救世主ロボ ガイアーク(カクヨム一般向け版)
寺島英寿
第1話 プロローグ
多次元地球西暦2160年、突如世界中に出現した全長約30メートルの巨獣ギガンティアによって都市が破壊され、人工の半分が殺された。
西暦2166年現在、真東京湾岸の港から上陸した一匹のギガントビーストが機動防衛隊を蹴散らし北に向かって前進中。
今回のタイプは初めて確認された人型。全長約40メートル、その風貌は、目が隠れるほどの金色の髪の毛に、全身金色の体毛を生やした筋肉質の巨人だ。
そいつが街を破壊しながら当てもなく歩く。だが、その間に被害が増していく。
そこで向かえ討つのは、ここ真東京のみならず日本国全土を防衛する政府直轄の機動部隊トライアングルホース。
この部隊の主力兵器は全長19メートルの人型戦闘兵器アクティブアーマー。日本が誇る企業である
ペガサスの主力となる
港に特殊指令車両が到着した。ボンネットに三頭の馬が三角になる様に描かれたデザインのエンブレムが張り付けられている。
「こちらトライアングルホース第二小隊、ただいまより川崎港に上陸した人型ギガントビーストに対し攻撃を開始します」
第一小隊隊長の
『こちら機動部隊トライアングルホース司令部了解しました』
川崎港に停まる一台の指揮車両から凛とした若い女の声が響いた。
年齢は二十代前半、スラリと伸びた黒髪ロングヘアーの誰もが見惚れるほどのスタイルと美貌で、紺色のロングスカートの軍服が凛々しくて似合う美女だ。
名は
特に男性隊員の憧れの存在だが、残念なことに婚約者がいる。
「敵は一体、だが、油断はするな」
指揮車両が来てもいつも通り顕正寺が、通信機で部下に声をかける。
『了解っ隊長っ本命第一小隊が来る前にかたをつけましょう』
「ああ、そうだな、勝利したら帰って祝杯をあげよう」
俗に言う死亡フラグとも言うが……
とは言え、まだ始まったばかり、五機のスタリオンが対ギガントビースト用ジャイアントマシンガンを人型に向かって構えた。
その距離8メートル、人型が動く前に引き金を引き一斉掃射した。
「やったか?」
『ああ、間違いねぇ蜂の巣だ……んっ待て奴は!』
気楽にやり取りしていた隊員が異変に気付いた。全弾を受けた人型は無傷で向かって来る。
それもそのはず、これまで人類はあの男あの男が現れるまでギガントビーストを追い払うことは出来ても倒したことは、一度足りともなかったからだ。
「グオオオオッオオォォーーーーッ!」
『奴が向かって来ますっ!うっうわー!』
人型が一般兵の機体にタックルして吹き飛ばし、銃を恐れるどころか突進してくる。
それでも前に行かせまいとスタリオンがマシンガンを乱射するが、徐々に後退を強いられる。
「くっ怯むな皆んなっ攻撃を緩むなよ!」
顕正寺の隊長機を中心に四機となったスタリオンが人型を取り囲み銃撃を続けた。
しかし、全く効いてる気配がしないし、攻撃によって人型を逆上させてしまった。
「グオオンッ!」
出鱈目に腕を振り回す人型が次々と残りの機体をなぎ倒して行く。
「くっ……やむ終えん、司令っ撤退します」
『待て顕正寺君っもう少しで第一小隊が川崎に到着します。だから少しだけ耐えて!』
「無茶言わないで下さいよ司令。いつまで待つんですか? その前に部隊が全滅しますよ」
『ちょっと顕正寺君っ!?』
碧馬司令官が呼び止めるも、顕正寺は通信を切って全機撤退させた。
「くっ……あと少し待てないの情けない……」
口惜しげな表情で車内モニターを見つめる碧馬。中にいるスタッフも落胆していた。
ただし約一名肩を震わせ笑う者が車両の横にいた。
「くっくく……ザマァねえな……」
『なんですって!』
何故か指揮車両の隣に立つ男の呟きが車内でも聞こえた。それは部隊を嘲笑する内容だったので、碧馬は黙ってはいられず天井部ハッチを開けて身を乗り出して、外にいる男を睨んだ。
「よう碧馬久しぶりだなぁ?」
男が振り向き目が合った。碧馬は不快感あらわに眉をひそめた。
ジャキッ!
その男は十人の機動隊に囲まれ、銃口を向けられている異様な光景だった。それ以上に異様だったのは、その外見。
男は銀色の雑に溶接した鉄仮面を被り、高級ブランドスーツの上にボロボロのダークコートを羽織って腕組みして余裕の態度。
「馴れ馴れしいわね仮面の救世主……」
碧馬は知り合いとおぼしき男に対して呼び名を言いたくないのか、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ言った。
「くく……だけど言ったろ、お前らではギガントビーストは倒せねぇ」
男の仮面の下から微かに見える口角が上にゆがんでいた。
「だから?」
「んっ? 俺が倒してやっても良いんだぜ?」
「お断りします。もうすぐ我が隊の精鋭が到着します」
碧馬の言う精鋭とは最新鋭機を操る第一小隊のことだ。だが、男はそれでも馬鹿にする様に笑った。
「くく、そいつらが来ても無理だと思うが、ほれっ人型ギガントビーストが一般市民を食い始めたぞ。どうする?」
下手な刺激を受けた人型が逆上して市街地に侵入して人を襲い始めた。
「くっ……仕方ない……き、救世主よ、どうか手を貸してくれません……か?」
眉根に皺を寄せ断腸の思いで碧馬が救世主と呼んだ男に頼んだ。
しかし、男は碧馬に向かって右手を伸ばした。
男を囲む機動隊が一斉に引き金に指をかけた。
「待てっ一応そいつは救世主と呼ばれる男だから……撃つな」
碧馬が言い聞かせると彼らは銃口を下ろした。しかし、男が不審な行動に移せばいつでも引き金を引ける様に、隊長たちは構えを崩さなかった。
「ところでなんだその手は?」
碧馬に向け伸ばした手の平はなにかの要求と判るが、あえて聞いた。
「金だよ金、まさかタダで俺が化け物退治してくれると思ったか?」
仮面のせいで表情は見えないが、チンピラの様な品性に欠けた男の口調に、碧馬は眉を釣りあげ不快感を表情に出した。
「仕方ない……いくらだ?」
「一億、それ以上それ以下はない」
「なんですって!貴方ねっ一億など高額払えますかっ!?」
余りの法外な報酬料金に碧馬は呆れて言った。しかし、要求した男の伸ばした手は決して下りず、本気の要求だった。
「司令……録音しますか?」
コンピュータのキーボードを操作するオペレーターが、小さな声で聞いた。
しかし碧馬は首を横に振った。
「無理よ、何回も奴の不当な要求を録音して証拠を握ろうとしたけど、いずれもなんらかの働きによって失敗に終わったわ」
妨害電波の影響で録音録画に成功したことがない。原因不明だが、この男が未知の技術を使って妨害していることは確かだった。
「何度も言う様に……」
金を要求されて渋るのはお役所仕事ならではだ。しかし、交渉中も被害が拡大していき迷っている猶予はなくなっていく。
「おっと!払わないと俺は出現しないぜ」
「……別に無理に頼んではいないわ」
「そうかぁ? この俺の出撃に一億は、お前らの1000億円の
自分らの誇り高き兵器を侮辱されたので、男を取り囲む兵士たちが銃口をあげ緊張が走る。
「落ち着け……」
碧馬が兵士たちをいさめると、彼女の命令ならと、銃口を下げた。
「分かった。今回の報酬はお前が指定した口座に振り込む。だから今現在暴れているギガントビーストを止めて欲しい」
「ふんっ交渉成立だ。しかし、お前らいつまで俺に銃を向ける?」
男を取り囲む兵士は未だ退く気配はない。
「駄目だっ少しでも怪しい動きをしたら撃つ!」
「お前ら上司の話聞いてないのか? マジ邪魔で呼べねーんだけど……仕方ねぇ、動けねえなら、今ここで呼ぶ」
男は右腕をあげ、拳を握った。
「ここに呼ぶ気っ総員この場所から退避せよ!」
男の行動を見ていた碧馬が急に焦りだし拡張機で退避勧告した。そして、指揮車両がバックで走行で、その場を離れた。
司令官が焦る様子を見ていた機動隊員たちも慌てて一斉に退却した。
一人残された拳を振りあげた男はニヤリと笑って見せた。
「来いっガイッアァァァァァック!」
ゴゴッゴゴッゴゴゴゴゴゴゴゴ……
男が叫ぶと、地響きと共に地面が揺れ、駐車場のアスファルトに放射状の亀裂が入った。
そして、亀裂から地面を突き破って巨大な手が出現した。その大きさ小型トラック一台分の黒光りする鋼鉄の握り拳だ。
「来たか」
鋼鉄の拳が開くと、その上に男が飛び乗った。するとまた地響きが起こり破壊音と共に鉄拳の本体が地面を突き破って、ゆっくりと姿を現し立ちあがった。
全長45メートルの黒光りする装甲の鉄の巨人。
一見アクティブアーマーと同種の機動兵器と思われるが、その異質なフォルムが見る者に全く違う物だと認識させた。まず、直角がメインなプフェルに対して全てが丸みを帯びた流線形のずんぐりムックリしたフォルム。
お世話にもカッコいいとは言えない外見だった。しかし、未知の技術が満載された機体は外見より性能重視のコンセプトで開発された。
そうなると当然頭部も球体で、真っ赤に燃える様な鋭いツインアイと、目の下にギザギザに刻まれた溝がまるで、血涙を流してる様に見えた。
男を乗せたガイアークの手の平が胸の下に来ると、コックピットハッチが開いて彼は中に入った。
コックピットの内部は複座型で彼が前の席に座ると、肘掛に肘を突いて、さらに足を組をだ。
これから彼は操縦して人類の敵と戦うとは思えない、ふんぞり返る舐めた態度を取った。
しかし、それがこの男のスタンスだ。
その余裕、彼の操縦技術いや、ガイアークの性能に自信がある現れと言えよう。
コックピットハッチが閉まり、扉と装甲が融合して境目が分からなくなった。
それを見ていた碧馬は、『こんな技術どこで?』と疑問に思った。
「人型は初めてだな……」
終始リラックスしながら男は、全画面モニターに映るギガントビーストの姿を凝視する。
だが、彼には緊張する様子が感じらない。それどころか、終始リラックスしている。
「奴らは遂に人に手を出した訳だ」
後部座席から透き通る様で、明瞭な知性溢れる少女の声がした。
「人型にしたところで俺が殺すのに躊躇するとは思わないことだ……ガイアーク出るぞ」
「イエス!マイ・マスター!」
少女が男に忠誠を誓った。彼女はこの異様な男の部下なのかは不明だ。
ガイアークと呼ばれた巨大ロボットが右足をあげて歩き出した。歩く度に重量からか、地面が陥没する。
コックピットの中では相変わらず男がふんぞり返って座り、モニターを見つめていた。その間、操縦桿を一度も握っていない。いや、握ろうにも、この操縦席には操縦桿が存在しなかった。
ガイアークの操縦方法はパイロットが思考し己の身体の様に動かす、思考マニュピレーターシステムが採用されている。
だから操縦桿も多種多様なスイッチも必要としない最先端の操縦席だ。
ガイアークに気づいた人型が両手をぶら下げながら、のしのしと歩いて接近する。
だが、ガイアークは仁王立ちで動かず、行手を阻んだ。
「人型とはなぁマスター、やり辛くないか?」
後部座席から謎の少女が人ごとの様に聞いた。しかし、男は首横に振った。
「……いんや、その誰かに似た金髪がむしろ増悪が湧くぜぇ〜!」
男がそう嬉々として言って、空を掴む様に右手を伸ばした。
「グオオオオォォッ!」
雄叫びをあげる人型がガイアークに向かって突進掴みかかる。しかしの赤い眼光が一瞬光ったと思うと右腕をくの字曲げて戦闘体勢をとった。
「エルボーブレード!」
ガイアークの右ひじから短剣が飛び出し振りあげ、向かって来る人型の両眼をスパッと切り裂いた。
開始早々、彼が得意としている、戦闘の礼儀とか武士道とか知ったことはない、目潰し攻撃だ。
「ギャガガガガァァァァッ!!」
たまらず人型が雄叫びをあげ、流血した目を両手で覆った。
これまで人類はギガントビーストに傷一つ負わせることが出来なかった。しかし、このガイアークはいとも簡単に傷を負わせ殺すことも可能だ。
何故ガイアークにだけ出来るのか? それは装甲に対ギガントビーストアンチ抗体が含まれているからだ。
「ふむ……」
すかさずガイアークが人型の背後に回り込んで、背中に蹴りを一発いれて吹っ飛ばした。
「ギャッ……」
蹴り飛ばされた人型が、転がる樽の様にビルに激突してうつ伏せに倒れた。
初っ端から目潰して戦闘を有利に進めるのが、この男の卑劣な戦闘スタイルだ。
そしてもう一つの特徴が。
ガイアークが人型の右腕を掴み関節と逆の方向に曲げ、へし折った。
「グギャァァァァァッ!!」
ついでに左腕もへし折り、背中を足蹴にして動けなくしてからじっくりとジワジワいたぶる。そう、これが彼の残虐な戦闘スタイルだ。
ギガントビーストを動けなくしてからいたぶるのは、被害に遭った民衆に見せ怒りを発散させ、より多くの支持を得るためだ。
まあ、元々この男に残虐な一面があったからとも言える。
「さ〜て、トドメは数ある処刑方の一つ、ラクダ掴み《キャメルクラッチ》!」
「ガッ!」
ガイアークが人型の背後から馬乗りに顎を両手でレックして、背中をそらす様にグイッと首を引っ張った。
プロレスでは定番の技だけど、致命傷にはならない。しかし、人型に技をかけているのはスーパーロボットだ。タダでは済まない。
「グガガッ……」
苦しげなギガンティアの表情が人型だけに生々しく同情を誘う。
しかし、この男は躊躇なんかしない。
「くく、苦しいかゴミ? ギガントビーストと呼ばれる人類の天敵は、俺にとって復讐するための道具である。しかし救世主であるこの俺を引き立たせてくれて感謝しているぞ」
ガイアークの締めつける力が更に増していく。
「ギィィイイ……」
苦しくて涙を流す人型に対して一ミリも同情しない男が最後の処刑、首を脊髄ごと引っこ抜いた。
「ガッ!」
ズボッ!!
頭を引っこ抜かれた首から、噴水の様に大量の血が噴き出し絶命した。
ガイアークが引き抜いた首を観衆の前にかかげると、大歓声が沸き起こった。
「酷い……」
ガイアークによる公開処刑を見ていた碧馬が、敵ながらギガントビーストに同情した。
しかし、市民たちは悲しむどころかお祭り騒ぎの様に歓喜して騒いだ。
多くの市民はなにかしらギガントビーストの被害を受けてきた。だからトドメが残酷でも誰も批判したり、同情する者がいなかった。
だからこの男、批判されないのを良いことに、嬉々として毎回嗜好を凝らした処刑方法を披露した。
◇ ◇ ◇
ギガントビーストが退治してからもガイアークはその場を離れず民衆が集まるまで待った。
道路に民衆が溢れるタイミングを測ってガイアークのコックピットハッチが開いて男が姿を現した。
「おいっ見ろっ救世主だっ!」
観衆の一人がガイアークに指差して叫んだ。
そう、ガイアークを操る男は世界で唯一ギガンティアを倒すことが出来て、救世主と認められた者だ。
「調子良いなマスター」
背後から謎の少女が呼びかける。
マスターと呼ばれた救世主は腕を組み、ボロボロのダークコートをマントの様に風になびかせる。
ふと男が下を向くと、トライアングルホースの指揮車両に黒塗りのベンツが横付けして、車内から複数の屈強なボディガードに守られ、金髪の二十代前半の時金の縦縞模様のライトブラウン生地のスーツ姿の美形男性が現れた。
その顔を見た瞬間、ガイアーク背後に建つビルの外壁が、なにもしてないのに突然放射状に凹んだ。
「おいっマスター落ち着け!」
少女の焦る声。
金髪イケメンが現れてから救世主と呼ばれる男から憤怒を滲ませた殺気が放たていたからだ。
「あなた、いやっ翔馬長官っここは危険です」
指揮車両から飛び出した碧馬が翔馬と呼んだ男に駆け寄る。
彼女に気づいた翔馬は爽やかに手を振ると抱きしめキスをした。
「グッ……」
その様子をモニターで見ていた救世主が、仮面の下、嫉妬を滲ませた血走った目で食い入るように凝視していた。
「どうしたマスターあの二人が気になるのか? わたしには、女には未練を、金髪男には激しい憎悪の感情が伝わってくるが……」
「……知りたいか、どうして救世主と称えられた俺が、あの二人に強い劣等感と怒りの感情を抱かせるのか?」
「分かった。お前に過去、なにがあったのか聞いてやるよ」
全ての万物がお見通しとばかりに静観した口調の謎の少女が言った。
少女は知っていても、知らない振りして聞いてあげるのもマスターに仕える者の使命だと思った。
救世主が操縦席に座ると腕を組んで物思いにふけながら、口を開いた。
「七年前の肌寒い冬、まだ俺が高校生として青春を謳歌していた時代の話だ……」
遠い記憶を懐かしむ様に顔を上げる救世主。そして、腰をすえてじっくり昔話を始め長丁場になりそうなので、缶ビールを少女に投げてよこした。
少女が受け取るとプルタブを開ける音がしてビールを飲み干す音が聞こえた。その飲みっぷり、相当の酒豪と見て間違いない。
「マスター缶ビールお代わりだ」
後部座席から白い肌が印象的な少女の手が伸びて、もう一本要求した。
救世主は『そうか……』と言ってお代わりをワンケース丸ごと彼女に渡した。
恐らく彼女は一日でワンケース分の缶ビールを飲み干すだろう……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます