第26話 少年たちと初めての路上生活



 ガイアークと巨人獣ギガントビーストが初めて戦った浅草の河川敷に少年たちは焚き火をして身を寄せていた。

 ガイアークが食料確保のためにオーストラリアに向け出発してから半日が過ぎ、空は紅く染まっていた。


「遅いなぁ兄ちゃん……」


 いつも明るい少年ケンも、空腹でお腹を摩り心ぼそい様子。


「お腹すいたよ〜……あっ!」


 隣に座る三人の女の子の中で一番活発な柚が空を見あげるとなにかに気づき、目が丸くなり指を指した。


 そう、ガイアークが飛んで帰って来たのだ。


 ガイアークが着陸すると少年たちが走って駆け寄った。

 コックピットのハッチが開くと、狭間がロボの手の平に乗ってダンボール五箱載せ降下した。


「とりあえずお土産と帰り道スーパーで購入した食料とキャンプ道具を確保した」

「凄えっ!でも兄ちゃんお金ないのにどうしたの?」


 ケンが聞くと狭間は腕組みして誇らしげに『オーストラリア政府から巨人獣討伐報酬金だ』と説明した。


「まぁ少ない金額だが、当面の食には困らないだろう」

「おっ姉ちゃん」


 瓶入りの赤ワインをラッパ飲みしながらガイアが降りて来た。


「姉ちゃんなに飲んでんの?」

「んっ……なんだケン赤ワイン飲むか?」

「ゲーーッお酒かよっいらねーよ!」


 目を瞑って舌を出してペッペするケンにムカついたガイアは、『殺すぞガキ』と言ってびびらせた。

 なにせガイアの車体を素手で毟り取るパワーを目の当たりにしたら、マスターだって逆らえない怖ーいお姉さんだからびびって当たり前。

 まぁ、立場状は主従関係は狭間が上だが……


「良しっ皆んな集まれ」


 狭間が子供たちを集めると男子には三つのテントの設置を指示。

 一つ目は狭間を含めた男子用で、二つ目は三人の女の子用と三つ目はガイア専用の豪華お一人様仕様だ。


 それと女の子たちは夕飯の準備だ。こうして各自分担して作業に取り掛かった。

 作業から三時間後ようやく食事の準備が終わり、木箱を並べテーブル代わりにして夕飯を並べた。


 少年たちとの初めての食事は定番のカレーライスだ。

 狭間が購入したキャンプ用椅子に座って、円になる様に木箱テーブルに囲んで全員で『頂きます』した。(美少女型AIを除く)


「美味いっ!」


 ケンはガッつき瞬く間に平らげ、お代わりを狭間に要求した。


「あんま卑しくするなよ」


 リーダー格の少年貴志がケンを注意するが、狭間は『気にするな』と言ってご飯を盛り付けルーをたっぷりかける。

 しかし、食事中も仮面をつけてご飯をよそうその姿はかなりシュールだ。


「……兄ちゃん食事の時ぐらい仮面脱いだら?」


 やはり気になるもので、柚が聞いた。


「駄目だ。翔馬に俺の正体を知られる訳にはいかねえんだ」


 そう言って狭間は、仮面を少し上にずらしてスプーンを口に運ぶ。

 かなり面倒な食事方法だけど、用心深い狭間はこれが安心するらしい。


「ふ〜ん、まっ別に良いけどね……」

「あっそうだ。お前たちにオーストラリアのお土産を買ってきたぞ」

「えっなになにコアラ?」


 目を輝かせ身を乗り出す柚。


「柚は勘が冴えるな? その通りお土産はコアラのぬいぐるみ二個とワニのぬいぐるみ一個だ」

「ワニ……」


 女の子中では年上で勉強が出来てしっかり者の優華がワニと聞いて、怪訝な表情を浮かべた。

 それもそのハズ、ワニだけが90センチの特大サイズのぬいぐるみ。

 それはまるで抱き枕で、三人の中で選ぶとしたら当然コアラ二つが真っ先に選ばれて、残り物と言ったら失礼だが、ワニのぬいぐるみが最後に残ると彼女は思った。


「私は最後で良いから、先に柚と知歌が欲しいぬいぐるみ選びなさい」


 優華がお姉さんらしい態度を見せると横でケンが『えーオレの分は?』と言った。


「アンタ男だから要らないでしょ?」

「……それもそうかぁ……」


 優華に言われ冷静に考えたケンは素に戻り、三杯目のお代わりを要求した。


「じゃああたしが先に選んでも良いかな?」


 柚が聞くと優華は『どうぞ』と手を差し伸べる。


「じゃああたしはもちろんコアラが良い!」


 柚は元気良く手を出し、コアラのぬいぐるみを鷲掴みにして取った。


「全くアナタはもう少しおしとやかに出来ないの? まぁ良いわ、次知歌ちゃん選んで」

「……ワニが良い……」

「えっなに?」


 小さな声でしかも予想外のチョイスだったから、優華は耳を傾け再度聞いた。


「ワニ」

「……」


 やはり返ってきた答えはワニ。


「ちょっと知歌ちゃんワニで本当に良いの?」

「うん……だって可愛いから……」

「……個人の趣味趣向は基本的に私は尊重するけど、ワニが可愛い? 変わった感覚ねー知歌ちゃん」

「……」

「あははっドンマイ!」


 最後は言い過ぎたと思って反省した優華は、笑って知歌の背中を叩いた。

 すると非力な知歌は『ケホケホ』と咳き込んだから、慌てた優華は背中を摩った。


「で、オーストラリアでどんな巨人獣と戦って来たんですか?」


 真剣な顔した貴志が聞くと、狭間は黙ってワニのぬいぐるみに指差して見せた。


「マジかっ!?」


 驚いたケンが叫んで震えた。


「どうしたケン?」

「兄ちゃん怖くなかったのかデッカイワニと戦ったんだろ?」

「……確かに全長30メートルの化け物ワニだったが、ガイアークに乗っていたからこそ怖くなかったぞ」

「へーそうなんだぁ……でっコアラ型は?」

「んなもん出るか」

「だよなー」


 実際コアラ型が出たら弱そうだが、可愛らしい外見ならかわいそうで倒し難い。ある意味強敵になりそう。


「ところで狭間さん。今後の方針について聞きたい」


 真剣な顔で貴志が聞いた。

 まぁ、少年たちのリーダーだから生き抜くために、狭間の方針を確認する必要があった。


「先ずは日本での華々しいガイアークのデビュー戦だ。そのあと実績を重ね日本政府に巨人獣討伐を依頼されたら大金を要求する」

「兄ちゃん政府に金取るのかよ?」

「あぁケンそうだ。しかも不当な莫大な討伐料を請求する。その為には先ずはガイアークにしか倒せないと世間に知らしめることが重要」


 翔馬が総理大臣を務める政府は敵だ。だから不当な金額を請求しても罪悪感は湧かない。

 むしろ復讐の一環に過ぎず、色々復讐方法を頭に巡らしでいた。


 だけど彼は決して憎くても翔馬は殺さない。ではどうするかと言うと。

 殺さずガイアークを活躍させ、プライド高い翔馬のプライドを傷つけ自滅に追い込むやり方。


 そう殺すのは簡単だ。

 しかし、それでは痛みは一瞬なので苦しませることにはならない。

 だからプライドを傷つけ精神的に追い込むちょっと変わった復讐スタイルを彼は選んだ。




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