49話 戦闘用ゴーレムを修復して、再び一緒にダンジョンへと挑む

――僕をハロンパーティーから追放させた黒幕、ボイルとの決闘の翌日。


 僕は自宅で、S級ダンジョンへ行くための準備をしていた。


 まず、やることの1つ目。


 ボイルから賭けで勝ち取ったモンスターの卵の分析だ。


 大きさは両手で抱えるほど。殻は鋼鉄製のような色合いと硬さで、少し落としたくらいではびくともしなさそうだ。


 リエルさんによると、冒険者ギルドでも一度鑑定して、確かに金貨100枚以上の価値はあると判断したそうだ。


 元々とあるダンジョンの奥地でたまたま見つかったものらしく、一体どんなモンスターが生まれるのかは分からないらしい。


 そのため、卵の大きさや殻の強度を計測して、どの程度の強さのモンスターなのか検討し、値段をつけたという。


「#形態変更__モードチェンジ__#、#索敵形態__サーチモード__#」


 一番物音を聞き取りやすい#索敵形態__サーチモード__#(バニーガール姿)になったアルカが、ウサギ耳を卵の殻に押しあてる。


「どうだ、何か聞こえるか?」


「……微かに、心臓の鼓動が聞こえます」


 どうやらちゃんと生きている卵であるのは間違いないようだ。


「しかし、まだ中で動き回れる段階ではないようですね。孵化には時間がかかりそうです」


「わかった、それなら一旦卵の件は置いておこう」


 続いて2つ目。


 ゴーレムの修理だ。


 家の庭には今、庭には巨大なゴーレムを横たわらせている。


 ハロンパーティー時代に戦闘用兼荷物持ちとして使っていた大型ゴーレムだ。


 僕が最近戦闘で使っているインスタントゴーレムと大きさは同じくらいだが、性能は段違いだ。


 中に金属製のフレームや魔石を組み込んでいる分パワーとスピードが違うし、メンテナンスさえすればずっと使える。


 冒険者ギルドから、『ハロンパーティーに壊されてしまい、誰も修理出来ない状態です。現状でよければ無償で貸し出せますが、いかがです?』と言われたので、ありがたく借りることにした。


 このゴーレムは元々僕が作って、冒険者ギルドに『このゴーレムを差し上げるので、このゴーレムのメンテナンス要員としてダンジョン探索に参加させてください』と言って渡したものだ。


 そして冒険者ギルドが勇者パーティーにこのゴーレムを貸し出すことに決め、結果僕が勇者パーティーの一員となっていたわけだ。


「可哀そうに、派手に壊れて……」


 戦闘用ゴーレムは、左腕が動かなくなり、右腕は無くなっていた。


 一体ハロンたちはどんなメンテナンスをしたんだ……。


 僕はストックしておいた上質な土を使って、ゴーレムを修理する。


 アルカにも、土をふるいにかけたりコネたりする作業を手伝ってもらった。


 ――数時間して、ようやく修理が完了する。


「よし、両手を上下に動かして」


 動きを確認する。うん、問題なさそうだ。


「このゴーレムは私にとっては先輩、いや、姉に当たるような存在ですね。マスター、名前はあるのですか?」


「うん。ハロンパーティーのメンバーは誰も覚えてくれなかったけど、”ガレック”っていう名前なんだ」


「わかりました。ガレック姉さん……」


 アルカはしばらくガレックを見上げていた。


 ――そして本日最後のやること。


 それは、ガレック用の鎧を作ることだ。


 前にアダマンタイト採掘ゴーレムを渡した鍛冶屋さんに、アルカとガレックを連れていく。


「お待ちしてたっす!」


 鍛冶屋さんが笑顔で迎えてくれる。


 店の隅には、採掘用ゴーレムが置いてある。汚れも拭きとってもらって、丁寧に扱われているようだ。


 さて、今日は大型ゴーレムの鎧の製作でしたね。材質は何を検討してるっすか?


「これを使おうかと思っていまして。アルカ、例の材料を出して」


「了解です」


 アルカが魔法を発動して、異空間にしまっておいた素材を引き出す。


 取り出したのは、青銅色の重い甲殻。


「これは……噂の、ブロンズアームグリズリーの甲殻っすね!?」


「え、噂になってるの?」


「そりゃもう! 街に壊滅的被害を出したあの災害級モンスターを、ナットさんがほとんど1人で倒しちゃったって話を知らない奴はこの街には居ませんよ!」


「それはちょっと大げさだなぁ……」


 実際は居合わせた冒険者たち十人以上と一緒に倒したので、ほとんど僕が倒したといわれると誇張表現になってしまう。


「まぁ、ナットさんならそう謙遜すると思ってたっすけどね。さてこの素材ですが、硬さは最高っすね! これを使えば、間違いなく最高の硬さの鎧が作れるっす。ただ、重いっすよ?」


「大丈夫。このガレックは、パワーがあるから」


 鍛冶屋さんが頷いて、加工に取り掛かる。


「うーっす。ナットさん来てる?」


 店に、十人以上の男が入ってきた。


 全員腕がごりっごりに鍛えられている。


「来てるっす! この人っす!」


 鍛冶屋さんが僕のことを紹介する。


「俺たちは、この街の鍛冶屋仲間だ。アダマンタイト採掘ゴーレムを作ってくれたこと、俺たちからも礼を言いたくてな」


 そうか、この街には当然この店のほかにも他にも鍛冶屋があるもんな。


「俺、ナットさんに作ってもらったゴーレムで採ってきたアダマンタイトを他の鍛冶屋仲間にも分けてるんすよ。うちだけじゃ使い切れませんし」


「そうなんですね。売ろうと思えば高く売りつけられるのに、無欲で謙虚ですね」


「え、アダマンタイト採掘ゴーレムをタダ同然で譲ってくれたナットさんがそれ言うんすか!?」


 店の中に笑い声が満ちる。


「まぁそういうわけで、俺たちなりに礼がしたくてな。晩飯はまだだろ? ぜひ食っていってくれ」


 ということで、鍛冶屋さん達の夕食に招かれることになった。


 場所は仲間の中で一番大きい家。


 リビングだけでは鍛冶屋メンバー全員が収まりきらないので、庭にまでテーブルを並べて晩餐会が始まる。


「さぁ、遠慮なく食ってくれ!」


 所狭しと並んだ豪勢な料理は、どれも絶品だった。


 今日は僕とアルカだけではなく、他の鍛冶職人さんたちも一緒にテーブルを囲んでいる。


「どうだ? 美味いだろ? うちのカミさんは元々街で一番飯がうまい酒場で働いててな!」


「はい、本当に美味しいです!」


 アルカも喜んでいるようで、料理をすごい勢いで口に運んで、周りの職人さんたちを驚かせている。


「この料理も美味しいですね。今度マスターに作ってあげられるよう、味を記録しておきましょう」


 これまでアルカにはほとんど僕が作ったものしか食べさせてあげられなかったから、この機会にこれまで食べたことのないものをたくさん食べてほしい。


「すいませーん。隣、いいですか?」


 と、声をかけてきたのは若い女の子。鍛冶職人には見えない。


 誰か職人さんの娘だろうか?


「あ、どうぞどうぞ」


 僕が勧めると隣に座る。


 のだが、やけに身体が近い。


 アルカより2回りほど小さいが、やや不自然な体勢で胸のやわらかなものが押し当てられる。


 何故だ、腰を捻った体勢で座るのが好きな娘なのか?


「ナットさんって~、いま彼女とかいますかぁ?」


 そしてこの質問。


 初手でいきなりプライベートに斬りこんでくるこの距離感。


 これは一体――


「――マスター、口元に汚れがついていますよ」


 アルカがハンカチで拭ってくれる。


「ところでマスター、明日の朝食は何がいいですか?」


「そうだなー、今日が魚だったから明日は卵がいいな」


「了解しました」


 なぜ今そんなことを聞くのだろうか。


「あ、私あっちの料理食べてきますねー」


 愛想笑いして、さっき隣に座ってきた女の子が去っていく。


 まるでうっかり他の猫のなわばりに入ってしまった猫のような去り方だ。


 この日は、夜遅くまで鍛冶職人さんたちと(お酒は付き合わないが)、ゴーレムや剣の製造方法などの話で盛り上がった。


 作っている物こそ違えど、同じ職人同士、結構参考になる部分があったり、苦労するポイントで分かり合えたりするものだ。

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