46話 黒幕、墓穴を掘ってとんでもない大恥をかく

『ええと、あなたがゴーレム研究院の作ったゴーレム、ですか?』


 リエルさんが珍しく戸惑っている。


「ゴーレムだ。見ての通り」


 外見は、全身甲冑に身を包んだ人間にしか見えないのだけれど。顔も見えないし。


 自称ゴーレムさんは『俺はゴーレムだがそれがどうかしたか?』と言わんばかりに堂々と腕組みしている。


「さぁ、パフォーマンスをさせてもらうぞ」


 ゴーレムさんが、ステージに登ろうとする。そして、コケた。


 ゴーレムさんの兜が取れる。兜の下から、ボイルと完全に同じ顔が出てきた。


 もう、まんまボイルだった。


 両手で顔を隠すが、既に観客にもリエルさんにもばっちり見られてしまった。


 観客がどよめく。


 これは……


「これは……凄いです!」


「へ?」


 僕は思わず叫んでいた。


「こんなに誰かそっくりに作ったゴーレム、初めて見ました!」


「う、うむ。俺こそは、ゴーレム研究院の技術の結晶、”ボイルそっくりゴーレム”だ。くくく、凄まじい完成度だろう」


「はい、顔の毛穴や後退し始めた生え際まで全く同じに作っていますね。まるでボイルさん本人がゴーレムに成りすましているみたいです」


 何故かゴーレムさんのほほが引きつる。


「ただ、『イケメンゴーレムを連れてくる』と言ったのに、別にイケメンではないですね」


「なんだと!?」


 ゴーレムさんの顔が赤くなって、額の血管が膨れ上がった。


 凄く丁寧に作っているなぁ。


『ええと、では、ゴーレムを研究院のゴーレムさん、パフォーマンスを、どうぞ!』


 司会をするリエルさんが何故か苦しそうだ。まるで笑いをこらえているみたいに。


「パ、パフォーマンスって。俺は一体何をすればいいんだ……?」


「さっきボイルさんが言っていましたよ。『宙返りしながらホットケーキをひっくり返せてしかもイケメンなゴーレム』を連れてくるって」


「いやしかし、冷静になったら。俺はホットケーキなんてひっくり返したことなんてなくて……」


「大丈夫です! ボイルさんはあなたを、そういうことができるゴーレムとして作りました! 自分を信じてください。ゴーレムの身体能力は、人間より遥かに高いからきっとやれますよ!」


「うぐぐ……」


 ゴーレムさんがたじろぐ。


『どうしますか? やりますか? それとも、負けを認めますか?』


 リエルさんがゴーレムさんに詰め寄る。観客に背中を向けて見えないようにしているが、完全に獲物をいたぶって楽しむ猫の顔をしていた。


「ええい、やってやるさ!」


 ゴーレムさんはアルカからホットケーキの乗ったフライパンを受け取る。


「せっかくなので、新しいホットケーキを入れておきました。火炎魔法でフライパンを温めて、片面だけ焼いてあります。まさにひっくり返す直前の状態です。熱いのでご注意ください」


 アルカも几帳面なことをするなぁ。


「見ていろ、行くぞ! うおおおおお!」


 ゴーレムさんが飛びあがり、宙返りする!


 ――が、勢いが足りず、腰を思い切り地面に打ち付ける。


「いってえええええええぇ!!」


 さらにそこへ、片面しか焼いていないホットケーキが落下。


”ベチャッ”


 ホットケーキのまだ焼いていない面がゴーレムさんの顔面に着地した。


「熱い! 熱い熱い熱い!」


 ゴーレムさんが顔面をかきむしりながらステージの上で転がりまわる。


 会場は笑いに包まれた。


「マスター、あれはゴーレムではなく、ただの甲冑をかぶっただけのボイルですよ。ゴーレムであれば、あの程度で熱がったりするわけがありません」

 

 確かに、アルカの言うとおりだ。


 せっかく見たことのないゴーレム技術が見れたと思ったのに、残念だ。


『では、そろそろ判定に移りましょう! 会場の皆さん、”ボイルのゴーレムがすごい”と思ったなら赤色の、”ナットの方がすごい”と思ったら青色のハンカチを挙げて振ってください!』


 観客席は、青一色に染まった。


『数えるまでもありませんね。勝者、ナットさん!』


 観客全員が、割れんばかりの拍手で祝福してくれた。


「これでやっと、終わったんだな……」


 勇者パーティーから追放された時から、僕の心にはどこか、劣等感のようなほの暗い感情がまとわりついていた。


 しかし、勇者パーティーから追放されたのは全て仕組まれていたことだとわかり、その黒幕にも完全勝利した。


 文句なしに、これでやっと自分は後ろめたいことのない、1人前の冒険者だと胸を張れる気がする。


「くうううぅ、組織の所有物であるS級アーティファクトを取られてしまった……! これでは、ボスに何と言われるか……! クソ! クソ!」


 ボイルが地面を叩いている。


 僕は勇者パーティーから追放されて今はとても幸せなので今更恨む気持ちはないが、それでも他人を陥れるようなことをしたんだ。自業自得と思ってもらおう。

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