17話 ゴーレムの力で勇者パーティーを圧倒する

 それは、一瞬の出来事だった。


 開幕からわずか1秒。流れるような動きでアーチャーのキキが弓を構え、矢をつがえ、放つ。


 矢は正確に僕の喉元を狙って飛来する。しかし、


”バシンッ!”


 アルカの左手が雷光のように閃き、矢を掴んで止める。


「なに!? あの女、俺様の矢を防いだだと!?」


 一瞬、闘技場内の空気が固まる。一般人には、いつの間にかアルカが矢を握っていたようにしか見えなかっただろう。


「マスターの予想した通りの展開になりましたね。流石です」


 そう、キキが開幕で僕の喉を狙ってくるということは予想出来ていた。


「作戦通り、アルカはキキを押さえてくれ! 僕はカカを倒す!」


 アルカがうなずき、猛然とキキの方へ駆けていく。キキは、その場で矢を連続で放ちながらアルカを迎え撃つ。


 アルカはキキに向かって突撃しながら、飛んでくる矢を片っ端から素手ではたき落としていく。


「すげぇ、あの女の子、走りながら矢を全部弾いてる!」


「嘘だろ!? 動体視力が半端じゃない!」


 人間を遥かに超えるスペックの演算装置を搭載したアルカは、視覚からの情報1秒分を1000回に分割して処理を行っている。


 高速で飛来する矢であっても、後ろについた羽の羽毛1本1本まではっきりと見えているはずだ。


 動体視力が人間とは別次元だ。はっきり言って、矢を防ぎ損ねることはあり得ないだろう。


「オイ、よそ見してるんじゃねえぞナット! お前の相手はこの俺様だ!」


 僕の前に、ヒーラーのカカが立ちはだかっていた。


「クックック! ナット、お前は知らないだろうが、俺はヒーラーになる前は剣士のジョブをやってたんだぜ」


 いや、勇者パーティーにいたころ何度も聞いたぞ。


 ことあるごとに、僕に自慢していたじゃないか。


「ヒーラーの方が才能があったから乗り換えたけどな、剣士としてもゴールド級冒険者の実力があるんだぜ俺は!」


 得意げな顔でカカが剣を抜き、構える。


「いいかよく聞けナット。お前が今からどうなるか、教えてやるよ。お前は今から俺になすすべもなくぶっ飛ばされて、間抜けな悲鳴を上げる羽目になるのさ! オラ行くぜ……ちょっと待て。なんだそのゴーレムは」


 僕は戦闘用のインスタントゴーレムを生み出していた。


 戦闘用に防御力と攻撃力を重視した、大型のインスタントゴーレムだ。身長はカカより遥かに高い。


「行け、インスタントゴーレム!」


 インスタントゴーレムが剛腕を振るい、カカを殴り飛ばす。


「ぽぎゃああああああああああぁ!?」


 なすすべなく殴り飛ばされたカカは、間抜けな悲鳴を上げてぶっ飛んでいった。


 闘技場の地面でワンバウンド。そして、そこから受け身を取って体勢を立て直す。


「こ、この程度で俺にダメージを与えたつもりか?」


 カカの膝はガックガク震えている。立ち上がるのも精一杯といった感じだ。凄くダメージを受けているように思える。


「甘いぜナット! ヒールにはな! こう言う使い方もあるんだよ!」


 カカが自分の胸に手を当てて、


「ヒール!」


 と叫ぶ。


 手から緑色の光が放たれる。


 すると、カカの体がみるみる回復していく。


「へっへっへ、見たかナット! ヒールは他人の体力を回復させるだけじゃなく、”自分の体力を回復させる”って使い方もあるんだぜ!」


 ……そりゃそうじゃない?


「驚いたか? これでお前の計画は丸潰れだぜ」


 全然そんなことはないのだけれど。


 いや、僕はカカの予想外の発言に少しペースを狂わされているかもしれない。


 剣士とヒーラーのジョブを合わせもつカカの実力は半端ではない。ペースを狂わされたり油断して一発僕自身が攻撃を受けたら、即敗北だ。


 気を抜かずに行こう。


「行け、インスタントゴーレム!」


「何度も喰らうかよ!」


 カカが剣でインスタントゴーレムのパンチを防ぐ。


「今度はこっちから行くぜ! 喰らえ必殺、トリプルスラッシュ!」


 トリプルスラッシュ。剣士の扱える上位技で、瞬く間に3連撃を叩き込む。


 ゴーレムがダメージを受ける。


 だが、この程度ではやられはしない。


 すぐにゴーレムは拳を構えて反撃する。


“ドガッ! バキッ!”


 ゴーレムの拳とカカの剣が何度も交錯し、互いにダメージを与える。


 そして激闘を制したのは……。


「はぁ、はぁ! ほんのちょっぴり危なかったが、俺様の勝利だ!」


 カカが得意げに剣を振り上げて見せる。ヒールを何度も使ったので魔力は結構消耗しているはずだ。


 一方のゴーレムはダメージを受け過ぎて土に還ってしまった。


「こんな土人形ごとき、俺様の敵じゃねえぜ! 10体でも20体でもかかって来やがれ!」


「じゃあそうするね」


 カカの周りの地面から、インスタントゴーレムが10体立ち上がる。


「……へ?」


「実は最初のインスタントゴーレム1体は、このインスタントゴーレム達を作るための時間稼ぎだったんだ」


「え……? 嘘だろおい……」


 多分今本気で魔力を振り絞れば、あと20体は追加でインスタントゴーレムを呼べるだろう。


 カカは真っ青になった顔で自分を取り囲むインスタントゴーレム達を見渡す。


 ゴーレムよりもカカの方がはるかに小さいので、まるで1人の子供を大人が囲んでいるみたいだ。


「へっ、こんな土人形如きに負ける俺じゃねえ。喰らえ、必殺トリプルスラッーー」


“べシン!”


「あっ」


 カカを囲んでいたインスタントゴーレムの1体が、カカの剣をはたき落とす。

 

 更に別のゴーレムが、剣を拾おうとしたカカの背中を踏みつける。


”ゲシッゲシッ”


 ゴーレム達がカカの背中を踏みつける。


 ちょ、ちょっとやり過ぎか……?


「カカ、大丈夫!? 必要以上に君を傷つけたくない! 早めに降参してくれ!」


「あ?? 俺様の心配だと? ナットのくせに調子に乗るな! この程度屁でもねぇ! マッサージくらいのもんだ! むしろもっと強くしてほしいくらいだぜ!」


「わかった。じゃあもっと強くするね」


「えっ」


 僕はやり過ぎないように、インスタントゴーレム達にはリミッターを掛けていた。


 が、カカは僕の予想より遥かに耐久力があったようだ。油断していては、こちらが負けてしまう。ゴーレムのリミッターを解除し、全力で攻撃させる。


 全力を出せるようになったゴーレム達がカカを踏んづける。でもきっと、この攻撃もカカにとっては気持ちいマッサージ程度なのだろうな。


”ゲシ! ゲシ!”


 やっていることはマッサージなのだが、カカ1人を巨体のゴーレムたちが蹴っているため、まるでゴーレム達がカカを袋叩きにしているようにも見える。


”ゲシ! ゲシ!”


 ……あれ? カカの動きが止まった。


「ゴーレム達、ストップ! 攻撃を一時中断するんだ!」


 なんとカカはいつの間にか、白目を剥いて気絶していた。


 マッサージ程度にしか効かないと言っていたのは、強がりだったのか……?


『カカ選手、戦闘不能です!』


「マスター、こちらも片付きました」


 アルカが、気絶したキキを引きずって戻ってくる。


「と、いうことは……」


『キキ選手も戦闘不能! これにて決着です!! 勝者、ナット&アルカペア!』


 リエルさんが宣言すると、競技場内がワッと盛り上がった。


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