第十二話 継承
「そうじゃない。そうじゃないんだ……」
「違うの?」
不思議そうな05には、何故
「すまない」
「どうして謝るの?」
訳が分からず困惑した05の直接の問いかけ。それを聞き覚悟を決めた
「俺は、お前を、お前達を見捨てて逃げた。自分だけ生き延びて、のうのうと暮らしてたんだ!!」
「なーんだ。そのこと」
呆気ない05の反応に毒気を抜かれた
「僕たちは何も知らない子供だった。助かる方法も、助ける方法も知らなかった。ただそれだけ。その時取り得た精一杯をした結果が、今。悔いる必要なんてどこにもないよ」
「だが!」
なおも言い募る
「悔やみたいのなら、一つ協力してくれない? 僕、復讐したいんだ」
「俺達に、か?」
「ううん。生きるのも精一杯な僕に、好き勝手した奴らにさ」
腰掛けていたベッドから立ち上がった05が真剣な表情と声音で
「あの世界の僕はもう自由に動くことすらできない。目も見えないし、耳も聞こえない。残されたのはこの幻物質に関わる力だけ。だから9の手助けが必要なんだ」
「それは構わないが、お前の能力は、一体……?」
脳への直接と思われる攻撃と、この空間の形成。どういった力なのか、はかりあぐねていた
「僕のはね、幻物質を通じて脳に干渉する能力なんだ」
「脳に干渉……!?」
「他人の知識や記憶を盗み見たり、9達にやったみたいに脳に直接衝撃を発生させる。でもこれは序の口。その気になれば、もっといろいろできるんだと思う。ただこれ以上をやるにはあいつらの科学力では足りないし、僕が単体で行うには身体がもたないんだ」
自分の能力について他人事のように話す05の説明に、
「お前が助かる方法はないのか?」
「脳以外の生体機能がやられてるらしくてね。助け出された時、生きているのが不思議な状態だったんだ。やつらの記憶を自分で見たから間違いないよ。記憶は嘘をつけないからね」
「……そうか」
つらさを押し殺し、諦めきって話す05の様子に
ふと05は何かを思いついたように
「…………うー」
「……何を?」
「もうちょっとしゃがんでくれない?」
「……こうか?」
05の行動に疑問を覚えながら、言われたとおりに
「よしよし」
「05……?」
「大丈夫だよ。だいじょうぶ」
05に頭を撫でられ、慰められる。
「ねえ、9。僕もあのころ一緒に過ごした誰も、きっと9達のこと恨んでなんてないよ。少なくとも僕は、外の世界で無事に生きててくれて嬉しかった。また会えて本当に嬉しかったんだ。だからこれからも生きて」
心の底から嬉しそうに笑いかけてくる05に、
「……わかった。だが俺は、あいつらへの復讐をやめない。これは俺自身のけじめだから」
「そっか。なら役に立つかはわからないけど、僕の持つ情報をすべて9に託すね。ついでに僕の願いも叶えてくれると嬉しいな――」
白んでいく05の笑顔。
やがて
その眼はもう過去に囚われてはおらず、強く前を見据えていた。
脳内に刻まれた05の意思を感じながら立ち上がる。
――僕の願いは一つ。
「おや? ずいぶんと手加減をされたのですね」
立ち上がる
――あいつらに復讐する。ただそれだけ。
――その時きっと僕は死ぬ。
(05のおかげで思い出した。逃げ出してからがむしゃらに生きて、がむしゃらに死のうとしていたことを)
「何をしようとしても無駄ですよ。あなたも沈めてあげましょう」
――それでも僕は、奴らに一矢報いたい。
(05のため、俺にできること。それは)
「どうしたというのです!?」
「五号が操作を受け付けません!!」
「このままでは五号の脳がやられます!!」
鳴り響くエラー音で異常事態を察知した
(あいつらの頭がどこにあるのか、できるだけわかりやすく幻物質で囲うこと!!)
そして、すぐに異変は起きた。
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