めまして、ナット君。私はボイル。ゴーレム研究院の最高幹部の一人だ」


 作り物臭い笑顔で中年男性が名乗る。


 ”ゴーレム研究院”という名前は、初めて聞いた。少なくとも、僕がいた田舎にはそんな噂は流れてこなかった。


「ゴーレム研究院は、1000人以上のゴーレム研究家が集まっている組織だ。どうかね? 私たちとともに来ないかね?


 正直なところ、ゴーレム研究院はまだゼロからゴーレムを作る技術がない。だが、君ならできる。


 君と私達の力があれば、国家にも等しい力を持つことができるだろう。いや、それどころか大陸の支配も夢ではない」


「お断りします。私欲のためだけにゴーレムを使う人と手を組みたくはないです」


 僕がはっきりと断ると、ボイルは露骨に不満そうな顔をした。


「チッ! 勇者パーティーから追放させたり色々と根回ししたが、もう面倒だ。直接対決で決着をつけよう。見せてあげよう、我がゴーレム技術院の技術力を」


『両者とも気合十分ですね! それでは本日のルールを説明させていただきましょう!』


 僕とボイルの間に、どこからともなくリエルさんが現れた


『本日の勝敗は、ずばり”どちらが人の役に立つゴーレムを作れるか”です。観客の皆さんには、入場時に赤色と青色のハンカチをお渡ししています。両者のパフォーマンスをみて、ボイルさんのゴーレムの方が良いと思った方は赤色を、ナットさんの方が良いと思った方は、青色をあげてください!』


 なるほど、観客に勝敗を決めてもらうのか。


『ボイルさんが勝てば、ナットさんはゴーレム研究院に強制所属していただきます。そしてナットさんが勝った場合には、ボイルさんは金貨100枚相当の価値があるモンスターの卵を差し出します』


 そういえば、僕が勝った場合の条件について、今初めて聞いた。完全に忘れていた。


 モンスターの卵を何故ゴーレム研究院が持っているのかは分からないが、冒険者ギルドが金貨100枚相当の価値があるというなら間違いないだろう。


『これから、お互いにゴーレムによるパフォーマンスを披露してもらいます! それではまず、ボイルさんのパフォーマンスをご覧ください』

 

 ボイルの改造ゴーレムが、ステージに向かってゆっくりと動き出す。

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