第7話 華麗なる転校生
朝のホームルームに担任の教師がいつもの様に入って来た。その瞬間、女子だけがザワつき始めた。それは何故かと言うと、その後ろから金髪美少年が現れたからだ。
「えー静かに……今日からこのクラスにお世話になる転校生を紹介する」
定年間近の男性教師が淡々と話しを進める。
狭間が退院してから初日の登校日。同じクラスに転校生が紹介された。
女子たちは担任の話しなど耳から素通りして、横に立つ美少年に視線が釘付けだ。
「では、一言」
「ハイ先生。えーこんにちは、僕の名は
翔馬と名乗った美少年が礼儀正しくお辞儀して挨拶した。すると、クラスメイトの歓迎の拍手が巻き起こった。(一部のやっかみ男子を除く)
狭間も心良く拍手した。
重篤寺翔馬。父親が重篤寺重工社長で母親がフランス人の元大女優のサラブレッド少年。彼には七歳年下妹の
彼は自己自己を続けた。
「ご存知の通り僕は重篤寺重工社長の息子で、その創業者の
僕は、人類を救う救世主になりたい」
熱のこもった翔馬のスピーチが終了して、無意識に振りあげた拳を戻すと、皆の拍手が沸き起こった。
初めは拍手をしていた狭間だったが、途中で飽きて窓側だったので、外の景色を見ていた狭間があくびをかいていた。
すると翔馬は歩き出し狭間の横に立った。
「今朝君はずいぶん生徒たちから注目を浴びてたけど、どうしてだい?」
「はぁ?」
初対面に話しかけるなら、まずは名前を聞くだろうと狭間は思った。
「ついこないだ、副会長が刃物持った男子生徒に襲われたから、俺が助けたら学園のヒーローになっちまったみたいだ」
「ほ〜う……実は僕もついこないだ誕生パーティー会を開いてもらって、有名芸能人に囲まれ全員と連絡先交換したんだ」
「……そ、それは凄いな……」
別に狭間は自慢したくて話したんじゃないが、翔馬は何故か対抗心剥き出しで聞いてもない自慢話を言った。世の中には自分に自信がなくて、聞いてもないのに対抗して自慢話してくる奴がいるが、この男もその類いだと思った。
聞かされる狭間の方は、翔馬の負けず嫌いの一面を垣間見て、若干引き気味に素っ気なく返事した。何故かというと、ムキになって反応すると、相手は勝ったと思い込むから。
「……」
このあと何故か狭間を睨み翔馬。
バン!
翔馬は突然、狭間の机を叩いた。
「あんまり調子に乗るなよ(平民……)」
翔馬は最後の二文字。聞き取りにくい小さな声で言った。
「だからなんなんだ?」
相当面倒くさい奴に目をつけられたと思った狭間が目を細めて聞いた。
「聞いたよ。君は二月に行われる生徒会選挙に立候補するみたいだね……?」
「まだ考えてねぇよ……」
「……まさか僕に負けるのが怖くて……」
「怖くねーよ!」
話が飛躍し過ぎるし、一方的にライバル視されて狭間は怖くなった。
これ以上彼に関わりたくないので、興味なさげにソッポを向いた。しかし翔馬が席の前に立って、今度は両手で机を叩いた。
「そうか!君が副会長の麗美さんを暴漢から救ったのは、全ては選挙に向けた高感度アップのためだな?」
「違う!」
お人好しの狭間はそこまで計算で動かない。
「しらばっくれるのか……オーケー!それなら僕も今日から生徒会選挙立候補するよ」
「おいっ!聞いてんのか?」
噛み合わない二人の会話がまだ続く。それを黙って見ていた担任は相手が大企業社長の息子で、この高校も翔馬の会社が出資して創立されたから、なにも言えない。
「なあ、アンタはなんで面倒くさい生徒会長になんかなりたいんだ?」
狭間はこの坊ちゃんが、わざわざ戦線布告しに来たのかと呆れていたが、面倒ごとを終わらせたい一心で聞いた。
「フッそれは、近い将来僕は国のリーダーになる。そのためには、布石として生徒会長の実績を残したい」
「ふう〜ん。じゃあなれば?」
「なんだとっ君は僕との勝負に逃げるつもりか?」
「だから逃げてねーよ!俺は勝負なんかしないから、勝手に生徒会長になれば?」
やっぱり翔馬との会話は噛み合わない。
狭間にとって生徒会長の椅子の座なんてどうでも良かった。なんなら今すぐこの男に席を譲りたいと思った。
「ノン、ノンノン……」
「えっ……」
翔馬は瞳を閉じて人差し指を横に振って、おフランス流のジェスチャーした。
『ギャグだろコイツ?』狭間はそう思った。でないと、笑えないぞと。
「その申し出は却下だ。僕は君と正々堂々と競い合い。そして、勝利して実力で生徒会長の座と麗美を手に入れたいんだ!」
「最後なんつった?」
この男、絶大な人気を誇る麗美を手に入れると豪語したから、大半のクラスの男子が敵意を向けて睨んだ。
「翔馬さんはずいぶんと自信がおありで、そこまで言うのなら、俺も負けられねえぜ」
「それは無理だな」
翔馬はアメリカの俳優みたいに両手の平をあげて、首を横に振った。
翔馬の自信は一体どこから来るのか、狭間は見当もつかなかった。
しかしその自信の訳は、翔馬の家が超が付く大金持ちだし、アイドル顔負けのルックスと、決して言わない陰の支配層のバックアップがあるからだったから。
そのあと30分遅れて、朝のホームルームが始まった。遅れて終わって担任が退室しようと入り口を開けたら、1時限目の英語の教師が首を長くして待っていた。
英語が苦手な生徒たちは授業が半分潰れてほくそ笑んだ。
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