第15話 暗雲
「やっぱりお前がなると思ったよ」
生徒会選挙発表されてから放課の教室で慎吾が肩を叩きながら言った。
狭間が生徒会長になっても変わらない態度で接する親友だ。
「僕は狭間を信じていたよ」
もう一人の親友顕正寺が眼鏡に触れてながら話しかけた。
「お前らありがとな」
「水臭いこと言うなよ。応援してるよ」
顕正寺の声援を受けて狭間は友達って良いなと思った。
「ところで」
しかし彼は慎吾にも用があって狭間の教室に訪れたらしい。
「先生が今すぐ職員室に来いと言ってるぞ」
「マジか……俺なにもしてねーぞ?」
「知るか!僕も一緒に呼ばれてるんだ。とにかく行くぞ」
顕正寺は慎吾の手を引っ張って教室を後にした。狭間も行くと言ったら、『お前は呼ばれてないから』と同行拒否された。
ちょっと様子がおかしい顕正寺の態度だったが、狭間は気にすることなく生徒会室に向かった。
生徒会室には碧馬が書類の整理をしていて、狭間が中に入ると目が合った。
「あ、あの……」
めでたいのに彼女の前では何故か言いづらそう。それもそのはず、前に告白した結果は生徒会選挙で勝ったらとの約束だってからだ。
告白の結果はほぼ勝ちだろうと狭間は高をくくっていたが、それでも彼女の口からから答えを聞くまで胸の高まりは止まない。
「あっ!ごめんなさいっ今すぐ職員室に行かなきゃ」
「あ、うん」
慌てた様子で書類の束を脇に抱えた碧馬が出て行った。
一人残された狭間はとりあえず生徒会長の椅子に座って他の役員の生徒が来るのを待つことにした。
挨拶する気満々だった狭間だが、日が暮れても役員が来ることはなかった。
だから仕方なく帰宅することにした。
◇ ◇ ◇
狭間が家に帰ると隣りの工場がやけに静かだった。いつもは部品を削る機械音で喧しいだけに妙だと思った。
そして、茶の間を覗くと工場の経営者であり工場長の父春雄がうなだれ、あぐらをかいていた。
時刻は午後6時でまだ工場はフル稼働中の忙しい時間だ。それなのに工場長の親父が茶の間で休憩しているのは初めてだ。
「……どうした親父?」
こんなに早く帰っているのははずがないと聞いた。すると春雄が重い頭をあげた。
「どうしたもこうも……借金して最新設備を導入した矢先に、親会社からの緊急取り引き停止だぞ……」
「……停止って重篤寺重工から……」
口には出さないものの、競い合って負けた翔馬が影響してるのではと、狭間の脳裏を過ぎった。
でも、自分の気まぐれで立候補して勝ち取った生徒会長の座のせいで嫌がらせを受けたなどと、そんなことは口が裂けても言えなかった。
「優斗お前確か、生徒会選挙で競い合ったのが重篤寺重工の御曹司だったよな?」
「……そうだけど」
「だったら何故早く父さんに言わなかった?」
春雄が悲痛な表情を浮かべ湯呑みを握りしめて言った。
「……まさか、そんな嫌がらせされるとは思ってなかったし……」
「いや、現に家族にも影響が出ている。寄りによって借金した矢先にだぞ? 何故お前は辞退しなかった?」
春雄は声を荒げちゃぶ台を叩いた。
「ま、まさか俺が当選するとは思ってなかったから……」
自分が勝つとは夢にも思わなかった。しかし、勝ってしまい。それが原因か、不穏な空気が漂い始めた。
負けたライバルにして見れば死ぬほど悔しいのは分かる。だけど、だからと言って他人の人生を狂わすほどの嫌がらせするか? と狭間は思った。
その後なにも言えず狭間は部屋に篭った。
◇ ◇ ◇
それからしばらくして、狭間の工場は親会社の一方的な通告により、半永久的な工場停止命令を下された。
それによって春雄は泣く泣く全従業員を解雇せざる得なかった。
「……」
しばらくベッドの上で横になっていた狭間だが、起きあがって外に出て自転車にまたがった。
こんな時彼女なら慰めてくれるだろうと、幼なじみの春香の家に向かった。
狭間の家の前に着くと丁度、帰宅する春香の背中が見えた。
「春香っ!」
後ろから声をかけると彼女が振り返るが、その表情は険しく何故狭間を睨んでいた。
「ど、どうした春香?」
「気安く名前を呼ばないで」
「えっ一体どうしたんだ?」
あれだけ笑顔を見せていた春香の態度が険悪に急変して、狭間は困惑気味に聞いた。
「あたしの父さんが始末屋だってデマを流したのが
「ちょっと待て!俺がそんな噂を流すと思うか!?」
自転車から降りた狭間が春香に迫る様に叫んだ。すると彼女は避ける様に後退りした。
「証拠はあがっているよ」
玄関から顔出した後輩の守屋が言った。
「お前居たのか……」
「見損ないましたよ先輩」
そう言って守屋が手にしたスマホの画像を狭間に見せた。
「こ、この画像は……」
画面を覗き込み狭間は絶句した。その画面には狭間と見覚えのある新聞記者の姿が。
それは見覚えがあった。以前春香の家の前で新聞記者と会話した場面だ。
「た、確かに春香の家の前で新聞記者と話したが、俺は決して良からぬ噂は流してない」
「出て行って顔も見たくない……」
「はっ春香っ!」
聞く耳持たない様子の春香がそう言って家の中に入ってしまった。
唖然として玄関を見つめる狭間に対し、ニヤニヤしながら守屋が見つめていた。
「先輩最低すっね」
「お前謀ったな?」
流石のお人好しの狭間でも怒りがこみあげ、守屋に振り向き睨んだ。
「おー怖っでもね、僕は事実を彼女に言ったまでですから」
そう言ってほくそ笑みながら守屋は彼女の家に入って行った。
「そう言うことかクソっ!」
生徒会長になって浮かれている間に狭間は、幼なじみを後輩に取られたことに気づいた。
守屋があらぬ噂を流したにしても、一瞬にして彼女との関係が崩壊するとは予想だにしなかった。
「俺は本当になにもしていないのに……」
こんな思いをするなら春香の家に向かわなければ良かったと狭間は後悔して、肩を落として自転車を漕いで帰路についた。
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