第25話 始まり


 朝から翔馬は苛ついていた。

 本来ならば、十九歳の時に都民党から出馬して当選し、応援する政治家や財団の力を借りて超異例の速さで総理大臣に就任し、二年後兼ねてから計画されていた対ギガントビースト討伐機動部隊トライアングルホースのお披露目と。


 今回の碧馬との結婚式で、翌朝の朝刊やニュースは翔馬の話題で持ちきりになるハズだった。

 そうだったのだ


 昨日、突如浅草の河川敷に出現した謎の巨大ロボが、ギガントビーストを殺した《倒した》からだ。

 これが大騒ぎなのは二つの点にある。

 一つは正体不明の全長55メートルの巨大ロボが地面を突き破って現れたこと。

 驚かれたのはその巨大に関わらずスムーズかつ俊敏な動きを見せたこと。

 これまで人類の化学力では精精20メートル級の人型兵器を動かすのが限界。だから、どこの組織が開発し、高度な技術を用いていたのか不明だからだ。


 二つ目。

 未だかつてギガントビーストを倒した前例がなかった。

 それをあの巨大ロボットが倒した。しかも二匹も。


 以上の要因で世間はガイアーク《謎のロボット》の話題で持ちきりだ。

 それのせいで翔馬自分が主役になれなかったのが悔しくて仕方ない。

 寄りによって輝かしい結婚式に泥を塗られたからだ。


「なんなんだ。あの不細工なロボットは?」


 場所は国会議事堂地下にあるトライアングルホース研究所の会議室。

 そこで、美形な顔を歪めた翔馬が壁を叩いた。

 しかし、無理して叩いたせいで痛かったらしく、右手を振って左手で拳を押さえた。


「確かにずんぐりした機体は美しくはないが、あの機動力と傷一つ付かない装甲とトカゲ型の首を握り潰すパワーは驚異よ」


 白衣を纏い栗毛色のツインテールの女性が翔馬に話しかけた。

 彼女はかつて狭間との同級生今井玉樹だ

 玉樹もエリートで、東大工学部に通いながら異例の早さで、兵器開発責任者に任命された。


「アレは一体どこの組織のアクティブアーマーなのかしら?」


 玉樹に話しかけたのが翔馬と同じ東大に通いトライアングルホース司令官に任命された美しき司令官入間碧馬。

 新婚ホヤホヤ誰もが羨む翔馬の婚約者だ。


「それがサッパリ分からないからなぁ碧馬ちゃん」


 玉樹が言った。司令官とタメ口で会話出来るのは翔馬と彼女くらいだ。


「あの巨大ロボットの機体構造が我らの機動兵器とは全く異なるんだ」

「そうなるとその技術はどこから?」

「全く分からない」


 彼女が言うには目撃証言だけで映像は撮られてなくて、検証が不可能らしく『今のところお手あげだよ』と首を横に振った。


「そうですか、しばらくあの巨大ロボットは要注意ですね。それより玉樹主任。我々の切り札の完成状況は?」

「うむ、最終調整段階だ。問題はパイロットだな」

「それは私の仕事。守屋君と春香ちゃんの二人ならやれる信じてますよ」

「そうだったな……」


 とは言うものの玉樹は負に落ちない様子。本来ならば組織と同時にエース機が花ばしいデビューを飾る予定だった。

 それがガイアーク《謎の巨大ロボ》の話題で霞んでしまう可能性があった。


「まぁ、次は我々の華々しいデビューと初討伐勝利と行こうじゃないか」


 労う様に碧馬の背中を叩く玉樹。


「そうね」


 その後二人は持ち場に離れた。


 ◇ ◇ ◇


 騒ぎがあった河川敷は捜査のために立ち入り禁止になっていた。

 狭間とガイアと五人の孤児たちは、向う岸の離れた場所に焚き火をして暖をとっていた。


「お前ら孤児院に帰らないのか?」

「それはムリ!」


 狭間が聞くとケンが答えた。


「オレたちも兄ちゃんと同じで、政府の始末屋に連行されるとこだったんだ」

「何故だ?」

「知らねーよぉ……ただ何となくだけど、俺たち始末されると思って逃げたんだ」

「……翔馬がやりそうなことだ」


 狭間は苦虫を噛み潰した表情を浮かべ、木の枝を火にくべた。


「それより腹減ったよ……」


 ケンがお腹を押さえ不安そうに言った。


「……確かにどうすれば……」


 合わせた両手に顎をのせて座る狭間。彼らは一銭も持ち合わせてないから、明日の食事にもありつけない絶望状況だ。


「馬鹿なのかマスターは?」

「な、にぃ?」

「んっどうしたマスター?」

「……いや、別に……」


 隣に座るガイアに言われムカついた狭間だが、倒木を片手で持ちあげる彼女を見たら文句が言えず黙った。


「何のためにガイアークの力があると思っているマスター」

「えっ?」

「……まーーだ分からんのかマスター!良いか? ガイアークの力は金になる。だから今から巨人獣の被害国に行くぞ」


 ガイアが立ちあがり狭間に指差した。


「ちょっと待て、行くってどこに?」

「とりあえずオーストラリアだ」


 恐らく頭に浮かんだ国名を言っただけだ。しかし、どの国も巨人獣の被害で逼迫ひっぱくした状況だ。

 だから、ガイアがどの国を指名しても正解だ。


「はぁっなんでオーストラリアだ。まさかコアラでも見に行くつもりじゃ?」

「まだ分からんの怒るぞ《ごしゃくぞ》マスターいいか? ギガントビーストを退治したら、その国からお礼を貰えるだろ?」

「確かに貰えるかも知れないがしかし、俺の正体は翔馬たち《奴ら》に知られたくない」

「なんだマスターウブか?」

「違うっ!俺は復讐のために自分の正体を知られたくないんだよ」

「そうか、ヒーロー漫画なら敵や味方に序盤から正体を明かす馬鹿な展開はないな。良し分かった顔を隠せ」

「理解したら急だな……しかし、バイクのフルフェイスのヘルメット被ってもかっこ悪いぞ」

「ならば今作れば良い」


 やはりガイアの決断は早く即行動に移す。まあ、悪く言うとせっかち。


「今ってマジか?」

「ああ、今すぐ仮面を作る」

「材料ねぇぞ?」

「あるだろそこら中に」


 ガイアは道端で転がっている車に指差した。ぺしゃんこになっていて、昨日の巨人獣の襲撃で廃車にされたらしい。


「いやっまさか、それを材料にする気か?」

「ああそうだ」


 バキッ!


 ガイアは廃車のボディを掴むと車体の一部を毟り取った。


「おいっマジか!?」

「ふうむ、こんなものか……では兜の状に形成するぞ」


 ギュルギュル……


 ガイアの手の平に乗った鉄屑が急速に熱を帯びてドロドロに溶け出し、そのまま兜の形状に変化した。

 要するに彼女の手の平の上で溶解、形成の工程が行われた。


「おいっ仮面が出来たぞマスター」


 出来たてホヤホヤの鉄仮面を差し出すガイア。流石に色は塗ってないが、フルフェイスで顔を隠すには充分な出来上がりだった。


「すげえっ!」


 様子を見ていたケンが感嘆の声をあげた。


「受け取れマスター」


 ガイアは湯気たつ鉄仮面を狭間に放り投げた。


「おいっアッチ!アチチッお前マジか!」


 反射的に高熱の鉄仮面を受け止めた狭間は、手の上で転がしたまらず放り投げた。


「せっかく作ってやったのにかぶれよマスター」

「無茶言うな俺を殺す気かガイア?」

「フッ大分元気になったではないかマスター?」


 ガイアは微笑んだ。


「……あぁ、俺は、数日前はこの世の終わりかと思っていたが、こうしてお前たちと笑いながら過ごしている。

 まだまだ人生捨てたモノじゃねーなぁ?」


 狭間は右手の甲で目を擦った。


「兄ちゃん!」

「んっお前ら……」


 子供たちは狭間の側に寄った。


「兄ちゃんとなら俺たち生きていける気がするぜ」

「ケン……ありがとうな」


 狭間はケンの頭をグシグシッと撫でると、笑顔を取り戻した。


「さて、ちょっと待ってろ。今から飯調達しにオーストラリアに行くから」


 まるで日帰りするかの様に言ってから、ガイアークを呼び出し搭乗した。


「良し行くぞガイア」

「了解マイ・マスター」


 ガイアはノリノリで敬礼するとガイアークを浮上させた。


「おいっこの機体飛べんのか?」

「なんだマスターまさか海に泳いでオーストラリアに行くつもりだったのか?」

「まぁな、まさか翼のないズングリしたガイアークが空飛べるとは思わなかったよ」

「失礼な……まぁ無理もない。だが安心しろ。反重力で飛ぶこの機体例え墜落してもビクともせん」


 ガイアは、地球外の鉱物で出来ているガイアークの装甲はとにかく丈夫だと説明した。

 ともかく、空を飛べて無敵の強さのガイアークと仮面の救世主の物語が始まった。





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