10話 試験補佐官にナメられる
「さて。色々と規格外な受験者がいた気がするが、気を取り直して。第2試験、実戦形式での試験を始める!」
試験監督さんが前に出て宣言する。
「各冒険者は試験補佐官と1対1で模擬戦を行ってもらう。補佐官は模擬戦用の武器を使うので、怪我をすることはない。……では、試験開始!」
試験監督さんが宣言すると同時に、試験補佐官の人たちが近くにいた受験者と模擬戦を始める。
……というか、我先にと補佐官の人たちが受験者の相手をしたがっているような……?
「おいどきな、この受験者は俺が相手する! お前はあっちのヤバイペアの相手でもしてな」
「なんだと? 俺が先にこの受験者に声かけたんだぞ!?」
補佐官が血眼で受験者の取り合いをしている。
そして、誰も僕とアルカの方を見ない。
……というか、明らかに避けられている。
「そうか、僕みたいな魔法でも剣でも弓でもない得体のしれない技術を使うやつは冒険者として認めてやりたくない、ということなんだろうな……」
「マスター、避けられているのは間違いないですが、恐らくマスターが想像しているのとは違う理由だと思いますよ」
そして、他の受験者は全員模擬戦を始めてしまった。
模擬戦相手がいないのは僕たちだけだ。
「あれ? おかしいな。受験生と同じ数の試験補佐官がいるはずなんだが……」
「うーっす、パイセンお待たせ~」
と、横から軽薄そうな若者が出てくる。年上の試験監督さんに対して、ものすごく横柄な態度だ。
「なんかやる気でなかったんで朝から軽くいっぱい引っ掛けてたら遅れちまいやした」
「お前なぁ、その口の聞き方としょっちゅう1時間以上遅刻するその癖をなんとかしろと、なんど言わせる気だ」
「まぁいいじゃないすか、パイセン。冒険者なんて実力がありゃそれでいいじゃないすか」
試験監督さんの説教をヘラヘラと聞き流す、横柄な補佐官。
「とにかく、さっさと模擬戦を始めろ。ほら、お前の相手はこの2人だ。こっちの青年のほうが特殊なジョブでな、その関係で2人1組扱いだ」
横柄な補佐官が僕の方をちらりと見る。
「この2人っすか? こんなん不合格でしょ。腕もほっそいし迫力も感じられない」
明らかにこの横柄な補佐官は僕たちのことを舐め切っている。
「おいお前たち、もし万一冒険者になれたとしても、お前たち程度じゃF級ダンジョンの1番浅い階層で死ぬのが目に見えてるぜ。間違いない。おとなしく冒険者様を支える薬草摘みの仕事にでもつきな。ほら、帰れ帰れ」
横柄な補佐官はうっへっへと笑う。
……冒険者になるために、僕がどれほどの努力をしてきたか知りもせずに。見た目だけで実力不足だと判断するなんて。
「っていうことでパイセン、俺もう仕事ないんで帰っちまっていいすか?」
「いいわけないだろう。さっさと模擬戦を始めろ」
「ちぇっ」
舌打ちしながら補佐官が模擬戦用の木刀を構える。
「いいか受験生。お前たちの相手は、今日来ている試験補佐官の中でも一番の腕利きだ。油断せず、全力で行けよ!」
「で、でも全力なんか出したらやり過ぎちゃうんじゃ……」
アルカのパワーと火炎魔法は、人間相手に向けるには少し危険だ。
「問題ないさ。全力で行け」
「そうだぜ、お前らみたいな貧弱な奴らが手加減の心配なんてする必要ねーよ」
さっきの僕とアルカのターゲット破壊試験の様子を見ていた試験監督さんが言うのなら、問題ないだろう。
横柄な補佐官が模擬戦用の木刀を構える。
「おいガキ。先輩として、1つ忠告しておいてやるよ。冒険者として一番大事なのは、相手の実力を推し量る力だ」
「相手の実力を推し量る力、ですか」
「ああそうだ。相手がどれだけ強い知らず、遥かに実力が上の相手に、ヘラヘラしながら戦いを仕掛ける。そんな奴ははっきり言って冒険者失格。生ごみ以下だ」
たしかに、それはそうだ。
――そうか、僕は今気付いた。
補佐官さんは実力を隠しているのだ。
それでいて、こちらの実力は全て見抜いている。
なるほど、それなら、試験監督さんが全力で行けといったのも理解できる。
それにそうでなければ、こんなに余裕をかませる訳がない。
……僕は、自分の未熟さが恥ずかしい。
アルカの
自分が結構強いなどと、うぬぼれてしまっていた。
「……わかりました。全力で行きます」
「おう! 遠慮せずドッカーン! と行け。全力でな。くれぐれも、全力でな。手加減なんてするなよ」
試験監督さんが何度も念押しする。何故か少しいたずらっぽい笑みを浮かべているのは気のせいだろうか。
「さぁ来いよガキ。圧倒的な実力差ってものを見せてやるよ」
「「分かりました……行きます!」」
試験開始。
僕とアルカは、戦闘態勢に入る。
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