第2話 心優しき少年
西暦2160年。
人類を捕食する最初の一体のギガンティアの出現から十年目の、西暦2162年、真東京の冬の早朝、都内有数の進学校の一つ、真東京学園二年生の男子生徒の
バイトは原則的に禁止されていたが、彼の父親が苦しい町工場を経営しながら進学校に行かせてもらった恩を返すため、家計を助けるために、隠れてバイトしていた。
狭間がとある一軒家に自転車を止め二階の窓を見つめていた。すると時間を合わせていたかの様に、二階のガラス戸が開いた。
「おはよー優君今日も寒い中お疲れ様」
窓から身を乗り出し顔を覗かせる栗色のショートカットの女の子が、狭間に対して陽気に声をかけた。
彼女の名は
彼女は狭間に対して好印象を抱いていて、彼がその気なら付き合っても良いと考えるほどだ。
「ああ、おはよう桃島」
「ちょっとー優くん、あたしたち幼なじみの仲なんだからさ、春香って下の名前で呼んで欲しいなー」
「あのなぁ、未だに下の名前で呼ぶのが恥ずかしいんだよ。じゃっ俺はまだ配達途中だから行くけど、は、春香も学校遅刻するんじゃねーぞ」
そう言って狭間が手を振って自転車のペダルを漕いで走り去った。
「優くんったら無茶しちゃ駄目だよ〜ふふっ期待の次期生徒会長候補さん……」
春香は意味深な独り言をつぶやいてから、狭間の背中が見えなくなるまで、窓枠に頬杖をついて眺めていた。
◇ ◇ ◇
この日狭間は結局学校に大幅に遅刻した。それは誇張ではなく、本当に大遅刻だった。
遅刻の原因は、週に一度通う孤児院のボランティア。その孤児院というのは、政府が運営する主にギガントビーストによる両親を亡くし、行き場のない子たちを保護する施設。
新聞配達のコースに孤児院があって狭間が通った時、たまたま庭から顔を出したケン少年に声をかけられ、それがきっかけで施設の壁の修理とか、子供たちと遊んで遅刻した。それが理由。
そのあと迷子犬を見つけて必死に飼い主を探して、無事飼い主が見つかり帰り道、倒れていたお婆さんを助け救急車を呼んで自分も病院に行って無事を確認してから学校に行った。
それで結局学校にたどり着いたのは、全ての授業が終わった放課後だった。
「あぁ、これじゃあ、行く意味なかったなぁ……」
ため息ついて肩を落とし、とりあえず校舎に向かう狭間の足取りは重かった。すると下駄で親友の
昭彦は数少ない狭間の親友の一人でクラスの学級委員長。だからか、眼鏡をかけたインテリア系男子だが、狭間とは気兼ねなく話しいつも声をかけてくれる同級生だ。
「また遅刻だって? まさか今登校したのか?」
「あぁマジだ……」
「……まぁお節介焼きのお前のことだ、いく先々親切して遅刻したんだろ?」
「……全て当たっている。お前まさか超能力者か?」
「違うっそれくらい当てられるぞ」
顕正寺が言うように、狭間のお人好しっぷりは全校生徒の間で有名だった。だからこそ、次期生徒会長候補に名前が挙げられるのだ。
別れ際顕正寺が眼鏡のブリッジを指で押さえながら聞いた。
「お前も出るんだろ……」
「なんだよ突然、出るってなんのことだ?」
「なにじゃない。お前生徒会長選に立候補するって学校中噂されてるぞ?」
「マジか!いやいや、あり得ねぇ」
人助けは率先して行う狭間だけど、見栄とか権力とか垣間見る生徒会には興味がなかった。
だから狭間は即否定した。
「俺は狭間を信じている。だから立候補するなら必ず声をかけてくれよな」
顕正寺が狭間の肩をポンと叩いて帰路についた。
「分かっているよ。俺だって生徒会長になればもっと人助けが出来ると思う。だけど、生徒会長選挙となれば、蹴り落とされる候補者も出る訳で、正直言ってそこまで立候補したいと思わない、な」
自分に言い聞かせる様に呟きながら狭間は、下駄箱から上履きを取り出し履き替えた。
とりあえず教室に向かった狭間にもう一人の親友が声をかけて来た。
「あれっ狭間授業出てた?」
クラスメイトの男子、
森谷はあまり特徴のない外見だけど、気さくな性格なので入学当初から狭間に声をかけて親友の関係が続いている。
「いや、今登校したとこ……」
「えっ!マジか……理由はあえて聞かない。どうせ人助けで遅れたんだろ?」
「その通り……」
「マジかーーっまあ、頑張れ」
「なにがだよー」
狭間は森谷っ別れ誰もいない教室に入った。すると使用者が帰った机に座る女子生徒と目が合った。
「待ってたわよ狭間君」
静かな教室に響き渡る凛として
端正な顔立ちに黒髪ロングヘアーが魅力の、学園で一番人気の美少女だ。
そんな雲の上の存在の彼女から狭間を待っていたことになる。
「……生徒会副会長が俺になんの用だ?」
未だに半信半疑の狭間が怪訝な表情を浮かべ聞いた。
「実は、次期生徒会長候補を探してまして、やっと見つけましたの。学園中一番人望があって、お人好しで、あっ!それは悪い意味じゃなく、優しいってことですよハイ!で、そんな貴方の噂を聞いて待ってました」
頭脳明晰容姿端麗な碧馬は高飛車で、一般生徒は相手しないかと思っていたが、話してみて意外と気さくな性格だと分かって、狭間の彼女に対する印象が良い方向に変わった。
「待っていた俺を……」
まだ半信半疑な狭間は首をひねった。
「本当ですよ。狭間君は人望に溢れ、将来きっと人を助ける職業に就くでしょう。それで、君の性格を最大限に引き出すには生徒会長になるしかないと思うんだ。だからね、狭間優斗に命じます、是非来年二月に行われる生徒会長選挙に立候補しなさい」
「マジか……面倒くせえな……」
「ハイッ!生徒会の役割は面倒くさいです。ですが、狭間君なら出来ると期待してます」
ゲンナリと表情を浮かべた狭間に碧馬は、にこやかに微笑んで握手を求めた。
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