追放され、ヤケクソで全財産投入して【ゴーレム】作ったら何故か美少女化した上に超強い〜僕はこいつと旅に出る〜

音速炒飯

第1話 ゴーレム技師、追放される

 勇者。


 それは、冒険者にとって憧れの存在だ。


 この世にわずか13人しか存在しないエリート中のエリート。


 勇者の称号を得ると、超高難度ダンジョンへの立ち入りを許可される。そして、そこで得られる希少な素材は、非常な高値で売れる。


 富と名誉を約束される存在。それが勇者だ。


 男の子は誰しも一度は勇者にあこがれる。


 そして僕、ナット=ソイルレットも勇者パーティーの一員なのだ。


 たった今、この瞬間までは。


「ナット、君をこのパーティーから追放する」


 いつもの酒場で報酬を分配している最中、突然そう切り出された。


 言ったのは、パーティーのリーダーを務める、女勇者ハロン様。


 代々勇者を輩出している名家の出身で、高い戦闘能力と整った容姿で男冒険者たちからとても人気がある。


「ど、どうしてですか!?」


「「理由なら俺たちが説明してやるよ」」


 そう言ったのは、パーティーのメンバーの、双子のキキとカカ。二人ともガタイが良くて少し荒っぽい。


「それはお前が“ゴーレムのメンテナンスは僕にしか出来ない”なんて俺たちを騙して、分け前を不当に受け取っていたからだ」

「兄者の言う通りだぞ!。誰でもできる簡単な仕事で高い金を貰いやがって。許せないぜ!」


「な、なんのことだ?」


 僕のパーティーでの役割は、ゴーレム技師だ。


 ゴーレムとは、土をこねて作った自動で動く人形だ。


 このパーティーでは、体長3メートルを超える大型ゴーレム戦闘要員兼荷物運びとして使っている。


 メンバーはみんな、このゴーレムはとても役に立っていると言ってくれていた。


 ゴーレムはかつてほろんだ文明の技術なのだが、僕が古文書を読み解いて復活させた。


 ゴーレムを作ったりメンテナンスできるのは、世界にまだ僕しかいないはずだ。


 しかし、


「昨日通りすがりの親切なおじさんが教えてくれたんだよ。“実はゴーレムのメンテナンスは実はそんなに難しくない”ってな」

「その親切なおじさん、メンテナンスのやり方を書いた本もくれたんだぜ!」


 双子が、歯茎がばっちり見えるほどの笑顔で胡散臭い本を見せつけてくる。


「ま、待ってくれよ。僕は嘘なんてついていない! みんなそのおじさんに騙されてるよ!」


 勇者様ならわかってくれるはずだ。


 期待をこめた視線を勇者様に向ける。


 しかし、


「ナット。私たちを騙すだなんて、君は最低の男だな」


 その期待は、粉々に打ち砕かれた。


 勇者様の目には、侮蔑と失望の色があった。


 これまで一緒にダンジョンに挑んだ僕よりも、昨日会ったばかりのそんな胡散臭いおじさんを信用すると言うのか。


「理由はそれだけではない。ナット、君はパーティーの中で、うるさいことを言い過ぎている」


 勇者様が、厳しい口調でそういった。


 何のことだ? 僕はそんなにうるさいことを言っているつもりなんて。


「例えば料理だよ! 俺たちは肉料理が喰いたいって言ってるのに、一緒に野菜も出しやがって!」

「兄者の言うとおりだ! 野菜なんか要らねぇ、もっと肉を食わせろ!」


「そ、それは食事担当としてパーティーのみんなの健康を考えてのことだよ」


 僕は訴える。だが、兄弟も勇者様も納得してくれないようだ。


「それだけじゃねぇ、俺たちの進む道を勝手に決めやがって! 俺たちは気分で道を選びたいんだよ」

「兄者の言うとおりだ、進む道くらい自分で決めさせやがれ!」


「僕は、ダンジョン奥地への最短ルートを選ぶ、マップ作成担当としての仕事をしていたんだよ」


 前に一度みんなの気分で道を選んで探索したことがあったが、同じ場所を何度もグルグル回っただけだった。


 このパーティーでは、僕が道案内しないと全く探索が進まない。


「他には、せっかく宝箱を見つけたのに『あれには近づいちゃいけない』なんて言いやがって」

「兄者の言うとおりだ、なんでお宝を見つけたのに我慢しなきゃいけないんだよ」


「だってあれはどう考えても宝箱に擬態したモンスター”ミミック”だったし。パーティーのみんなをモンスターの不意打ちから守るのも、索敵担当である僕の仕事だから……」


 僕はパーティーで、ゴーレムのメンテナンス以外に、料理と皿洗いとマップ作成と索敵とトラップ解除とモンスターの素材剥ぎ取りと洗濯とギルドへの報告書作成を担当している。


「ナット、君がこれまでやっていた程度の雑用くらい、私たちがその気になれば簡単にこなせるさ。君はやはり、私のパーティーには不要だ」


 勇者様も兄弟も、自分では目玉焼きも作れない。どこからそんな自信が湧いてくるんだろう。


「そして、今回のダンジョン探索の報酬もなしだ。君は私達を騙していたわけだからな」


 そんな……。今回の探索も頑張ってパーティーをサポートしてきたのに……。


「わかりました。では、せめてこれを渡しておきます。僕が作ったゴーレムのメンテナンスの説明書です。ゴーレムが調子が悪くなった時は、これを読んで……」


「いらねーよ! 親切なおじさんに貰った巻物があるからな!」

「兄者の言うとおりだぜ! お前の力なんぞ、誰も必要としちゃいないんだよ!」


 双子が、僕の渡した説明書の束をビリビリに破り捨てる。ひどい、せっかく誰でもわかる様に丁寧に作ったのに……。


「さぁ、これで次からは報酬は3人で山分けってことだな!」

「最高だな兄者!」


 僕は、1人酒場を出て行く。


「「やーまわけ! や―まわけ! へいへいへいへいやーまわけ!」」


 酒場を出ても双子の下品な笑い声が聞こえてきた。


――――――――――――


 僕は、自分の宿に戻って、ベッドに倒れ込む。


 子供の頃から、勇者に憧れていた。


 誰も見たことのない、S級ダンジョンの最奥を自分の力で踏破してみたかった。


 しかし、僕に剣の才能はなかった。魔法の勉強は得意だったが、発動が遅くて実戦では使い物にならなかった。


 どうしてもS級ダンジョンの最奥へ到達する夢を諦めきれなくて色々と試している時に、ゴーレムという古代技術に出会った。


 僕は運が良かった。たまたま実家の近所に住んでいたお姉さんが、古代文字の解読がとても得意だったのだ。お姉さんに解読してもらいながら、僕は血の滲むような努力をしてゴーレム技術を復活させた。


 お姉さんとも、いつか必ず自分の力でS級ダンジョンの最奥にたどり着くと約束した。


 そして、自分が勇者になることはできなかったが、ゴーレムのメンテナンス要員として勇者パーティーの一員にしてもらえることになった。


 あの時は、すごく嬉しかったなぁ。


 それなのに、今はこのざまだ。パーティーメンバーのために一生懸命雑用もこなしてきたというのに、僕よりも通りすがりのおじさんの言葉を信じるなんて。こんな話があるか。


 それから一晩、寝ずにこれからどうしたいか考えた。


 ――結果、どうしても諦めることはできなかった。


 勇者になるのは難しいかも知れない。それでも、ダンジョンの奥へ挑み続けていきたい。


 他の生き方は考えられない。


 僕は、最強のゴーレムを作ることにした。


 もう他人なんてものには期待しない。僕とこのゴーレムだけで、ダンジョンに潜って冒険者として名を上げてやる。


 失敗したら飢えて死んだって構わない。手持ちの財産をつぎ込んでやる!


 幸いこれまでの勇者パーティーでの稼ぎの大半が残っている。首都に豪華な一軒家を建てられるほどの額だ。


 金の力で、最高の材料を集める。そしてこれまで身につけた技術を詰め込む。


 何度も設計図を書いては破り捨て、納得できるだけの設計を完成させる。


 ――1週間後、ついに僕の最高傑作が完成した。


 大きさは僕とさして変わらない。しかし、パワーもスピードも人間より遥かに高い、はずだ。


「さぁ、目覚めてくれ……」


 震える手で、僕はゴーレムを起動する。


 その時、ゴーレムの体が光に包まれる。


「な、なんだ!?」


 光の中でゴーレムが姿を変えていく。


 光が消えた時、土人形だったゴーレムは美少女の姿になっていた。


 ゴーレムがゆっくりと起き上がり、目を開ける。


「――おはようございます、マスター」

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