第二十三話 庇護

 談話室を飛び出した荒隆あらたかが向かったのは、登崎とざきの執務室だった。

「どういうことだ!! 登崎とざき!!」

 ノックもなくドアを開け放した荒隆あらたかの後ろから、肩で息をする永那えいなが追いつく。

「騒々しいな、何があった?」

「アッシーウの事、知らない訳ないよな?」

「その事か……」

 今にも登崎とざきに掴みかからんとする荒隆あらたかを、永那えいなが間に入って止める。

「……気付いた時には手遅れだった。今言えるのはそれだけだ」

「どういうことか説明しろ!!」

「お前こそどうした? いつになく感情的だが、五号の記憶に触発されたか?」

 カッと一瞬で沸点を越えて逆に冷静になったのだろう。押さえ込んでいた荒隆あらたかの身体から力が抜けたのを感じた。

「触発か……。そうかもしれないな。だが、説明はしてもらう」

「それはできない」

「だったら、俺は一人ででもあの国へ行く。何が起きたのかを知るために」

 来た時とは打って変わって荒隆あらたかは静かに執務室を後にする。

「放っておいていいの?」

 その背を見送りながら、疲れた様子の永那えいな登崎とざきに問いかける。

「構わない。どうせ何も出来やしないんだ」

 それだけ言って背を向けた登崎とざきに肩をすくめると、永那えいなも執務室を後にした。


 あれから数日。荒隆あらたかは自室に篭り、アッシーウへと渡る手段を探していた。

 コンコンッ

 暗く、静かな部屋に控えめなノックの音が響く。

「何だ」

 振り向くこともなく応じると、ノックと同じく静かにドアが開かれた。

「ここ数日ろくにご飯も食べていないようだけど?」

 心配しているといえるのだろうか。ドア枠に背をもたせかけ、斜に構えるように立ちながら永那えいながその背に問いかける。

「栄養は取っている。問題ない」

「そう。それで見つかったの?」

 何をとは聞かない。答えも必要ないだろう。その答えはここ数日の荒隆あらたかの様子で火を見るよりも明らかだ。案の定黙り込む荒隆あらたかに、永那えいなは盛大にため息をつく。

「諦めなさい。元より内戦をしているような国に正攻法で行く手段なんてないのは、あなただってわかってるでしょ?」

 正攻法で行けないならば、取る手段は一つしかない。蛇の道は蛇。行けないはずの場所に行けていたのは、荒隆あらたか達を庇護しているのが世界的革命組織だったからに他ならないのだ。

登崎とざきがいたから、か」

「そう。そして今回このことに触れるのを登崎とざきは禁じている。こうなっては私達は従う外ないのよ」

 分かっていた。本当は荒隆あらたかもわかっていたのだ。自分たちが登崎とざきに、その上の巨大な組織に庇護されているという事実を。分かっていたが、認めたくはなかった。自分の弱さを認める様で、嫌だったのだ。

「俺は、弱いな」

「そうね。でもそんな私達でも今できることがある。あなたが05に託されたのは何?」

「悲劇を終わらせること。やつらを皆殺しにして」

 憑き物が取れたように、荒隆あらたかの目に光が宿る。

「やりましょう。それが、私達の望みでもあるのだから」

 永那えいなに促され、荒隆あらたかは暗い部屋を後にする。

 目指すべき道へ向かって。

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