13話 冒険者としての初仕事は害獣退治

 ――冒険者試験に合格した翌日。


 僕とアルカは冒険者ギルドに来ていた。


「しまった、早すぎたな……冒険者ギルドが開く前に着いちゃった」


「ふふ。張り切りすぎですよ、マスター」


 正直、冒険者として自分の手でダンジョンを探索するのが楽しみ過ぎる。


 実のところ、昨日もあんまり寝れていない。


 そうこうしている間に、冒険者ギルドが開いた。


「では、このブロンズ冒険者でも受注可能なクエスト2つを受注させてください」


「かしこまりました。では、こちらの契約書にサインを」


 冒険者には、いくつかのランクが設定されている。


 入った直後は全員ブロンズ冒険者からスタート。そこから、シルバー・ゴールド・プラチナと昇格していく。そしてさらにその上に、13人の勇者がいる。


 ランクを上げるには、クエストごとに設定されている貢献度ポイントを貯めていく。そして、貢献度が基準を超えたら昇格試験を受けることができる。


 僕が目指すのは、勇者を除けば最上位のプラチナ冒険者。道のりは途方もなく長いけど、一歩一歩頑張っていこう。


 僕が今回受注したのは、薬草の採取とラージラビットの討伐だ。


 薬草は体力回復ポーションの素材になる草で、ダンジョン指定されている森の一部にしか生えないため、一般人ではなく冒険者が採取することになっている。


 はっきり言って薬草摘みは地図さえ読めれば誰でもできる仕事なので、駆け出し冒険者が装備を整えるための下積みによく受けている。


 もう1つのラージラビットは、畑を荒らす害獣だ。戦闘力は大して高くないが逃げ足は速いので、なかなか厄介な相手だ。そしてその分報酬は割高に設定されている。


 2つのクエストは常に発注されているので、いつでも受けることができる。


 どちらのクエストも、摘んだり駆除した量に応じて報酬が増える。


「マスター、ブロンズ冒険者でも受注できるクエストは沢山ありますが、なぜこの2つを選んだのですか?」


「ラージラビットの方は、単純に報酬が割高だから。なかなか捕まえるのが難しい害獣だけど、僕には捕まえるための作戦がある」


 アルカに火炎放射形態フレイムモードを追加するとき、フレアウルフの素材を耐火用防具に設定した。あの時の防具の加工は僕の専門外だったので、街の防具屋に依頼している。


 その時の費用で大分使ってしまい、今の手持ちは銀貨2枚しかない。普通に暮らしているだけでも5,6日でなくなってしまう金額だ。なので、早いところ安心できるだけのお金を蓄えたい。


「薬草摘みを受注した理由は……じつは、駆け出し冒険者らしいことがしたいっていう理由かな」


 冒険者はほぼ全員、駆け出しのころに薬草摘みを受注している。


 ならば僕も、最初は薬草摘みというものを経験しておきたいと思ったのだ。


 いわゆる、”形から入りたい”というやつだ。


 勇者パーティーにいたころは、S級ダンジョンしか潜っていなかったから、駆け出し冒険者らしいことを僕は一切したことがない。


 お金の心配さえなければ1週間くらい薬草摘みだけやって、駆け出し冒険者生活を嚙み締めたいくらいだ。


 まぁ、流石にそんなことはしないけれども。


 ――というわけで。


 早速馬車を乗り継いで、2つのクエストの現場である森へと到着した。


 F級ダンジョン、ナーフィーの森。


 そこまで強力なモンスターが存在しないので、駆け出し冒険者がよくお世話になるダンジョンだ。


 が、僕は入るのは初めてだ。


「わくわくするなぁ」


「私も少し、楽しみです」


 アルカの顔にもウキウキした表情が浮かんでいた。


 一緒にダンジョン探索する以上、アルカにも楽しんでもらいたいと前から思っていた。僕は少し安心した。


 こうして僕とアルカは、冒険者としての1歩を踏み出した。


 ダンジョンに1歩踏み込むと、頭上には緑が広がっていた。


 一見すると、普通の森のように見える。


 が、ここはもうモンスターの生息地なのだ。索敵は怠らない。


 程よい緊張感が、何故か心地よく思える。


 森の中は視界が悪く、目印が少ない。駆け出し冒険者なら着くのに一苦労だっただろう。


 だが、僕らは冒険者ギルドから支給された地図を読み、すぐに目的地にたどり着いた。


 思えば、こういう地図を読んだりするような、戦闘以外の冒険者に必要な力って勇者パーティーにいたころにかなり鍛えられたなぁ。


 アルカに周りの警戒を任せて、いよいよ薬草摘みを始める。


 丁寧に1本1本摘み取る。


 薬草がまた生えてくるように、全部摘み切らずに少し残して別の場所に移る。


 ――数時間後、麻袋の中に十分な量の薬草が貯まった。


 心地よい達成感。


 指に染みついた薬草の青臭さも、嫌な気がしない。


「じゃあ、お昼にしようか」

 

 リュックの中からバスケットを取り出し、僕が作ってきたサンドイッチを食べる。


「マスターの作った料理はいつも美味しいです」


 そう言ってアルカがサンドイッチを頬張る。


 なぜか、ゴーレムなのにアルカも食事をする。


 そして食べたものは全て魔力に変換されている、みたいだ。


 しかも味覚までキッチリ備わっている。


 アルカが人間の姿になったのと同じく、この辺りは僕にも理由が分かっていない。


 こうして食事を終え、いよいよラージラビットの駆除へ向かう。


――――


「――これは、酷いな」


 ラージラビットの住処である草原は、穴ぼこになっていた。


 子供が通れそうな穴がそこかしこに空いている。歩くのも一苦労だ。


 そして、隣には大規模な農場。


 頑丈そうな木の柵で囲われているのだが……。


 ダダダッ!


 子供ほどの大きさがあるウサギ――ラージラビットが柵に空いた隙間を通って農場から飛び出してきた。口にはニンジンを咥えている。


「今だ、行け!」


「ヴォウ!」


 先客の初心者テイマーが、狼系のモンスターにラージラビットを追いかけさせる。しかし、


「クソ、速過ぎる!」


 ラージラビットは身軽なフットワークで狼を翻弄する。


 そして、地面の穴に飛び込んだ。


 追いかけていた狼は入り口で身体がつっかえる。


 中で繋がっているのだろう、別の穴からラージラビットが飛び出してきた。そして、テイマーと狼系モンスターをおちょくるように優雅にニンジンを食べ始めた。


 他の穴からも次々とラージラビットが飛び出してくる。そして、農場に飛び込んでいった。


 なるほど、これは農場が割高の報酬金を出してでも駆除したくなるわけだ。知識としては知っていたが、現物を見て納得した。


「マスター、どんな作戦でラージラビットを捕まえますか? 私はあの狼系モンスターよりは多少速く走れますが、それでもかなり難しいと思います」


「こうしよう」


 僕は、地面に手を当ててインスタントゴーレムを作り出す。


 それも大きさは小さめ。子供サイズ。


 スピードとパワーは控え目。冒険者以外の人間の大人と喧嘩したら、ギリギリ勝てる程度。


 かなり節約したスペックなので、少ない魔力で動かすことができる。


 そしてその分、たくさん作り出す。


 その数、20体。


「行け、ミニゴーレム達! 穴に入ってラージラビットを追い詰めろ!」


 僕の指示で、一斉にミニゴーレム達が動き出す。


 巣穴を襲撃され、ラージラビットがたまらず地上に飛び出す。が、そこではアルカが待ち構えている。


「――捕まえました!」


 アルカがラージラビットの耳をがっちり掴む。


 僕達は草原の端から、ラージラビットの巣穴を襲撃する。


 慌てて飛び出してくるラージラビットを、片っ端からアルカが捕らえ、麻袋に放り込んでいく。


「しまった、マスター! 1羽逃がしました!」


 一部のラージラビットは運よくアルカが待ち構えていたのとは違う穴から脱出に成功する。


「大丈夫! そのまま追い詰めて! ミニゴーレム達は穴の出入口を封鎖!」


 ラージラビットには、全力で走れる時間が短いという弱点がある。あまり長時間走ると、過負荷で心臓が破裂するらしい。


 一方のアルカはゴーレムなので疲労というものが存在しない。


 なので、穴に逃げ込みさえさせなければ、アルカが簡単に捕まえてくれる。


「しまった、持ってきた麻袋が足りないな。……すいませーん、そこのテイマーさん、空の麻袋5つと、ラージラビットを詰め込んだ麻袋1つを交換しませんか?」


「ええ!? いいのか、俺がめちゃくちゃ得しちゃうけど!?」


 自分では1羽も捕まえられなかったテイマーさんは、ぎっしりラージラビットの詰まった袋を持って満足げに帰っていった。


 麻袋を補充して、ラージラビットの狩りを続行。


――こうして、日が暮れるまでに、僕の背丈近い大きさの麻袋20袋に、ギチギチにラージラビットを詰め込むことができた。

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