54話 人類未到の領域、S級ダンジョン第二階層へ向かう
僕とアルカは、傷だらけのマロンを家に運ぶ。
地上から持ち込んだポーションを飲ませると、今度は食料が欲しいという。
保存食にしようと思っていたマスの燻製と水を持ってくると、すごい勢いで口に運んでいく。
「美味しいのニャ! 美味しいのニャ! 3日ぶりに食べるまともな食事は美味しすぎるのニャ……!」
涙を流しながらマロンは食事する。体格は子供なのだが、食べる量は大人を遥かに超えている。というか、その小さい身体のどこにその量が収まるんだ……?
「……ありがとうございましたニャ! おかげで元気になりましたニャ!」
マロンがペコリと頭を下げる。どうさ1つ1つが可愛いらしい。
「改めて自己紹介しますニャ。ボクはキャト族のマロン。このダンジョンの1つ下の層に住む一族ですニャ」
下の層!?
僕らが目指す、第2層から来たというのか。
このダンジョンの2層は、記録に残っている範囲では到達した勇者がいない。
そんな未知の領域から来たのか。
「ボクらは小さな村で平和に暮らしていたのですが、訳あって村が壊滅。住処を追われたのニャ」
きっと、モンスターの襲撃だろう。ダンジョンの中で暮らしていればありうる話だ。
「ボクは仲間36人と共にそして新たな土地を求めて、ご先祖様から言い伝えられている、上の層につながるという階段を探し、何とか逃げ伸びたのですニャ」
僕とアルカは無言で聞き入る。
「階段を登った先は、湖の中心にある小さな島でした。群れのリーダーであるボクが安全に岸まで渡れるか試すために泳いでみたのですが、途中で巨大な水棲モンスターに襲われたのですニャ。きっとあれが、伝説に聞く【階層守護モンスター】ですニャ」
「階層守護モンスター……!」
S級ダンジョンの各層に1体ずつ存在するという、次の層への入り口を塞ぐ最終関門。
他のモンスターとは桁違いの戦闘力を誇るという。
おとぎ話どころか、神話の中の存在のようなものだ。
それをマロンは見たという。
2層への入り口といい、次々と飛び出してくる伝説級の単語に、僕の手は震えていた。
「階層守護モンスターから何とか逃げ切って、ボロボロになりながら森をさまよっていたところ、運よくナット様の村にたどり着いたの言うわけなのですニャ。ナット様がいなければ今頃モンスターの餌になっていたところですニャ。感謝してもしきれないのですニャ
そして、厚かましいのを承知で1つお願いがありますのニャ。どうか、湖の真ん中の島にいまだ取り残されている仲間を助けるために、力を貸していただきたいのですニャ!」
マロンが地面に這いつくばる。
人間でいう土下座のポーズなのだろうけど、キャト族がやると猫が伸びをしているようにしか見えない。ちょっと可愛い。
「もちろん。頭をあげて、マロン。今すぐ助けに行こう」
「本当ですかニャ!? ありがとうございますニャ! キャト族一同、どんなことをしてもこの恩は返しますニャ!!」
マロンが肉球のついた手で僕の手を握る。柔らかくて少しひんやりした、不思議な感覚が僕の手のひらを包む。
「では早速行きましょうニャ! 迷わずまっすぐ行けば、1時間掛からないですニャ」
困っているキャト族さん達を助けたいという想いと、2層への入り口にたどり着けるという高揚感。2つの想いを胸に、僕達はマロンさんと一緒に2層入口へ向かう。
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