第二十一話 介入

「やっぱりさっきのは言い過ぎだと思う」

 言いすがる美早みはやに、なおも荒隆あらたかは厳しい言葉を返す。

「ただの少年兵じゃ、戦場で味方の死体を増やすだけだ」

「だけど、私たちは!」

「俺たちは特殊だった。それでも戦場に出るまでに何年もかけたんだ。あいつは何年かけてもモノになるとは限らない」

「そんなこと……」

「モノにならない方がいい。そういう生き方もあるんだよ」

 悔しそうな表情の美早みはやに、荒隆あらたかはひとりごちるように言葉を繋げた。


 草木も眠る深夜。二つの影が動く。荒隆あらたかの左耳でポンッという小気味いい音と共に無線通信がオンラインになる。

『聞こえる?』

「こっちは平気だ」

『打ち合わせ通りに始めて、あとは臨機応変にだっけ。援軍が来るのは2時間後の予定だよ』

「了解。それにしても、ここに援助物資全てが運び込まれて外貨に換えられてたとはな」

 調査の結果判明した国の保管庫。そこは某先進国の有名企業の支社と倉庫があった場所だった。

『内戦の勃発と同時に現地人以外の労働者は国外へ避難してるんだね。帰ってくるとしても内戦が収まった数年先。最悪壊してしまえば証拠は残らないからだろうって』

「しかも電力やら何やらはまだ生きてるときた。使うなって方が無理がある」

『それもそっか。でも、だからと言って救援物資を貰えるべきはずの人から奪っていい道理はないよ』

 美早みはやが理不尽さに頬を膨らませる。

「ごもっとも。それじゃ、一発派手に始めるか」

『任せるよ!』

 美早みはやの返事を合図に、10mもある外周のフェンスを何も使わず楽々と荒隆あらたかが飛び越える。越えた瞬間、その姿が人感サーチライトによって照らし出された。建物すべての部屋に明かりが灯され、けたたましい警報音が非常事態を告げる。

「さて、こんな時間に悪いが、遊んでくれよ」

 集まる戦闘員たちに荒隆あらたかは不敵な笑みを向ける。

「たった一人で何ができるってんだ?」

 屈強な肉体をした男があざけりながら現れた。

「そうだな、あんた含めここにいる奴ら全員倒すくらいは造作もないな」

「はっ! その細腕でか? おもしれえ。お前らはこいつの仲間が来ないか見張ってろ! こいつは俺がやる」

 男がでかいナイフを取り出し右手で逆に構える。

「おらあ!」

 容赦なく殴り下ろされたナイフをよけた荒隆あらたかは男の右脇腹に膝蹴りをお見舞いする。

「お! 今の防ぐのか。やるな、あんた」

 間一髪蹴りを左手で防いだ男だったが、もはや左腕は使い物にならないほど負傷していた。

「その細い身体でこの威力。お前、只者じゃねえな」

「ちょっとばかし人より身体を強化してるだけなんだがな」

「はっ! これがちょっとか。馬鹿にしやがって!!」

 片腕になりながら突っ込んできた大男が荒隆あらたかに触れたと認識するより早く、大男の身体が地面にめり込んだ。

「一人ずつなんて面倒なことせずに、全員で来いよ。それでも勝てるかわかんないぜ?」

「やっちまえええええ!!!」

「うおおおおおおおお!!!」

 乱戦の中、荒隆あらたかが着実に相手を沈めていく。

双也なみや樹端たつは相手じゃないとあくびが出そうな退屈さだな。永那えいな美早みはやでもいいが、あいつらは殴るのに気を使うからなぁ」

荒隆あらたかくん? 真面目にやってる?』

「やってるやってる……っと!」

 無線の存在を忘れてぼやいていた荒隆あらたかの頬をスナイパーの弾が掠めた。

「おー、いい腕したスナイパーがいるな。俺らじゃなきゃ頭ぶち抜かれてたな」

荒隆あらたかくん……』

「そういうそっちはどうなんだ?」

 荒隆あらたかに問い掛けられた美早みはやは、警備室で倉庫の鍵を盗み、既に敷地内の倉庫前まで侵入していた。

「武闘派はほとんどそっちに行ったみたい。もうすぐ倉庫に入れるよ」

 盗んだ鍵で倉庫の巨大シャッターを開け、隙間から中に入る。

「さすがに中は暗いなぁ。電気は……え? 何、この音?」

『どうした?』

「なんか、エンジン音? みたいなのが……っ!?」

 ドガッシャアアアアアン!!!!

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