第二十話 会議

「俺はここの偉いやつに会わせてくれって言ってるだけだろ!!」

「おー、派手にやってるな」

 ひときわ大きな声の聞こえたテントの向こうに荒隆あらたかが顔を出すと、痩せこけた少年と武装兵の一人が言い合いをしていた。

「ど、どうしてここへ!?」

 敬礼こそしないが居住まいを正す武装兵。

「ちょっと野次馬に」

「すぐに追い返しますので!!」

「少し待ってくれ」

 美早みはやに目配せすると、うなずいて右手を少し離れた岩場の影に向けた。

「やっぱりか。お前、名前は? ここまで一人で来たのか?」

「近寄るな! お前、レジスタンスじゃないだろ!!」

 痩せこけた少年は、突然現れ会話に割り込んできた荒隆あらたかを警戒する。

「お、お前!! この方になんてことを!!」

「ぷっ、くっくっ。いや、いいよ。ちゃんと名乗らなかった俺も悪いんだ」

「ですが!」

 言い募る武装兵を片手で制す。

「俺は荒隆あらたか。今はこんな身なりでいるが、元は親なし兄弟なしの孤児で、今はこの組織の一員だ。お前がどう思うかはわからないが、これでも世界の理不尽さは知ってるつもりだよ」

 膝を折り、目線を合わせて名乗る荒隆あらたかに、少年も僅かに毒気を抜かれる。

「……口ではなんとでもいえる」

「だな。悪いが医者を呼んでこいつの手当をしてくれ。そのあとはこいつの気が済むようにしてくれるか?」

 荒隆あらたかの指示に集まっていた武装兵達がざわつく。

「いいんですか?」

「俺の独断ってことにしてくれて構わない」

「わかりました!」

 指示を受け、武装兵達が動き出す。それを確認した荒隆あらたかは案内人に連れられてその場を後にする。

「あいつ、一体……」

 それを見ていた少年は呆然と呟くのだった。


 少年と別れ、案内されたテントに入ると、すでに物々しい人数が集まっていた。

「悪い、遅れたか?」

「時間通りだと思うんだけど……」

「ふん。では今回の作戦を確認する」

 荒隆あらたか達が席に着くと、この地域を統括する隊長が口火を切る。

「本作戦で我々は政府による救援物資横流しのルートを破壊し、外からの物流を手中に収める。切り込み隊長は本部から派遣されてきたそこの日本人共だ。好きなだけ部隊を連れて行け」

「本部から来た荒隆あらたかといいます。切り込み隊長というか、掃討作戦すべて俺たち二人でやるのでご心配なく。みなさんには後の制圧をお願いします」

 荒隆あらたかの無謀とも取れる発言に、集まっていた兵達がざわめき吠える。

「ふざけているのか!?」

「いったい何人の警備兵がいると思っている!!」

「こんなやつらに任せろと!?」

「本部は何を考えているんだ!!」

 騒ぎ出す会議参加者に美早みはやがおろおろとあたりを見回す。

「静まれ!! 先に説明したとおり、本部からの人員には好きにさせる。我々はそれが失敗した時に備えて準備すればいいだけだろう」

 あっという間に騒ぎは隊長によって鎮められた。

「あとは部隊間の連携確認だ。本部からの客人は好きにしていろ」

 隊長により半ば追い出されるように二人はテントを後にする。

「さすがに隊長は違うな」

荒隆あらたかくんはもう少し言い方考えようよ。こっちがひやひやしたよ」

「甘く言って足手まといになられても困るんでな。今回はお前がいれば十分だ」

「うー、責任重大だー」

 思わぬプレッシャーに美早みはやが唸る。

 そのまま適当に歩いていた二人は救護テントに辿り着いていた。

「さっきの少年はどうなった?」

 先ほど少年の対処をしていた武装兵の姿に荒隆あらたかが声をかける。

「お疲れ様です! 現在この救護テントで処置の最中です!」

「そうか、ありがとう。……のぞいて行ってもいいか?」

「もちろんです!」

 テント内部に顔を覗けると、ここまで連れてきてくれた案内人が駆け寄ってきた。

「会議は終わったのですか?」

「ああ。あの少年は?」

「こちらに」

 連れられて入った処置室の横、簡易の病室に少年と横たわる少女がいた。

「あの子は?」

「先ほどの少年の妹だそうです。高熱で、あと少し処置が遅ければ手遅れだったと」

「無事でよかった」

 ほっと胸をなでおろす美早みはや荒隆あらたかの姿に気付いた少年が駆け寄ってくる。

「あの、ありがとうございました。俺にできることがあれば何でも言ってください!! 俺、何でもします!! このお礼に、みなさんのお役に立ちたいんです!!」

「……ここがどういう所かわかって言ってるか? ここで役に立つってのは、駒になるってことだ」

 現実を突き付けられ、少年が言葉に詰まる。

「妹の為に大人でも厳しい道を歩いてきたのはすごい。助けてもらったお礼をしたい気持ちもわかる。でもな、ここは大人の俺達の場所だ。すぐに出て行けとは言わない。だがお前は妹の側にいろ。それはお前の、お前だけがすることだ。いいな?」

荒隆あらたかくん、何もそこまで言わなくても……」

「――大丈夫です。俺、あいつのそばにいます!」

 妹の側に戻った少年を見届け、二人は病室を出て行った。

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