第31話 鳥


 翌日、機動部隊トライアングルホース司令部が慌ただしくなっていた。

 また新たな巨人獣ギガントビーストが日本に上陸したからだ。


 主なスタッフは全員配備してリーダーの到着を待った。

 するとようやく入り口の扉が開いた。


「遅れて済まない。で、状況は?」


 急いで向かったのか、司令官碧馬はジャケットを羽織り帽子を着いてから被り、すぐに状況を確認した。


「はいっ港区周辺の地区に巨人獣が上陸した模様です」


 モニターを見ながらオペレーターの女の子彩瀬あやせが応えた。

 返答しながらも、キーボードを忙しなくタイプする。


「上陸……また海か……で、タイプは?」

「はいっ鳥型ですっ」


 彩瀬の側に寄った碧馬がモニターを覗き込む。

 モニターの画像には、五階建ビルに匹敵する体長の二足歩行の鳥の姿が映し出されていた。


「なんの冗談……」


 鳥型を見た碧馬の表情が険しくなった。

 それは、余りにも鳥型の姿が凶悪だった。

 恐竜を彷彿とさせる大きな足と鋭い爪。そして眼光鋭い眼と首筋にかけて青い頭はある飛べない鳥に似ていた。


 博識高い碧馬は一目で鳥型巨人獣が、世界一危険な鳥と呼ばれるヒクイドリに似ていることに気づいた。


「不味いわねぇ……」


 碧馬は口元に右手を添えた。この癖は彼女が真剣に考える時に良くする仕草だ。

 彼女が危惧したのは、1メートル足らずのヒクイドリでさえ、その脚部の爪で人間を引き裂く。

 だから12倍の大きさのヒクイドリの力が想像を絶するのか、被害を聞かなくても彼女は分かっていた。


「被害の現状は?」


 目を背けたくなる惨状でも、司令官は知る必要がある。


「……正確な人数は確認取れていませんが、その場に居合わせた数人の被害者が出ています」

「遅かったか……で、生存者は?」

「あのっ……」


 彩瀬は困った表情を浮かべ良い辛そう。

 つまり、生存者ゼロ。ほぼ鳥型に喰われた惨たらしい惨状に他ならない。


「チッ今すぐ出動よっ!」


 これ以上犠牲者を増やす訳にはいかないと、市民を守る責務を背負った彼女が指示を送った。


「了解しました!」


 返事をしてから各部署に連絡する彩瀬。


「僕も良いかい?」

「えっ?」


 碧馬の背後から軽率な男の声がしたので振り返ると、夫である翔馬がいた。


「……」

「何黙っているんだい?」

「いぇ……まさか現場について来るつもりですか?」

「もちろんだよ。何せ僕はこの組織の責任者だからねぇ」


 クシで髪をほぐしながら言った。威厳なんてありゃしない。


「……危険です。今回の巨人獣は特に」

「フッ危険だからと言って責任者のこの僕が、安全な離れた場所で高みの見物は良くないよ。それに、来るんだろ? 

 あの黒い機動兵器……」

「……それは不明です。分かりました。今から現場に向かいます。ご同行を翔馬総理」

「フッそこはあなたと呼んで欲しかったなぁ〜」

「えっちょっと!」


 顔を真っ赤にした碧馬が翔馬の手を握って、早々に退室した。

 スタッフに夫婦の顔を見せるのが慣れてなく、恥ずかしい様だ。


 ◇ ◇ ◇


 一方狭間たちは河川敷のキャンプ村で昼食の準備中だ。

 今日のメニューはインスタントラーメンだ。


「わぁ味噌ラーメンだぁ!」


 活発少女柚がどんぶりを持って目を丸くした。


「お前良く飽きねえなあ?」


 言いたいことはハッキリ主張するケンが言った。


「ええ〜あたし飽きないよ?」

「ま、確かに飽きねぇ味は認めるけど、たまには肉食いてぇ……」


 そう言ってケンは両手を宙に仰ぎ、ヨダレを垂らしながら妄想した。


「肉って男子は好きよねぇ」


 女子の中では年上の長い黒髪が素敵な優華が言った。

 年は貴志と同じ十六歳で、本当なら高校に通ってる女子高生だ。


 だけど今は優等生の彼女にしても通っていられる場合ではない。

 この場所を始末屋に嗅ぎつかれいつ襲撃されるか分からないから、学校に通い通学するなんて危険過ぎるからだ。


「あっ優華さん……」


 ケンが顔を赤くした。彼も年下の十四歳だ。つまり、年上の美人には弱い。


「それにしても毎日インスタントはちょっとねぇ〜」


 頬杖をついて優華は箸で掴んだ麺を眺めてため息をついた。


「ふんっ肉が食いたいのか、鳥か豚か牛か?」

「ゲッ姉ちゃん!」


 いつの間にケンの隣に座っていたガイアが聞いた。


「……」

「どうしたケン? 黙ってないで私の質問に答えろ」

「……」


 ガイアの力を知っているケンは優華の時とは逆に顔面蒼白、違う意味で心臓がドキドキしていた。


「脅すなよガイア」


 おかずを一品作り終えた場所がテーブルに皿を乗せた。

 お皿には、唐揚げが山盛りに盛られていた。


「あっーオレ唐揚げ大好き!」


 嫌いな人はいないと思うが、唐揚げはケンの大好物だ。だから彼はたちまち笑顔を取り戻した。


「旨っ旨っうまいよ兄ちゃん!」


 唐揚げをがっつくケン。


「ちょっとケン。皆んなの分も残しておいて」


 呆れる様に優華が注意する。


 それからものの10分で唐揚げは完食された。


「あーでも、オレたちいつまでこんな生活強いらるのかな〜」


 足を伸ばして座るケンが空を見あげながら呟く。


「男のやろっこ心配ご無理だ」

「へっ……やろっこ? な、なんでしょうかガイア姉ちゃん……」


 方言で呼ばれても意味が分からないし、かと言って意味をガイア《彼女》に聞くのも怖い。

 だから、曖昧に聞いた。


「大金さえ手に入れば当面の生活費は大丈夫だ」

「え〜でもどうやって……」


 恐る恐る聞くケン。


「金目の元は日本政府」

「にっ日本政府? そりゃ無茶だよ!」

「ふんっ何が無茶なものか、このガイアークは巨人獣を全滅させる力がある。世界中の軍隊が束になっても負けはしない」

「だ、だからって日本政府からどうやってお金を引き出すつもりなんだ?」

「ふんこれだから子供ぼっこが!いいか? これから実積を重ね、日本政府から巨人獣の討伐依頼を出さざる得ない状況に持っていく。で、その時に不当な依頼料を請求するんだ」

「ワッ!お姉ちゃんワルだなぁ」

「馬鹿言うなケン。頭が良いと言え」


 まぁ、別な意味で悪知恵と言うが……


「じゃあもっと活躍しなくちゃなぁ」


 仮面を被った狭間が麺を摘んだ。


「おいマスター。四六時中仮面を被っていづくないか?」


(いづいとは、仙台弁で身体の一部に違和感を感じてムズムズする感覚を表現する時に使う)


「……それもそうだな……せめてガイアークの中にいる時は仮面を外そう」

「ところでまた巨人獣が現れたぞ」

「なんだと!場所はどこだ?」


 箸を置いて狭間が立ちあがった。


「場所は港区。巨人獣は奇しくも鳥型だ」


 鳥型と聞いてケンが喜んだが、ガイアが『所詮トカゲのハイブリッドだぞ』と言って萎えさせた。


「仕方ねぇ翔馬に救世主の力を見せつけてやるか……」


 狭間が重い腰をあげた。


「あぁ行くぞマスター」


 狭間とガイアはガイアークに乗り込み巨人獣退治に向かった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

救世主ロボ ガイアーク(カクヨム一般向け版) 寺島英寿 @kaisukikippoz7gxppon44

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ