第三十一話 真相

「私がやる」

 聞こえてきた声に驚きつつ視線を向けると、そこには黒コートに身を包んだ美早みはやの姿があった。

「お前、大丈夫なのか!?」

 四人がここに来る直前まで病床に伏して意識のなかったはずの美早みはや樹端たつはが心配の声を上げる。

「戦えはしないけど、私の力は元々戦う為のものじゃないから」

 そう口にしながら美早みはやが静かに煤山すすやまへと近付く。永那えいなの鞭できつく縛り上げられ、息をするのもやっとな煤山すすやまの顔が恐怖に歪む。

「何を……!?」

「私達の事、あの子達の事、あなたが知ること全て話して」

 美早みはやの声が幻物質を通して煤山すすやまに絶対順守の命令として伝わる。やがて煤山すすやまの身体から力が抜け、ぽつりぽつりと話し始めた。

「最初のきっかけは、超能力と呼ばれる力の一部が幻物質によるものであるとわかったことでした――」




     *     *     *




「素晴らしい研究結果じゃないか! これが本当なら、幻物質を視認し操れれば誰でも超能力者になれるぞ!!」

「これで研究費が打ち切られる可能性も減りますね」

 若き日の煤山すすやまの研究結果に同僚達が喜びの声を上げる。それが悲劇の始まりとも知らずに。

 やがて小さな研究所の一部だったはずの幻物質研究班は政府直轄となり、様々な研究を繰り返していく事となった。

「見て見ろ! このマウス、今までにない脳波が出ているぞ!」

「身体能力も秘薬的に上昇していますね。ついに幻物質用の脳活性剤が出来ましたか!」

 この頃はまだ実験用のマウスやモルモットを使い、一般的な薬品研究とさほど変わりはなかった。しかしすぐに事件が起きた。

「幻物質活性剤を孤児に投与するってどういうことですか!!」

「上からの命令だ。逆らえば首を切られるだけでは済まないんだよ」

 政府からの通達を耳にした研究員の一人が所長へと猛抗議を始めたが、所長は上からの命令だの一点張りで聞く耳を持たなかった。そんなことは耐えられないと辞表を提出したその研究員は、直後に不慮の事故で命を落としたと研究所内に伝わった。それからは文句を言う者も、辞める者もいなくなり、荒隆あらたか達が収容されていた研究施設が誕生した。

 最初に連れてこられたのは二十四人の二歳から五歳程度の年端も行かない子供達だった。健康状態等を全てデータ化した後、問題のなかった二十人に脊椎へ幻物質活性剤の直接投与が行われる事となった。

 そして二年が経った頃。荒隆あらたか達五人が幻物質を視認できるようになり、ある程度の操作方法を手探りで研究している最中に研究施設の崩落事故が起きた。




     *     *     *




「――私は偶然にもあの日非番でして、難を逃れました。その後この研究の第一人者として、瓦礫から掘り起こされた五号と研究資料を用いて研究を続けてきました」

「ふざけやがって……」

 朗々と語る煤山すすやまの話に耐えかねた樹端たつはが吐き捨てるように呟く。

美早みはや、今のこいつに質問は可能か?」

「何が聞きたいの?」

「今、子供達はどこにいるのか」

「あの子達は今どこにいるの?」

 一つ深呼吸をした後に、美早みはやが力を込めて再度煤山すすやまに問い掛ける。

「国内にいる被験体は全てこの下の階に。国外に傭兵として出されている者達の居場所は、おそらく総理とその周辺しか知りません」

「その辺は情報部に任せましょう。ここのデータは既に持ち出せているようだし」

「他に聞く事はあるか?」

 荒隆あらたかの最終確認に三人共首を横に振って答える。

「それじゃあ今度こそ、始末をつける」

 覚悟を決めた荒隆あらたかの手によって、煤山すすやまの頭部と胴体が切り離された。今度こそ完全に煤山すすやまはこと切れたのだった。

「なんていうか、呆気ないわね」

 永那えいなの言葉に全員が無言で肯定する。わかってはいたが、すっきりと晴れ渡るような心地はまるでなく、どちらかというと陰鬱な気持ちが心の中に漂っている。

 ずっとこうしている訳にもいかないと、重傷の双也なみや永那えいな美早みはやに任せた荒隆あらたか樹端たつはが下層の様子を見に行く。

 そこから先には特に鍵はかかっていなかった。簡易的なドアを開けると、だだっ広いフロアに大量の真っ白なベッドが並んでいる。多少の空床はあるが、使われているベッド全て寝ているのは議場で会った年頃の子供達だった。

「研究員はいなさそうだな」

「この子達も連れて撤収しよう。救護班を要請する」

 最下層を確認し終えた荒隆あらたか達によって、外で待っていた構成員達が呼び込まれる。

 重傷の双也なみやを真っ先に搬出し、次いで子供達全員を保護したのだった。

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