第九話 能力

「つまりあなた方は神より与えられた選ばれし存在なのですよ」

 恍惚とした表情で高らかに褒め称える煤山すすやま

 自らの化学力に心酔しきった煤山すすやまの言葉の欠点を突くように荒隆あらたかが答える。

「神か……。仮にそうだったとして、お前の言う数値で劣る次世代で俺達を止められるのか?」

「くつくつくつ。例え数値で劣っていてもそれは些細な差。些細な質の差であれば量があれば圧倒できる! こんな風にね」

 煤山すすやまの声に呼応して襲い掛かってくる十六人の子供達。

 荒隆あらたか達三人と、美早みはやをかばう永那えいなの元にそれぞれ四人の子供が向かう。

 一人は煤山すすやまの側に残っている。さすがに手札全てを攻撃に回すことはしないようだ。

「ちっ……さすがにこの数はキツイな」

「泣き言はいいが、殺すなよ」

「無事か? 永那えいな

「私は平気。だけど美早みはやが」

 頭を抱えてうずくまる美早みはやをかばいながら四人に応戦する永那えいな

「おやおや? まだ先ほどの話を引きずっているのですか?」

 美早みはやの様子に気付いた煤山すすやまが驚いたような声を上げる。

「あの事故の犠牲者に罪悪感など抱く必要などありませんよ。研究員はともかく被験体はあと数日の命だったのですから」

「どういうことだ?」

 美早みはやを除く四人の注意が僅かに煤山すすやまに向く。

「彼らには処分命令が出ていたのですよ。能力発現の見込みなしと判断されてね。使えないゴミを生かす為の費用などありませんから」

「くそったれが!! ずっと美早みはやは仲間を殺した罪悪感に苦しんできたんだぞ!! それをゴミだと!?」

「仲間ですか。役立たずだったあれらにお似合いな陳腐な名称ですね」

 頭に血が上った樹端たつはの注意が煤山すすやまに向かったその瞬間、さばききれなかった少年の攻撃が樹端たつはに直撃した。

「がっ!?」

樹端たつは!!」

「ほら一つ神に選ばれた存在を摘み取った」

 腹に重い一撃を食らった樹端たつはが倒れ込む。

樹端たつは! しっかりしろ!」

 呼びかけに答えはなく、ぴくりとも動かない。

「さあ、残りもやってしまいなさい」

 煤山すすやまの声で樹端たつはが相手をしていた四人が荒隆あらたか双也なみやの元に二人ずつ加勢する。

「くっ! このままじゃこっちがやられるぞ!」

「だからといって、この子達を犠牲にするのか!?」

「そんなことはしたくない! けど……」

「ぐはっ!?」

双也なみや!!」

「こっちも、限界……」

永那えいな、後ろだ!!」

 振り向いた永那えいなに迫る少年の蹴り。

 衝撃を覚悟してぎゅっと目を閉じた永那えいなだったがいつまで経っても蹴りが当たらない。

 恐る恐る目を開けると少年が宙で己の右足を拘束するものと格闘していた。

 他の子供たちも動きを止めている。

 まるで見えない何かに身動きを封じられたかのような子供達の様子に、煤山すすやまが顔色を変える。

「何が起きているのですか!?」

「幻物質の集合体でできた巨大な手による拘束。おそらく我々の外面強化の数段上をいく能力」

「幻物質の集合体だと……!?」

 突然の出来事を必死に理解しようとする煤山すすやまの隣で現状説明の為に口を開いた少年。

 その言葉に流石の煤山すすやまからも笑みが消えた。

「そういや、お前らには見えないんだったな」

「まさか……」

「いってえな……。ちったあ手加減しろっての。ほらよ、これでうっすらとあるのは分かるか?」

 立ち上がりゴーグルを外した樹端たつはの瞳がより明るく輝くと子供達を掴む見えない手の輪郭が煤山すすやまの目の前にも僅かに現れた。

「これが……幻物質……? ……くっふははっ、ははははは!! 素晴らしい!! やはりあなた方は素晴らしいですよ!!」

「……やっぱり狂ってんな。おい、さっさと」

「ただちに彼らを捕縛しなさい。命懸けで!!」

「!?」

 煤山すすやまの声が響いた瞬間、辺りからミシミシ、ブチブチと骨の軋みや肉の千切れる音が聞こえ始めた。

「嘘だろ……。おい、やめろ!! そんなことしたら本当に死んじまうぞ!!」

樹端たつは! 今すぐ放せ!!」

 想定外の事態に慌てる樹端たつはに、双也なみやが叫ぶ。

 すぐさま樹端たつはの瞳の発光が弱まり子供たちは解放されたが、千切れた肉が塞がることはなく血が滴り落ちている。

「……めて」

 美早みはやがふらりと立ち上がる。

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