第2話 ヤケクソで作ったゴーレム、美少女化した上にめちゃくちゃ強い

 何が起きたのか、僕にもわからない。ゴーレムが意思を持ち、喋るなんてこんなことはこれまで一度もなかった。

 まして女の子の姿になるだなんて、考えてもみなかった。


 起動する前に、気まぐれで僕の代えの服を着せておいてよかった。


 改めてゴーレムの姿を見る。


 歳は僕と同じくらい。肩まで伸びた青く艶やかな髪。陶器のように白い肌。


 胸は豊満で、僕が渡した男物の服がはちきれそうだ。


 どれだけじっくりみても、普通の人間(ただしめちゃくちゃかわいい)にしか見えない。


「どうしてゴーレムが自分の意思を持って、女の子の姿になったの?」


「それは、私にもわかりません。私がわかるのは、あなたが私のマスターである事だけです。よろしくお願いします、マスター」


 アルカが僕の前で膝をつく。


「よ、よろしく……」


 これまで人に命令されることはあっても、人に命令する立場になんてなったことがない。


 こういう時、どんな態度を取るのが正解なのだろう。


「そうだ、君の名前は決めてあるんだ。“アルカ”っていう名前なんだけど……どうだろう」


「アルカ、ですね。……気に入りました。このアルカ、いつどんな時でもマスターの命令に従うと誓いましょう」


 その時だった。


“ドゴオオオオオォ!!”


 窓の外から凄まじい破壊音が聞こえてきた。


「大変だ、街にモンスターが現れたぞ!」


 逃げ惑う街の人たちの悲鳴が聞こえる。冒険者を目指すものとして、この事態を見逃すわけにはいかない。街をモンスターの脅威から守るのも、冒険者の仕事の一つだ。


 僕はアルカの方を見る。


「もちろん、私はいつでも戦闘可能です」


 アルカがうなずいた。


「よし、行こう!」



――――――――――


 僕とアルカは、モンスター襲撃の現場である広場に到着する。


 そこには、想像以上に強大なモンスターが現れていた。


 フレアウルフ。炎を纏う、巨大な狼だ。四足歩行だというのに、頭の位置が大人の背丈より高いところにある。


 フレアウルフの身体から発せられる熱によって、広場の露店や植え込みが燃えている。


 このモンスターに対処できるのは、精鋭のゴールドランク冒険者だろう。


 対して、アルカの装備は剣一本。僕が勇者パーティーにいた頃に、自分の身を守るために使っていた安物だ。防具に至ってはただの服。フレアウルフを相手にするにはあまりに頼りない装備だ。


 ――普通なら。


 アルカが、僕が設計した通りのスピードとパワーが出せるなら、この貧相な装備でも勝てる。


 フレアウルフが息を吸い込み、獄炎の息を吐こうとする。その先には、一般市民。


「頼んだぞ、アルカ!」


「お任せください!」


 アルカが走り出す。風より早く駆けつける。そして、剣で横薙ぎの一撃を繰り出す。


「やぁ!」


 アルカの一一閃が、炎を切り裂いた。


 フレアウルフも予想外の事態に混乱しているらしく、一瞬硬直する。


 その一瞬のスキを、アルカは見逃さない。


「やああああああぁ!!」


 アルカが渾身の一撃をフレアウルフに叩き込む。


 強靭なフレアウルフの毛皮を、筋肉を、内臓を、骨を、鮮やかに両断した。


 フレアウルフだったものが地面に落ちる。


 そしてアルカは晴れやかな笑みで、僕にこう言うのだった。


「勝ちましたよ、マスター!」

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