第8話 見えない力


 放課後、生徒会室で狭間はいつもの様に碧馬のお手伝いをしていた。

 手伝いと言っても、書類の作成とか彼は苦手だから、お得意の行動力で部活動の部長に必要書類を配ったりした。


「手伝うことは他にあるか?」

「うんっ狭間君のおかげで今日は終わりです」

「そうか、それなら……」


 一息ついた二人は椅子に座って休憩した。横には最近気になる碧馬彼女が居て心臓がドキドキする。


 碧馬が話さないから沈黙がしばらく続いた。だから、その間ずっと、狭間は彼女のことを考えていた。


『俺は碧馬のこと好きなのか?』


 己のことが分からないのはおかしな話だが、心が揺れ動く時は分からないモノだ。

 でも、段々に分かってきたことは、もしかして自分は碧馬のことが好きになってきたと、気づき始めた。


 だが、男子生徒の半数が憧れる碧馬は高嶺の花で、難攻不落の存在。そんな彼女にもし告白して撃沈したら、一生立ち直れないかも知れない。


 それでも彼には勝算があった。狭間は彼女に対して尽くしてきたし、それについこないだ暴漢から命がけで守った。そんな彼からの告白を無下にするだろうか?


 通常はあり得ない。ま、容姿が良くなかったら、いくら恩人であっても告白は成功しないだろうが、こう見ても狭間は結構イケメンだから成功率はあがる。

 だからもし、命の恩人の告白を断ったら、ソイツは人間じゃないレベルだ。


 ふと、隣で座ってた碧馬が振り向く。


「今日もお手伝いありがとうね狭間君」


 笑顔でお礼を言う碧馬。恋愛的な意味がなくても、それを聞いたら大抵の男はカン違いする

 だけど、今こそ告白のチャンスだ!


「ふう〜良しっ!」


 深呼吸してから自分に言い聞かせた。横で聞いていた碧馬は『なにが良しなの?』と、首を傾げた。


「あのさっ!」


 狭間が碧馬の方に向き直る。


「俺と付き合わないか?」

「えっ?」


 急に言われてキョトンとする碧馬。実に彼らしいストレートな告白の仕方。だけど、この方がアレコレ口説くより好感が持てる。


「そうね……どうしようかなぁ、狭間君なら悪くないけど……うんっそうだ!私からの答えは、君が生徒会長になってからで良い?」


 上手く答えをはぐらかされた気もするが、狭間にやる気を起こさせる上手いやり方だ。

 だが、選挙に勝てば碧馬が手に入る。ハードルは高いがヤル価値はある。


「そうきたかぁ〜分かった。俺が生徒会選挙に勝てば良いんだろ?」

「ええ、勝ちなさい狭間君。ぜひ期待していますよ」


 手ごたえアリか?

 そう言って碧馬は微笑み、手を振りながら狭間と別れた。


 ◇ ◇ ◇


「優君今日も遅〜い!」


 日が暮れる頃、正門に隠れる様に待っていた幼なじみの春香が言った。


「なんだ、俺を待っていたのか?」


 狭間は俺と一緒に帰るために春香が、わざわざ待っていたのかと呆れた。しかし、内心嬉しかった。


「なによ〜待ってて悪い?」


 春香はカバンを両手で持ってブンブン振り回し、いじけた子供の様に口を尖らして見せた。


「ようっ春香。本当に待っていてくれてありがとう」

「どういたしまして、それより優君額の傷大丈夫?」


 春香は自分の額に手を当てて聞いた。


「あぁ、まだ痛えけど大丈夫だ」

「そっ、なら良いんだけど……」


 春香が狭間の顔を覗き込んで怪我の様子をうかがう。


「だから、なんでもねーよ。これくらい」


 とは言ってもまだ傷は塞がってなく、痛みで顔半分が引きつった。


「それにしても優君良く無事だったね。前にも二回ほど事故に遭ったけど、ほとんど無傷で生還したよね、もしかして不死身?」

「んな訳ないっ俺は単なる運が良いだけだ!」


 狭間は幸運は信じるけど、オカルト話は信じない。例え不思議な少女の声を聞いていても、アレは幻聴だと今でも思っている。


「そうかなぁ……運だけじゃ説明出来ないと思うけど〜?」


 狭間はまだ納得いかない様子。


「ねぇっ事故の時なんかあった?」

「ねえよなにも……あ、一つ妙なことがあったな……」

「えっあるじゃん!詳しく教えて!」


 妙に春香が食いついてきた。どうやらこの手のオカルト話が大好きみたいだ。

 狭間は話しが長くなりそうなので、歩きながら春香に聞かせることにした。


「あのなぁ確か、二件の事故に共通したのが、辺りから日本酒の香りが漂っていたな」

「なにそれ、単なる酔っ払いが通り過ぎたのと違う?」

「……かもな」


 立ち止まり、妙に納得した狭間はしばらく考えたあと歩き出した。

 しかし、謎の酒の香りは置いといて、狭間は今回も含め三回も危機に遭いながら生還した。これには本人が良く分かっていないが、なにか大きな力に命助けられたと感じざる得ない。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る