第十六話 正体

「っ!!」

 再び警戒した四人の前で男は美早みはやの頭を撫で始めた。

「一緒に来るか? お前らも腹減ってんだろ? ラーメンくらいなら作ってやるよ」

「らーめん?」

 聞き返した美早みはやの後ろで四人は困惑して見つめ合う。

「なんだ? ラーメンも知らねえのか?」

「しらない……」

「じゃあ食べに来い。俺の家に案内してやる」

 そこでさすがに美早みはやは困ったように振り向いた。

「ひとにみつからないならいく」

 美早みはやの視線を受けた双也なみやが代わりに答える。

「だったらこっちだ。ついてきな」

 事情があるとわかっていた男は問い詰めることなく五人を案内し始めた。


「ここが俺の家だ」

 案内されたのは、木材や鉄パイプ、ダンボールやブルーシートで作られた雨風がようやく凌げるようなこじんまりとした物体だった。

「これが、いえ……」

 実験施設や逃げている間に見た建物との差に絶句する五人。

「今ラーメン作ってやるからそこにいな」

 呆然とする五人を後目に男は形が歪な鍋で湯を沸かし始める。

「なんだい登崎とざきさん、その子らどこから拾ってきた?」

「訳ありで腹が減ってるみたいだからな。ラーメンでも食わせてやろうと思って」

「そりゃいい、俺の鍋も使うか?」

 荒隆あらたか達を連れてきた男に登崎とざきと呼びかけた二人の男が鍋と卓上コンロを片手に寄ってくる。

「ありゃ、よく見りゃ裸足か! 怪我はないか?」

 有り合わせの椅子とは呼べない箱に五人を座らせた男の一人が心配そうに足を見た。

「だいじょうぶ、です」

「怪我がなくても裸足はなぁ。靴下しかないが、履くか?」

 もう一人の男が自身の小屋の中から薄汚れた靴下を手に現れる。そうこうしている間にラーメンが出来上がったようで、辺りにおなかのすく匂いが漂っていた。

「そら、出来たぞ。熱いから気をつけて食えよ!」

 登崎とざきに使い古した割り箸と共にラーメンを薦められ、空腹の限界に達していた五人はそっと口に運ぶ。

「あつっ!」

「ふーふーしなきゃダメだろ?」

「ふー?」

「こうだ、こう」

 熱いものの冷まし方すら知らない五人に優しく食べ方を教えてくれるホームレス達。彼ら五人がどこから来たのか、聞きたいことは沢山あっただろうが、誰もそれを口にはしない。

「あつい……でも、おいしい」

 火傷しないように熱々のラーメンに息を吹きかけながら必死で食べる五人の様子を登崎とざきは黙って見ていた。


 その夜、五人は登崎とざきの家だという手作りの小屋で久しぶりにちゃんと眠りについた。五人の寝顔を眺めていた登崎とざきがそっと小屋を抜け出すのにも気付かずに。

「俺だ。生き残りを見つけた。情報通りだな」

 通信傍受の心配のない、専用端末を片手に登崎とざきはどこぞかに連絡をしている。

「出来るだけ早く迎えを呼ぶ。もうしばらく待機を。……夜中に出歩くとは、悪い子だな」

 通信を終えた登崎とざきは振り向くことなく背後で様子を伺っていた小さな影に声をかける。

「やっぱりあんたはてきか。おれたちをつれもどすつもりだな?」

 姿を現した荒隆あらたかの瞳が白く発光する。それを見た登崎とざきがさすがに息を飲んだ。

「まさか、本当に実験が成功していたのか!?」

「おれたちはあそこにはもどらない」

 拳を握りしめた荒隆あらたか登崎とざきに殴り掛かる。避けた拳の空を切る音が、掠るだけでも致命傷になり得る事を登崎とざきに教える。

「待て待て、落ち着け! 連れ戻しに来た訳じゃない。助けに来たんだ」

「たすけ?」

 登崎とざきの言葉で荒隆あらたかの攻撃が止まる。

「俺はとある組織の人間でな。目的はお前らの保護だ」

「しんようしろと?」

「まぁ、すぐには難しいよな」

 警戒心剥き出しな荒隆あらたかの様子に、登崎とざきは自嘲気味な笑みを浮かべる。

「共に来い。俺が言えるのはそれだけだ」

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