第二十五話 強襲

side永那えいな美早みはや

「時間だ!」

 一人息せき切って建物に向かう美早みはや永那えいなが止める。

「独断専行は危険よ」

「でもあの子達が!」

「急げば助かるの?」

 美早みはやがはっとした表情になり立ち止まる。

「予定通り地上階から」

 配備されていた構成員達に永那えいなが指示を出し、二人も建物へと入っていく。

 樹端たつは達と同じく地上階の制圧を終え、二人も地下へと進む。しかしそこは他の二人と違い、地下にも研究員がいた。そして、巨大なカプセルの培養液に入れられたどこか異常さを感じる子供も。

「ちっ、ここまで来たか」

 状況を悟った研究員の一人が培養カプセルのボタンを操作した。

「動かないで!」

 永那えいなが鞭を振るうより早く操作が完了し、カプセルの培養液が抜け始める。

「何を?」

「お前らに渡すくらいなら全て壊す。凶暴化した失敗作でな!!」

 研究員の叫びと同時にカプセルが内側から破壊される。

「ああああああああ!!」

 雄叫びを上げながら美早みはやに突撃する少女。

「待って!! 私達は敵じゃない!」

「無駄だ!! そいつに理性は残っていない!!」

 美早みはやの制止を嘲笑った声に反応して少女の敵視が切り替わった。それに気付いた永那えいなが反応するより早く、少女の右手が研究員の体を貫いた。

「うああ、ああああああ!!」

 屍と化した研究員を振り捨て、攻撃対象を永那えいなに切り替える。

 ギィイイン

 幻物質の強化壁同士がぶつかる甲高い音が響く。

「力は大したことない。でも……」

(殺したくない。殺せない)

 迷いで時間ばかりが過ぎ去り、力で劣る少女に傷となって現れ始めていた。両手で口を覆い、それを呆然と立ち尽くして見ていた美早みはやだったが、その目に決意の光が宿る。

「こっちよ!」

 突然響いた、支配力を持つ美早みはやの声に少女の視線が釘付けになる。

「何を!?」

 真っ直ぐに美早みはやに向かう少女に、美早みはやは避ける素振りすら見せない。その直後、永那えいなの目の前で少女の右手が美早みはやの左脇腹を抉った。

「そんな!」

「大丈夫だよ」

 口から血を吐きながら、美早みはやが少女を抱きしめる。その口から歌が溢れ出す。

「lullaby for You〜♪」

 全身全霊の力を込めた至近距離での子守唄。凶暴化していた少女も流石に抗えなかったのか、意識を手放す。それを見届けた美早みはやの体からも力が抜け、抱えていた少女と共にくずおれる。床に激突する前にかろうじて永那えいなに抱き止められた二人は、大急ぎで本部の医療施設へと運ばれたのだった。


side荒隆あらたか

(妙だな)

 建物付近にたどり着いた荒隆あらたかは一人訝しげな顔になる。

「どうかしましたか?」

「いや、あまりにも人の気配がなくてな」

「……?」

 不思議がる構成員達を引き連れて、建物へと侵入する。

「やはりか」

 感じていた違和感。その正体をしっかりと両目で捉える。

「何も残っていません!」

 そう、この建物はもぬけの殻だったのだ。

「情報が漏れたか、俺達を警戒してか……」

 荒隆あらたかが一人呟きながら逡巡する。

「拾える物だけ拾って撤収を」

 ビーッビーッ

 撤収の指示を出していた荒隆あらたかの声に被るように、アラートが鳴り響いた。

『消火剤を散布します。屋外へ退避してください』

「な!?」

 荒隆あらたかの頭に【罠】の一文字が浮かんだ。

「総員速やかに窓から離脱! 死ぬぞ!!」

 手当り次第に窓ガラスを割って屋外へ退避した直後、建物内一面が真っ白に染まるほどの消火剤が散布された。

「全員無事だな」

 目視で人数を把握した荒隆あらたかが安堵の息を吐く。

「急ぎ本部へ戻るぞ」

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