第三十話 奇策

 双也なみやの剣戟を受け止めたのは、八角形の立体をした先程までとは比べ物にならない大きさの幻物質の塊だった。

「何!?」

「さて、どうしてでしょう?」

 悠然と双也なみやの攻撃を受け止めた煤山すすやまがニヤリと笑った瞬間、これまでで一際大きな光線が双也なみやの上半身を飲み込んだ。

双也なみや!!」

 自力で瓦礫を押しのけて出てきた樹端たつはが見たのは、光線に弾き飛ばされ上半身血塗れで壁に激突する双也なみやの姿だった。呼びかけに反応なく倒れ伏す双也なみやに興味を失くした煤山すすやまは、新たな獲物を見つけた蛇の様に眼光鋭く樹端たつはに向き直る。

「今度はあなたですね!」

 双也なみやに放ったのとは別の面から樹端たつはに向けて光線が放たれる。五人の中で一番防御力の高い双也なみやが正面から食らって倒れ伏したのを見ていた樹端たつはは全力の横跳びで光線をかわした。横へと転がることで光線を避けて体勢を立て直した樹端たつは煤山すすやま目掛けて駆け出す。放たれる光線を間一髪で避けながら、樹端たつは煤山すすやまとの距離を詰めていく。

「今日はあの手は出さないのですか? もっとちゃんと見せてくださいよ」

「そんなに見たいなら見せてやるよ!!」

 煤山すすやまの周囲六方向に幻物質で出来た巨大な手が現れ、叩き潰さんと迫る。

 ギィイイイン

 再び幻物質同士の衝突音が響いた。八角形の面を有した膜状の幻物質が煤山すすやまを守るように覆っている。

「ちっ! 光線放つだけじゃねぇのかよ」

 忌々しさを隠さず舌打ちをしながら、なおも樹端たつは煤山すすやまへと向かう。先程まで放たれていた光線が止んだおかげで肉弾戦へと持ち込める距離に容易に近付くことが出来た。そのことに気付いた樹端たつはが口の端で笑う。

「なるほどな。お前の力は攻撃と防御の同時展開は無理ってことか」

 矛である光線と盾である被膜を同時に操る事は、煤山すすやまの能力では文字通り矛盾が生じるのだろう。現に今、隙だらけの樹端たつはに光線が放たれる気配はない。

「そんじゃ、力比べといくか? 俺の攻撃とお前の防御、どっちが強いかをな!」

 いうが早いか六本の巨腕が煤山すすやまを覆う被膜に殴りかかった。息つく暇を与えぬ樹端たつはの攻撃に、煤山すすやまは完全に防御に徹している。中までぎっしりと幻物質で固め作られた腕の攻撃と、周囲を覆うだけの被膜。どちらが優勢かは火を見るよりも明らかだった。やがて衝撃に耐えかねた被膜の一部にヒビが入り始める。

「こうなっては仕方ありませんね」

 諦めたかにみえた煤山すすやまだったが、突然周囲を覆う膜の範囲を膨張させ始めた。

「何するつもりか知らねえが、ここまで来たら!」

 バリィンッ

 迫りくる被膜のヒビを狙った樹端たつはの殴打で、ガラスが割れたような音を響かせて膜が砕け散る。

「これで終わりだ!」

 被膜に殴りかかっていた巨腕が煤山すすやま目掛けて殴り下ろされる。

「がっ!!」

 しかし、攻撃を受けたのは樹端たつはの方だった。

「惜しかったですね。ですが、まだまだ甘い」

 巨腕に殴り潰された車椅子。そこからギリギリで跳び退いた煤山すすやまが突然の攻撃で片膝をつく樹端たつはの背後に立っている。

「チェックメイトですよ」

 再び作り出された八角形の立体から放たれた光線が未だに片膝をついた樹端たつはへ直撃したと思われた瞬間、今度は煤山すすやまの身体が左側からの衝撃で吹き飛んだ。

「惜しかったな」

 直前まで煤山すすやまが立っていたその場所には、したり顔で笑う樹端たつはが立っていた。

「俺だって、幻物質の腕を盾にする事くらい出来るんだよ」

「あなたの独壇場もここまでよ」

 瓦礫から這い出していた永那えいな煤山すすやまを鞭で縛り上げ、樹端たつはの巨腕が光線を放つ立体を握り潰すと幻物質の塊はあえなく無散する。

「成長したな、樹端たつは!」

「いってぇ!」

 後ろから現れた荒隆あらたかが褒めながら樹端たつはの背中を強かに叩く。

「俺、褒められたんだよな!?」

 荒隆あらたかの不条理な行動で涙目になった樹端たつはが疑問を訴える。

「さて、あとはいろいろとどうやって吐かせるかだけど」

「私がやる」

 聞こえてきた声に、三人が驚きに目を見張りつつ声の方を振り向いた。

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