35話 プラチナ級冒険者に昇格する

 ゴブリンたちを全滅させた翌日。


 僕とアルカは、ゴールド級への昇格試験を受けに、街の外れにある冒険者ギルドの支部に来ていた。


 冒険者試験を受けに来た時と同じ場所だ。


 今日の試験内容は、実技試験、筆記試験、応急処置実技試験の3つ。


 すべての試験で合格点以上を出せれば、ゴールド級へ昇格できる。


「では、早速第1試験の説明を始める」


 試験監督は、前回の冒険者試験の時と同じ人がつとめている。


「試験内容は冒険者登録試験と同じ、ターゲットの破壊試験だ」


「はい、頑張ります! あれから僕もアルカも強くなりました。今度は、前の半分の時間で全部のターゲットを破壊してみます」


「いや、やらんでいい」


 !?


「この試験の合格ラインは、時間内にターゲットを半分破壊することだ。


 ナット君は前回の試験で合格ラインの倍の数字を出している。今更テストは不要だ。


 というか、直すのが大変だからやりたくない!」


 やりたくないと言われてしまった。


「というわけで、第1試験はパス。第2試験へ移る」


 第2試験は筆記試験。冒険者の心構え、モンスターの知識、ダンジョン内でのサバイバル知識、などなど。冒険者にとって必要なさまざまな知識が出題される。


「――そこまで! では、採点に移る」


 なんとか9割は取れたんじゃなかろうか。勇者パーティー時代に色々と勉強したので、こういうのは得意だ。


「採点の結果、文句なしに合格だ。おめでとう。それでは、最後の試験に移る」


 最終試験の内容は、ヒール魔法を使わない治療だ。


 最終試験を行う部屋の中央には、ベッドがおかれている。


 そこに、呻いている男性が横たわっている。


「こちらが、今回の患者だ。魔法で疑似的に症状を作り出している」


 男性は顔が赤くなっており、大量の汗をかいている。とても苦しそうだ。


「この患者の想定状況は、A級ダンジョン”バルエル火山”の奥地。症状は見ての通り発熱と発汗」


 試験監督さんがシチュエーションを説明していく。


「このダンジョンでは有毒ガスが発生している。毒を持つモンスターも、エビルスネーク、ポイズンスネーク、マッドスネークの3種類が生息している。この患者の症状を正しく分析して、治療してくれ。薬や水は、隣の机に並べてある」


 回復の魔法が使える持つヒーラーがいればどの毒でも簡単に解除できる。しかし、薬で毒を治すには知識がいる。


 間違えた薬を投与すると、かえって悪化することもある。


 僕はじかに触れて、患者役の症状を確認する。


 ……妙だ。


 有毒ガスやモンスターの毒とは、微妙に症状が違う。


 まさか、新種の毒を持つモンスターか?


 いや、そんなものを出題するはずがない。


 ……そうか、分かった。


 僕は、薬ではなく机の上から水の入った革袋を手に取る。


 そして、水を患者の上に掛ける!


「マスター、一体何を!?」


 僕は水を口元にも運んで患者に飲ませる。


「……ダンジョンに住んでいる蛇モンスターの情報や、解毒剤は引っ掛けですね。この症状は単なる”熱中症”です。体を冷やし、水分と塩分を取って安静にしていれば回復するでしょう」


 ……試験監督が、ゆっくりとうなづく。


「見事だ。よくぞ見抜いた、ナット君。これは、よくある事故だ」


 試験監督さんが、拍手しながら言う。


「毒を持つモンスターがいるダンジョンだから、単なる熱中症を毒と勘違いして治療する。基本を忘れてしまったためにこういうことが起きる。


 この試験は、基本を忘れるなという、冒険者ギルドからのメッセージでもある。


 合格おめでとう、ナット君」


 僕は試験監督さんから差し出された、プラチナ級冒険者のライセンスを受け取った。

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