第二十六話 来訪

 本部に帰投した四組だったが、手痛い傷を負った美早みはやは医療部門へと救急搬送され、保護した少女も同様に運ばれていった。

「私がついていながら、ごめんなさい」

永那えいなが悪いわけじゃないだろ」

「こうなったのは美早みはやの意思だ」

 美早みはやの怪我に責任を感じて謝罪する永那えいな荒隆あらたか双也なみやが口々にフォローを入れる。

美早みはやはしばらく動けないだろう」

「今回の件のブリーフィングだけでもしとくか?」

「お互い報告することは山ほどありそうだしな」

 荒隆あらたかの提案に、苦い顔をして珍しくも黙り込んでいた樹端たつはが同意した。


 場所をミーティングルームに移し、登崎とざきを含めて四人で机を囲む。一番に口を開いたのは樹端たつはだった。

「俺のところにいたのは機械で繋がれた元子供達だった。誰一人まともに生きちゃいなかったがな」

 忌々しいと言いたげな樹端たつはの報告と構成員が用意した証拠写真に、皆神妙な面持ちになる。次に双也なみやが重い口を開けた。

「俺のところも同じようものだ。もっとも樹端たつはより状態は悪かったからな。写真はやめておく」

 よほどの物を見たのだろう。心なしか双也なみやの顔色が悪い。双也なみやの心遣いに感謝しながらも、全員が複雑な心境に陥っていく。

「俺は恐らく当たりだった」

 荒隆あらたかの発言に全員の視線が集まった。

「ただし、もぬけの殻だった。警戒して移動したのか、あるいは情報が漏れたか……」

 思案顔の荒隆あらたかによる最後の言葉で全員に緊張が走る。

「でかい組織だからな。裏切り者がいても不思議じゃないが、その線は低いだろうな」

「なぜそう言いきれる?」

 裏切り者の可能性はほとんどないとでもいうような登崎とざきに、荒隆あらたかが当然の疑問を口にした。

「国会乱入が一応は成功に終わっているからな。煤山すすやまと五号という収穫もあった」

「確かに。手を打つならもっと早くしているか」

「身内が問題ないなら、あとは移動先だろ? 他に宛はないのかよ?」

 樹端たつはのもっともな意見に全員の視線が登崎とざきに向かう。

「そうは言われてもなぁ……」

 コンコンッ

 顎をさすって登崎とざきが考えていると、不意にドアがノックされた。

「失礼します。登崎とざきさん、面会したいという人が来ているのですが」

「ここにか? そりゃまた妙だな」

「相手は先日の乱入時に現場にいた、身元が確かな国会議員です」

 取次が続けた言葉でその場に衝撃が走った。

「……荒隆あらたか、ついてこい。あとの三人は待機だ」

 しばしの思案の後に、登崎とざき荒隆あらたかを同席者に指名して立ち上がる。

「了解した」

「仕方ないわね」

「ちっ。適材適所ってやつかよ」

 異論のない二人に対して、不服そうな樹端たつはを横目に荒隆あらたかが黙って登崎とざきについていく。


「いいのか? 俺は一応面が割れてるが……」

「念の為ってやつだな」

 そういって登崎とざきが取り出したのは無線のイヤホンだった。これで外から話を聞いていろという事らしい。

「なんかあったら頼むな」

「了解」

 応接室から少し離れた廊下で登崎とざきと別れて荒隆あらたかが壁に寄りかかる。荒隆あらたかがイヤホンを耳にセットしたのを確認すると、登崎とざきは後ろ手に手を振り応接室に向かった。


 軽いノックの後に、登崎とざきが一人で応接室に入っていく。そこにいたのは荒隆あらたかが発言台から引きずり下ろした若手議員と、スーツに身を包んだ一人の女性だった。

「こんな辺鄙な所までわざわざご足労いただいて……」

「いえ、唐突の訪問で失礼いたしました。国会議員を務めています、出井州でいず

凌平りょうへいと申します。こちらは秘書の新坂にいざかつつじです」

「一応ここの責任者をしている、登崎とざきだ。あんたのことはよくニュースで見るよ。新進気鋭の若手政治家さん」

「いえいえ、まだまだみなさんに支えていただいているばかりで……」

 形式的な会話を表面上にこやかに交わしていた二人だったが、次の瞬間登崎とざきの顔が真剣みを帯びる。

「で? そんな議員さんがわざわざこんな所まで何の用で? 警察が一緒じゃないってことは、個人的な用件でしょう?」

「ははは、さすがに鋭いですね。ですが、その話をする前に彼らに合わせてもらえますか?」

「彼らとは、誰のことで?」

 察しがついているのを気付かれぬよう、登崎とざきは人の食えない反応を返す。

「変革者と名乗っていた、荒隆あらたかくん、樹端たつはくん、永那えいなさん、双也なみやくん、美早みはやさん、でしたかね。ここにいるのはわかっているんですよ。ああ、ご心配なく。あなた方を警察に売り渡したりはしませんので」

 ほんの数秒。しかしそれ以上に長く感じる沈黙下の睨み合いの後に、登崎とざきがため息を一つこぼした。

「ふぅ……。荒隆あらたか、入ってこい」

 思いの外早く呼ばれ、やれやれといった表情を浮かべながらイヤホンを仕舞うと荒隆あらたかは応接室のドアをノックした。

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