39話 他の勇者候補を圧倒的な力で蹴散らす

「マスター、テントにいた3人を撃破しました。……というか、勝手に降参しました」


「ありがとう、よくやった」


 僕は、アルカの頭を撫でる。


 アルカは嬉しそうに目を細める。


 アルカは、周りに人がいないときには、よくこういうスキンシップを求めてくる。


「よし、じゃあ次の作戦を立てよう」


 アルカには、今回新しい形態モードを追加した。


 このサバイバル形式の試験なら、必ず役立つはずだ。


 ――――


”ドドドドドドド!”


 大型のインスタントゴーレムたちが、勇者候補3人組を追いかけている。


 インスタントゴーレムの足の速さは一般人程度。鍛えられた勇者候補達にはとても追いつけない。


 だが、振り切られたとしてもまたインスタントゴーレム達は勇者候補達を見つけ出し、追いかけ始める。


 今は5回目の追いかけっこの最中だ。


「なんで、なんで何度振り切って隠れてもすぐに居場所がバレるんだよ!? 俺たちに透明な監視役が張り付いて、ずっとあの土の使い魔に居場所を教えてるとでもいうのかよ!」


 勇者候補3一組のリーダーが叫んだ。


 その通りである。


 勇者候補達のすぐ隣を、アルカが追いかけている。


 隠密形態ステルスモード


 前に捕まえた、身体の色を変えて周りの風景に溶け込むモンスター、レインボーリザードの皮を使って搭載した機能だ。


 普段は目元以外を覆った黒装束なのだが、必要な時には周りの景色と同化してほぼ完全に見えなくなる。


 アルカには心臓の鼓動も呼吸音もないので、見つけることはほぼ不可能だ。


 ちなみにデザインは、極東の国に存在するという幻の隠密職”ニンジャ”の服装を参考にしている。


 専用の武器として、


 光の反射で目立たないように黒く塗った、短い反った剣


 同じく黒塗りの、独特の形の投げナイフ


 を持たせている。


 極東ではこれを”ニンジャト―”と”シュリケン”と呼ぶらしい。


「ええい、キリがない! こうなったらここで迎え撃つぞ!」


 ヤケになった勇者候補3人組が剣を抜いてゴーレム達に挑んでくる。


 だが、その背中はがら空きだ。


 そこを見逃すアルカではない。


”ドスッ”


”ドスッ”


”ドスッ”


 アルカが首筋に手刀を3回見舞い、勇者候補3人を気絶させる。


「この#形態__モード__#があれば、直接戦闘を避けて消耗を抑えながら一方的に相手を倒せます。流石です、マスター!」


 勇者候補達がつけていたクリスタルを破壊しながら、アルカが嬉しそうに報告する。


「よし、それじゃあ次の相手を仕留めに行こう!」



――――


 次の相手は、勇者候補6人組だ。


 僕たちが作った砦ほどではないが、結構大掛かりな土の壁を作って、その奥に引きこもっている。


 ゴーレムの群れを突撃させても、勝てるだろうがかなりの数が撃破されてしまうだろう。


 正面から戦うのは避けたいところだ。


 と、いうわけで作戦を立てた。


「アルカ、火炎放射形態フレイムモードだ」


「了解しました」


 アルカが形態変更モードチェンジする。そして、火炎魔法で勇者候補たちの拠点の周りの樹に火を放つ。


「なんだこれ!? 山が燃えてる?!」

「やばいやばい、逃げろ!」


 勇者候補達が拠点から飛び出してくる。


 あらかじめゴーレムたちに周りの樹を切らせておいたので、炎が必要以上に広がる心配はない。燃えるのは、勇者候補達の拠点の周りだけだ。


 周りは火事になっているが、勇者候補達は冷静だった。適当な方向に逃げず、全員でまとまって川の方へ逃げていく。


 しかし、その先にも罠があるのだ。


「みえた、川だ! 飛び込め!」


 勇者候補達が川に飛び込む。


「ぷはぁ、助かった――ゴバ!?」


 水面から顔を出していた勇者候補達の1人が、急に水中に引きずり込まれる。


「何よこれ!? キャァ!」

「何が起きて――うわ!」

「水中だ! 水中に何かがいる――ぐわぁ!」


 勇者候補達4人が次々と水中に引きずり込まれる。


 周りが火事になったら水辺に逃げるだろうと思って、あらかじめ防水加工したゴーレムを水中に待機させておいたのだ。


 ゴーレムは呼吸しないので、防水加工さえすれば何時間でも水中にいられる。


 今頃ゴーレム達が水中で勇者候補達のクリスタルを破壊しているだろう。


 溺れないように、ゴーレム達が引きずり込んだ勇者候補達を浅瀬に運んでいく。


「くそ、一体何が起こっているっているんだ……?」

「生き延びたのは俺とあんただけだ、リーダー」


 2人の勇者候補が何とか岸に泳ぎつく。1人はリーダーらしい。

 

 どちらも30代くらいの男性で、貫禄がある。


「とりあえず水辺から離れて、作戦を……うわ!?」


 リーダーではないほうの勇者候補が悲鳴をあげる。ゴーレムに足首を掴まれたみたいだ。


 必死に岸にしがみついて抵抗するが、ゆっくりと水中に引きずり込まれていく。


「リーダー、俺はもうだめだ、リーダーだけでも逃げてくれ……!」

「馬鹿なことを言うな! 最後まで一緒に勝ち残ろうって、約束したじゃないか!!」


 先に岸に上がったリーダーが、勇者候補を引き上げようとする。だがそれでも、勇者候補はゆっくりと水に沈んでいく。


「リーダー、これを受け取ってくれ……」


 沈んでいく勇者候補が、剣をリーダーに渡す。


「それはお前が命より大切にしている宝剣じゃないか! そんなもの受け取れるか!」

「頼むよリーダー。リーダーの腕とこの剣が合わされば、誰にも負けない。俺たちの思いを継いで、勇者になってくれ……!」


 リーダーが剣を受け取る。


 同時に、勇者候補が完全に水中に引きずり込まれる。


「分かった……俺は! おまえの分まで勝ち抜いて、必ず勇者の称号を手に入れる! 見ていてくれ!!」


 リーダーが熱い涙を流しながら、空に向かって叫ぶ。


 ――そしてその背後には、隠密形態ステルスモードのアルカがいた。


”ボチャン!”


 アルカがリーダーを川に突き落とす。


「うわああああああああああああああああああぁ!!」


 リーダーは水中のゴーレムたちにあっという間に引きずり込まれる。


 10秒後。


 水に引きずり込まれた2人は、クリスタルを破壊された状態で、ゴーレムに浅瀬まで運ばれてきた。


 こうして、僕とアルカは誰もケガなどさせることなく勇者候補6人組を撃破したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る