第二十二話 決着

「さすがに中は暗いなぁ。電気は……え? 何、この音?」

『どうした?』

「なんか、エンジン音? みたいなのが……っ!?」

 ドガッシャアアアアアン!!!!

 無線を通さずとも聞こえるほどの衝撃音が夜闇を切り裂く。

『……は…や……みは……み……』

「うー……。いたたた。一体何が……うわっ!」

 空を切る音に反応して美早みはやが飛び退った。直前までいた地点で何かが潰れた音が響く。

「とにかく電気つけないと……」

 両手を前に伸ばした美早みはやは、微かな音を頼りに空間を把握していく。

「あった、電気のスイッチ……と、このでかい動いてるのがさっきから攻撃してきてるのだよね?」

 電気をつけて振り向くと、目の前には巨大な重機がそびえたっていた。

「え、うそ、なんでこんなのがここに!?」

『……み……だい……ど……っ……』

「もしもーし、荒隆あらたかくん? ……壊れちゃったのかな?」

 小型無線機に話しかけるがまともな返事は来ない。

「ってことは、一人でなんとかするしかないってことか……。重機相手に……素手で? こんなの避けるのが精一杯だよおおおおお!!」

 敵前逃亡しようとするが、何故か入ってきたままのはずなシャッターが閉まっている。

「うそ、私閉めてないのに! なんで閉まってるの!? あーけーてーよー!!」

 必死にシャッターを叩くがガシャガシャと音を立てるだけでびくともしない。

 そうこうしている内に背後に迫る重機。

「どうしよう、どうしよう、どうしよう……。こういう時みんなみたいに武器があったらなぁ……。無い物ねだりしても仕方ないけどやっぱり私も武器欲しかったよぉ……。助けてよ、パパぁ……」

 そばにいない者たちに思いをはせながら頭を抱えてうずくまる美早みはや

永那えいなちゃん、双也なみやくん、樹端たつはくん……助けて……荒隆あらたかくん……!!」

 シュパッ

「え?」

 何かを切り裂く鋭い音が聞こえた直後、シャッターの一部が美早みはやの方に倒れてくる。

「うわわわわわわ!!」

 急いで避けて振り返ると、舞い上がる土埃から口と鼻を腕でかばいながら荒隆あらたかが姿を現す。

「大丈夫か!?」

 美早みはやを見つけ、慌てて荒隆あらたかが駆け寄ってくる。夜闇に響いた音の異常さと途切れた無線で異変を察知し、ものの数分で警備兵全員を倒してこの場に駆け付けたのだ。

「こ、こんなのいるなんて聞いてないもん!!」

「あー、よしよし。見たところ怪我はなさそうだな。あとはあのデカブツから操縦者を引きずり出せば終わりだ」

「操縦者……人が乗ってるの!?」

 冷静な荒隆あらたかの発言に美早みはやが驚きを返す。

「このサイズの重機でオートパイロットが使われてるってのは聞いたことないし、お前を的確に狙ってたところを見ると操縦者がいると見た方がいいだろう」

「むー……か弱い女の子相手にあんなの振り回すなんて許せない!」

 駄々っ子のように怒る美早みはやに、笑いを堪えながら荒隆あらたかが問いかける。

「じゃあどうする?」

「とどめだけ私がやる」

「はいはい。それじゃ、手っ取り早く片付けるか」

 荒隆あらたかが片手でカードを広げるしぐさをする。

「気をつけろよ。俺のカードは鉄をも切る」

 そのまま見えないカードを投げつけると、美早みはやを襲っていた重機のアームが四分割された。

「何が、どうなって!?」

 慌てる操縦士の横でパキンッという微かな金属音がしたと同時に、ドアが外れる。

「そんな……。お前たちは、一体……」

「この世界を憂う影。なんてな。ただの死にぞこないのテロリストだ。聞く価値もないさ」

「恐がらせてくれたお礼、たっぷりしちゃうんだから!! Ah――――――!!!」

 間近で轟いた美早みはやの声に操縦士は泡を吹いて気絶したのだった。




     *     *     *




「――事のあらましはこんなところだ」

「無事任務は完遂、定例通りならレジスタンスの勝利で内戦は終わっていたはずということか」

「それだけの王手を打っていたのに、一体どんなイレギュラーが?」

「この様子だと、レジスタンスの人達やあの子たちは……」

 あの国で出会った人達を思い、言葉を失くす美早みはや

登崎とざきは何をしているんだ!! こんな結果のために、俺達はあの国に行ったわけじゃないだろう!!」

「どこに行くの!?」

 感情を露わに談話室を飛び出す荒隆あらたか永那えいなが追いかける。

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