第二十八話 王手

「説明しろ、登崎とざき! お前、全部知ってたんだな!!」

 掴みかからんばかりの勢いで荒隆あらたか登崎とざきを問い詰める。何の事だかわからない出井州でいず達は成す術なく成り行きを見守るしかない。一際大きなため息を吐いた登崎とざきの眼光が鋭くなった。

「国外に傭兵として出されているらしいという情報は掴んでいた。だが、これまでは確たる証拠がなかった。それが今手に入った。その事は後でだ。それじゃあ不満か?」

 問い掛ける登崎とざきの言葉で、荒隆あらたかの中にあった憶測が確信に変わった。先日の、戦況が激変したアッシーウ。そこにもあの子達が関わっている。今、登崎とざきの手元にある書類がその証拠だった。黙っていたのは確証がなく、現地に飛んだところで元を潰さなければ意味が無い事をわかっていたから。

「……取り乱して悪かった」

 全てを理解した荒隆あらたかが謝罪の言葉を口にした。聞こえてくる会話からなんとなく事情を察した出井州でいずは気にする事なく話の軌道を修正する。

「こちらから出せる情報はそれが全てです」

「十分すぎるくらいだ」

「事の仔細は全て任せます。結果さえ伴えば私は問題ないので」

 あくまで無関係を装いたいということだろう。下手に関わられてこちらの手の内が明るみになるのは困る登崎とざき達にとっても願ってもない事だった。取引の担保はそれぞれ、ここに反政府組織の本部があるという情報と、反政府組織に情報を流したという事実。これにて取引はお開きとなった。


 出井州でいず達の見送りを取次の構成員に任せた荒隆あらたか達は、再びミーティングルームに集まっていた。

「情報の精査は必要だとは思うが、おおよそこれで行けるだろう」

 登崎とざきが指し示す資料に全員の視線が集中する。渡された資料の中には、ご丁寧にも現時点で子供達の大部分が囚われているであろう場所の地図や建物の設計図まであった。黙って資料に目を通していた面々がそれぞれに感嘆の息を吐く。

「これをたった一人の国会議員が?」

「末恐ろしいな」

「でもこれが本物なら、いよいよ王手だぜ!」

 喜び勇む樹端たつはの声に、全員が目を見合わせて頷いた。そこに美早みはやの姿が無い事に寂しさを覚えながら。美早みはやも助け出した少女も一命を取り留めたが、意識が回復するのはいつになるかわからないそうだ。この作戦に美早みはやは参加出来ないだろう。新たな被害者である子供達の事を誰よりも助けたがっていた美早みはやの為にも、全員無事に助け出すと四人は心に誓った。


 それから二日後、出井州でいずによってもたらされた情報の精査が完了した。美早みはやは未だ目覚めていない。しかし再び研究員達に逃げられては困るということになり、夜を待ってから四人で作戦を決行することが決まった。


 議場に乱入した際と同じ黒コートに身を包んだ四人が闇夜を駆ける。

 辿り着いた建物の明かりは落とされ、人々の生活音が遠く聞こえてきているのみだ。事前に防犯装置は解除されているとはいえ、警戒を怠ることなく静かに建物の中へと侵入する。呼吸音すら響きそうな静寂の中、足音を殺して侵入した一階から最上階の三階まで人の気配を探して動く。

 道中、見つけたパソコンの一つを起動して情報技術部から手渡されていたハッキング用のデバイスを取り付けた。

「なんか、妙じゃないか?」

 最上階である三階への階段を上りきった所で樹端たつはが口火を切った。それは全員が思っていたことのようで、最初よりも警戒心が増している。

 再び罠に掛けられたのか。

 疑いながら最上階を物色したが、それは呆気ないほど何も起こらずに終了した。だからこそ余計に四人は警戒を露わにする。

「なんだか、嫌な感じがするわ」

 不安を口にした永那えいなに全員が目配せだけで同意して、まるで呼び込まれているような気さえする地下へ向けて足を進めた。やはり地上階では誰にも何にも出くわす事がなく、何の障害もないまま地下へと続く階段を下りる。階段を下りた先に現れた異常に厳重なセキュリティ対策が成されたドア。残りの三人が周囲を警戒しながら、荒隆あらたかがドアノブへと手をかけた時だった。

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