第十一話 再会

「それが、あの05だってのか……?」

「おや、あなたがお知り合いでしたか。ということは……認識コード09ですね」

「そんな姿にされてまで、生かされてたのか……?」

 思い起こされる少年の顔とは重ならない現在の五号の姿に、荒隆あらたかは愕然としながら言葉を発する。

「心外ですね。五号から全てを奪ったのはあなた方でしょう? 目も耳も鼻も口も体も、生きるということ以外全てを奪われ、それでも彼は文字通り這いずって生きてきた。あなた方に復讐することだけを夢見て」

「言いがかりを!!」

 したり顔で解説する煤山すすやまに、荒隆あらたかが吠える。

「言いがかりですか? あなた方が爆発を起こし、逃げ出さなければ五号はこんな姿になることはなかったでしょう。それでも言いがかりだと?」

「俺があの時助けなかったから……」

 煤山すすやまの言葉で思い起こされる、かつて血に染まった自らの右手。震える右手に視線を落とした荒隆あらたかが呆然と呟く。

「ああ。あなた、五号を見捨てたんですか」

「見捨てた? 俺が?」

「だってそうでしょう? 傷だらけでも息があった五号を捨て置いて他のお仲間と逃げた。これが見捨てたといわずなんというのです?」

 質の悪い笑みを浮かべた煤山すすやまの発言に、荒隆あらたかが狼狽する。追い打ちをかけるように続く煤山すすやまの声で、次第に荒隆あらたかの目の焦点がブレ始めた。

「聞くな、荒隆あらたか!」

「あ、あ、ああ、うああああああああ!!!」

 気付いた双也なみやが会話に割って入るが、時すでに遅し。血まみれの両手の幻覚を見た荒隆あらたかが錯乱して暴れ出す。

「このままじゃまずいな」

 暴れる荒隆あらたかの攻撃を避けながら双也なみやは策を巡らせる。

(錯乱してるとはいえ、荒隆あらたかが相手では手加減はしてられないな。かろうじて肉体は強化されたままのようだ。こうなったら力ずくで止める!)

 無作為に暴れる隙だらけの荒隆あらたかの腹に拳を殴り入れる。

「かは……っ」

「悪いな、荒隆あらたか

 倒れ込む荒隆あらたかの腕を掴み、力ずくで立ち上がらせると、双也なみやは撤退の為に後ずさる。

「逃がしませんよ」

「ぐあっ」

 撤退の動きに気付いた煤山すすやまにより、再び脳を襲う衝撃に双也なみやは片手で頭を押さえうずくまる。

「――はぁ、はぁ、はぁ」

「まだ気絶させるには威力が弱いようですね。出力を上げましょうか。脳を潰さないように気を付けて」

 五号の横、機器を操作する研究員に煤山すすやまが指示をする。

「このままおとなしくやられる訳にはいかないんでな」

 煤山すすやま達には見えない大剣を出現させ、支えにして立ち上がる双也なみやに、ぴくっと微かな反応を示す五号。ほんの微かな反応のため、計器をモニタリングしていた研究員達も気付かなかった。

「やれ」

「ぐああああああ!!」

 三度目の脳への直接攻撃により、幻物質による身体強化の維持すら出来なくなり双也なみやが地面に倒れた。掘り起こされた過去のトラウマと双也なみやに殴られた衝撃とで茫然自失でへたり込む荒隆あらたかの眼前に一つの幻物質が浮遊してくる。

(なんだ……?)

 他とは違い、意思を持つかのように存在を主張する一片に荒隆あらたかは吸い寄せられるように手を伸ばしていた。

『見つけた』

 触れた瞬間流れ込んできた光の本流に思わず目を閉じた荒隆あらたかの耳に確かに届いた懐かしい声。


 恐る恐る目を開けると、目の前には忘れられるはずもない研究施設の部屋が広がっていた。部屋に設えられたベッドには一人の少年が腰掛けている。荒隆あらたかはその姿に見覚えがあった。

「ここは僕の能力で作られた心象世界。何者も干渉することはできない二人だけの空間」

 淡々とこの空間の説明をする少年に、荒隆あらたかは動揺を隠せない。

「05……なのか……?」

「僕を知っているの? ごめんよ、誰だかわからなくて……」

「認証コード09。俺もかつてそう呼ばれていた」

「9? 本当に、9? そっか、生きていたんだね」

 思いもよらぬ再会に微笑む05に荒隆あらたかはいたたまれない気持ちになる。

「嬉しいな。もう二度とあの頃の誰にも会えないと思ってたから。そうだ! 一緒に遊ぼうよ! あの頃は遊びなんて何も知らなかったし、何もなかった。でもここなら何でもできる。何をしても許されるんだ」

 無邪気に笑いかけてくる05を見つめ返すことが出来ず荒隆あらたかは俯く。

「すまない」

「そうだよね。今あっちじゃ9と9の仲間はピンチなんだ。僕と遊んでなんていられないよね」

 俯いた荒隆あらたかの口から零れ出た謝罪に、05が寂しげに言いつくろう。その様子に荒隆あらたかは目をきつく閉じ、両拳を握りしめて唸るように答える。

「そうじゃない。そうじゃないんだ……」

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