第二十四話 探索

荒隆あらたかくん!」

「心配かけたな」

 数日ぶりに談話室に顔を出した荒隆あらたか美早みはやが駆け寄る。

「なんだよ、癇癪はお終いか?」

「そういう言い方はないだろう」

 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる樹端たつはと、それを窘める双也なみやという変わらない光景に心のどこかで安堵する。

「早速だけど、作戦会議始めるわよ」

 永那えいなの指揮で登崎とざきを含む全員が談話室内のダイニングテーブルに集まる。

「あの研究用だと思われる施設を登崎とざきが洗い出してくれたわ。今回絞り込めた施設は四つ」

「そのどこかにあの子達が……」

 美早みはやが心配そうな表情を浮かべた。

「基本は単独での同時襲撃でいいな? 戦力バランスから見て、永那えいな美早みはやは二人一組でいく」

「問題ないわ」

 登崎とざきの指示に永那えいなが了承の意を表す。

荒隆あらたか、もう大丈夫か?」

「ああ」

 心配していたであろう双也なみやの確認に短く答えると、それを見て取った登崎とざきが口を開いた。

「決行は三日後、天を仰ぐ深夜。全員万全の体制でかかってくれ」


ーー今回の目的は研究内容の奪取と破壊。そして子供達の保護。これは俺の希望だが、なるべく穏便にな


 最後に登崎とざきは苦笑しながら付け加えたのだった。


 時計の両針が天を仰いだその時、遠く離れた四地点で五つの黒コートが翻った。


side樹端たつは

 ガシャーン

 大きな音を立てて窓ガラスが飛散する。飛び散った窓ガラスと共に二階の廊下に樹端たつはが降り立つ。

「さあ、変革者の登場だ! ド派手に行くぜ!!」

 突然響いた樹端たつはの声と、侵入者を知らせるアラートに宿直していた研究者達が慌てふためく。

「まあそう慌てんなよ。何もすぐに殺しはしねぇよ」

 用意していた大量のロープで研究員を一人ずつ捕え、拘束していく樹端たつは。その隙に、データ回収の補佐としてついてきていた組織の構成員達がデスク上の機械や資料に手をつける。

樹端たつはさんは引き続き施設の制圧をお願いします」

「了解! 念の為背後注意な」

 構成員に後を任せ、樹端たつはは施設内を駆け回った。出くわした研究員を片っ端から捕まえていく。

「入手した図面通りなら地上階はこれで全部か。残すは地下だな」

 防火扉を模した重々しい扉に手をかけると、開けた中にある階段で地下へと足を踏み入れる。

 階段を下りた先に、いかにもな注意マークや関係者以外立ち入り禁止の文字が貼られた扉が現れた。

「んで? これにこれをかざせばいいんだっけか?」

 突入準備で配られたハッキング用のカードを扉横の非接触端末にかざす。

「おお!」

 端末の小窓にnow scanningの英字が浮かぶ。しばらくそのままで待っていると、ガチャリという解錠の音と共に、文字がall greenへと変わる。

「なんかわかんねぇけど、開いたみたいだし、行くか!」

 学のなさを露呈させながら樹端たつはは奥へと進んでいく。

「なんつーか、地上に比べて陰湿な場所だな」

(嫌な記憶を思い出しそうっつーか)

 懐中電灯片手に樹端たつはが地下室を進む。

「ん?」

 途中までにあった倉庫類の扉と一線を画すように、新たな扉が目の前に現れた。

「いよいよ探し人とご対面かな?」

 電子錠をハッキングで開けると用心しながら中へと踏み込む。暗闇に対して弱く感じる懐中電灯の光に照らし出された物を見た樹端たつはの足が止まる。

「なんだよ……これ……」


side双也なみや

 樹端たつはとは対称的に双也なみやは組織の構成員達を連れて静かに侵入を開始した。一人一人を確実に捕獲しながら制圧を進めていく。

「そろそろ地下の制圧に進む。あとは任せた」

 静かに反応を返した構成員達を確認すると、双也なみやは一人地下へ続くと思われる扉へと向かった。樹端たつはと同じくロックを解錠すると、懐中電灯を片手に地下を進んでいく。

「……? この臭い、どこかで……」

 地下に入ると漂い始めた臭いに双也なみやは顔を顰めながら自らの記憶を辿る。

 その答えはすぐに出た。 最悪な形であったが。

「これは……!? まさか他もそうなのか!?」

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