【勇者SIDE】18話 勇者パーティー、とんでもない相手に喧嘩を売ってしまう
「すげえよ! マジですげえ! あのゴーレムっていう土で出来た使い魔をあんなに沢山呼び出せるなんて、あの少年一体何者だよ!?」
「あれでまだシルバー級って嘘だろ!? プラチナ、いや、勇者級の実力があるだろ!」
「あっちの矢を全部叩き落とした女の子もヤバいぜ!」
闘技場の観客席は、大盛り上がりだった。
当然だろう。元勇者パーティーとはいえ、シルバー級冒険者が現役勇者パーティーのプラチナ級冒険者2人を倒したのだから。
……これは明日から冒険者ギルドで無用な注目を集めてしまうかもしれないなぁ……。
――5分後。
気絶していたキキとカカが目を覚ます。
冒険者ギルド所属のヒーラーさんが出てきて、2人を回復する。
『さて! 負けた2人が目を覚ましたところで、賭けの執行といたしましょう!』
闘技場の中全体に響き渡る声でリエルさんが宣言する。
ギルドの受付のお姉さんが2人、ゲートから闘技場に入ってくる。
1人はずっしりと重そうな袋を、もう1人は書類を持っている。
『それではナットさん、お受け取り下さい! キキさんとカカさんが賭けていた、金貨300枚です』
重い袋と書類を受け取る。観客席から、うらやむような視線が袋に集まっているのを感じる。
「「お、俺たちの全財産が~!!」」
キキとカカが膝から崩れ落ちる。
『いやー、良い表情しますね♪ この仕事をやっていてこの瞬間が一番楽しいです。今夜はおいしいお酒が飲めそうです!』
リエルさんはとても楽しそうだ。
しかし、全財産というのはちょっと可哀そうかもしれない。半分くらい返してあげようか。
と、僕が考えたことにリエルさんが気付いたらしい。
「ダメですよ、ナットさん。そのお金は全額ナットさんのものです。決闘の後で賭けた額を帰るなんてことを認めてしまえば、決闘のルールが乱れてしまいますからね。そのお金が要らないというなら、冒険者ギルドに寄付してもらうことになります」
リエルさんがきっぱりとした口調で言う。
「待てよ立ち合い人! 俺たちはまだ負けてないぞ! さっきのはアレだ、ちょっとうたた寝してただけだ!」
「兄者の言うとおりだ、俺たちはまだ負けてないぜ! お前の判定なんかあてにならないぞ! 勝負を続けさせろぉ!」
僕はため息をつく。
あの2人はこんなにも諦めが悪いのか。
『おっとぉ? 今、聞き捨てならないことを言いましたね?』
リエルさんの顔から笑みが消える。
『実況には私情挟みまくりな私ですが、冒険者ギルド本部所属の人間として、勝負の判定は公平に行っていると宣言しましょう。その私の判定に、不服があると?』
キキとカカが言っていることは無茶苦茶だ。どう考えてもリエルさんの判定が正しい。
「2人とも気絶していたじゃないか。お前らの負けに決まってるだろー!」
「いいわけが見苦しいぞ!」
「潔く負けを認めやがれ!」
観客席からもブーイングが巻き起こる。
しかし、キキとカカはそんなものをまるで気にしていないようだ。
「そうだ、お前、もしかしてナットにワイロでももらったんじゃないのか? そうじゃないとこんな不公平な判定するはずないからな!」
「兄者の言うとおりだ! 不公平だぞ、このワイロ立会人!」
『いちゃもんをつけるのは止めて頂けますかー?』
「「うるさいぞワイロ立会人! ワイロ! 不公平! ワイロ! 不公平! こんな勝負なんて無効だー! 金なんか払わないぞ!」」
キキとカカがゴネまくる。
『……そんな難癖をつけられては、冒険者ギルド本部の権威にも傷がつきますねぇ……。では、冒険者らしく、今度は私と一度決闘して決めましょう』
リエルさんの提案に、闘技場内がまたどよめく。
『キキさんとカカさんが勝てば、ナットさんに支払った金貨300枚を、冒険者ギルド本部が肩代わりしましょう。
私が勝てば、キキさんとカカさんには素直に負けを認めてもらいます。
どうします? やりますか?』
なんだそれは。
あまりにキキとカカが有利な条件じゃないか。
「もちろんやるに決まってるぜ!」
「兄者の言うとおりだ、俺たちは負けても別に損がないからな!」
キキとカカが戦闘態勢に入る。
さっきヒールをかけてもらったので、2人とも完全回復している。
アーチャーのカカは、自分の有利な間合いを取るために闘技場の端に離れていく。
『自分の手で叩きのめすのは趣味じゃないんですけど。偶にはこうして冒険者ギルド本部の力を知らしめないといけませんよね♪』
一方のリエルさんは武器も何も持っていない。相変わらず身のこなしから実力が読めない。
『さぁ、いつでも良いですよ! 冒険者ギルド本部の権威というものをお見せしましょう♪』
「いっくぜえええええぇ!!」
剣を構えてカカが突撃する。
一流冒険者の名にふさわしい、素早い突進、からの一撃が放たれ――
”――ダンッ!!”
闘技場中に響き渡る、重い音。
「ぐっはあああああああああああああああああああああああああああぁーーー!!」
次の瞬間、カカが吹っ飛んでいった。
闘技場の壁に叩きつけられ、そのまま気を失う。
「……アルカ、今なにが起こった?」
「カカさんが剣を振り下ろす直前、リエルさんが一歩踏み込んで拳による打撃を打ち込みました。ただし、人間には目視不可能な速度で。最初の”ダンッ”という音は、リエルさんが踏み込んだ時の音です」
確かにリエルさんの足元には、足と同じ大きさのくぼみができている。
『冒険者としての私のクラスは、【マスターモンク】です♪』
マスターモンクだって!?
格闘技を主力にするクラス【モンク】系列の最上位クラスだ。
マスターモンクに認定されるのはとても難しく、年一回の試験で合格者が出ないことが何年か続くこともあるという。
そんな凄い実力者だったのか、リエルさんは。
「見ていろよ弟よ! お前の仇は俺がとってやるからな!」
リエルさんから100メートル近く離れた場所、闘技場の端からキキが叫ぶ。
「やい立会人! モンクじゃこの距離の俺にはどうやっても攻撃できないだろう! 一方的に倒してやるぜ!」
キキが凄まじい勢いの矢を放つ。
「おいで、ピーちゃん」
パンッ! と。リエルさんが一度手をたたく。
次の瞬間、闘技場は熱風に包まれた。
上空から真っ赤に燃える何かが飛来し、カカの放った矢を焼き尽くす。
その”何か”は巨大な鳥の形をしていた。
――まさか。
いや、それしか考えられない。
リエルさんが呼び出したのは、超レアどころか半ば伝説となっているモンスター、神獣【フェニックス】だ。
キキがパニックになりながら矢を連射するが、フェニックスに当たる前に矢が燃え尽きる。フェニックスの身体がそれほどに高温なのだ。
『私、テイマーのクラスも持っていまして♪』
冗談だろう?
「マスターモンクにまで昇りつめておきながら、全く別系統のクラスを習得。しかも、神獣をテイムするなんて……。常識じゃ考えられない」
『決闘立会人は、勇者の決闘にも立ち会うことがありますからねぇ。このくらい強くなきゃいけないんですよ。ちなみに、私の実力は13人いる勇者のうち、大体真ん中くらいですかね』
そんな、リエルさんよりまだ強い存在がいるなんて。
『そんな顔しないでくださいよ、ナットさん。私からすれば、ナットさんの方がよっぽど規格外ですよ♪ きっと1月もすれば、私よりもずっと強くなっていますよ』
「お世辞はやめてください……!」
『いやいや。私、本心で言っています! ナットさんはもっと自分の実力とポテンシャルをご自覚くださいねー?』
とんでもない人からお墨付きをもらってしまった。
『さて話を戻しましょう。キキさん、どうしますか? まだ私の判定に文句がありますかー?』
「なななななな無いぜ! 俺たちの負けだぜ!」
キキは慌てて弓を捨てて両手を上げ、降参のポーズをとる。
『と、いうわけで! 今度こそ誰の文句もなく、決着となりました――!』
リエルさんが宣言すると、闘技場に拍手が巻き起こる。
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