第10話 刺客との勝負


「君が狭間優斗君か……」


 キザったらしく眼鏡がトレードマークの理系男子竹内明馬たけのうちあすまが狭間の前でわざわざ向きを変えて、横目で睨んだ。


「アンタは?」

「私はモデルを少々、まぁ小遣い稼ぎ程度ですかね……」


 モデルなんかごく一部しかなれない。それを分かっていて明馬が嫌味ったらしく言った。

 しかも、話す度に眼鏡を『クイッ』と持ちあげ、ナナメ四十五度にアゴをあげた。

 狭間が苦笑するほど徹底したインテリアピールだが、それは最早ギャグだ。


「で、俺になんの用だ?」


 明馬がさっきから狭間を睨んでいたので、本人直接聞いた。


「勝負しろ」

「……きゅっ急にだな……」


 勝負漫画のライバル張りに明馬が狭間に指差し戦線布告。

 だが、狭間は一般人だから困惑した。


「何故俺がお前と勝負しなきゃいけないんだ?」

「フッその問いに意味はあるのか?」

「だから意味分かんねーから聞いてんだよ!」


 聞いてるのにいかにも思わせぶりな返答にキレた。

 すると明馬が振り向き、額に手を当て前髪をかきあげた。この男、知的とキザ仕草の能力者だ。なお、効果は人を不快にする。


「フッまぁ良い……」


 なにが良いのか分からんが……


「この試作機、狭間お前と私、どちらが操縦が上手いか…………勝負しろっ!」


 何故そうなる……

 とは言え、明馬は機体装甲をポンポン叩いて言ったら、玉樹に『部外者が気安く叩くな!』と怒られた。


「まぁ、別に良いけどよぉ、良いのか玉樹?」


 困惑気味の狭間後頭部を掻きながら聞いた。


「別に良いけど、壊すなよ」

「へいへい、分かりました。じゃっ俺が先に乗るぜ!」


 さっさと終わらせたい狭間はタラップに駆けあがって、コックピットに乗り込んだ。


「へー中はこんなになってんのかー」


 各部にはまだカバーがつけられてはおらず、剥き出しの配線が熱帯植物の根っ子の様に張り巡らされていた。それと、操縦席の椅子もカバーはもちろん被されてなくて、極限まで無駄を排除したレース車の操縦席に見えた。


 とりあえず座った狭間は左右に操縦レバーがあったので握った。


「おい玉樹っエンジンはかかっているのか?」

「ああ、赤いボタンがあるだろ? それが起動スイッチだ。起動させたらアクセルを踏め。勝手に動き出すからレバーで向きを変えられる。細かい指の動きや機体動作などは、コンピュータが処理するから心配は要らん」

「……分かった」


 長々と説明されたが、そもそも細かいことが嫌いな狭間の頭に入った情報は前半部だけで、あとは適当でも大丈夫だろうと思った。


 起動スイッチを押すと、立てひざ姿勢の機体が立ちあがった。


「おおっ!ビックリした!」


 びびりながらもそこは男の子。楽しげにアクセルを踏むと動き出した。


「おおっスゲッ歩いたぞ!」


 周りにいた部員たちが踏み潰されたらたまらないと、慌てて逃げて行った。


「ははっ皆んな逃げてらっ面白え、んっ……?」


 急に機体が停止した。


「あれっおかしいなぁ……動かねぇ……」


 その様子を見ていた玉樹が慌てて狭間に降りる様に指示した。


「おい故障か?」

「……なんとも言えんな……この機体は試作中の試作機だから、トラブルなんてしょっ中だ」


 機体に繋いだパソコンを開いて、なにやら打ち込みながら玉樹が言った。

 機械操作なんか分からない狭間は見ているしかなかった。


「なぁ、俺に手伝うことはないか?」


 見てるだけだとどうもむず痒い狭間が聞いてみた。


「どけっ!」

「なんだお前っ!?」


 狭間の肩を押し退けて、明馬が会話に割り込んで来た。


「君では話にならん。どれ、私が診てやろう」


 理系男子明馬が機械トラブル究明に買って出た。


「アンタ機械に詳しいのか?」


 玉樹が聞くと、明馬の眼鏡のレンズが光った。発光ギミック眼鏡か?


「おそらく駆動系トラブルか、エンジンそのものに原因が……」


 立てヒザの姿勢の明馬は、足回りのパネルを開けて内部機器を調べ始めた。


 調べ始めてから30分が経過した。


「…………」

「どうだ、原因は分かったか?」


 明馬の背後から覗き込んだ玉樹が聞いた。


「……分からないなぁ、私にはサッパリ」

「分からないって、さっきの自信はなんなんだ?」

「いや、本当コレは駄目ですねぇ、分かりました。今すぐ業者プロを呼びましょう」


 立ちあがって手にしたドライバーを放り投げると、明馬はサジを投げた。


「ちょっと待って!君は理系が得意じゃなかったのか?」

「いんやぁ、いつ私が理系だと言いました? 単なるモデルですよ」

「……」


 明馬は開き直った。


「チッ雰囲気理系だったか使えねぇ……」


 顔を後ろに向けて玉樹が吐き捨てる様に呟いた。

 このあと機体トラブルが続いて、明馬との勝負はなかったことになった。狭間は先に帰って行った。


 ズボンに両手を入れて立っていた明馬がうしろで、部員たちの様子を見ていた。


「まだいたのか? 役に立たないから帰っても良いんだぞ?」


 玉樹が言うと、彼の眼鏡のレンズが光った。スイッチはどこにある?


「重篤寺重工社員のこの私にそんなこと言って大丈夫なんですか玉樹さん?」

「なにっ!?」


 驚いた彼女が振り向く。


「私は実は転校生を装ってこの学園に潜入した本社のエージェント。そしてですね、科学部に提供している莫大な資金の提供をストップする案が……」

「なんだって急にっ!」


 脅しに近い発言に彼女は彼の両肩を掴んだ。


「……だってそうでしょ、今だってこうも機体トラブル続きでは、とても正式採用は難しい。ましてや、資金の継続など」

「頼むっ!なんでもするから資金だけは止めないで欲しいっ!」

「……仕方ないですねぇ分かりました。資金はこれまで通り提供しましょう二倍で」

「本当かっ!?」

「ただし、」


 キタッ明馬の眼鏡が光った。


「もしも、狭間優斗が生徒会選挙で当選したら……出てけ眼鏡共っ!」


 手を止め集まって聞いていた眼鏡部員(ほとんど眼鏡)たちを、明馬は邪気に手を振って追い払った。お前も眼鏡なのにな……もしくは、眼鏡は体の一部だから認識してなかったか?


「分かった」


 しばらく話しをした玉樹は条件を呑んだ。


 そのあと明馬は立ち去って行った。

 夕方の空に暗雲がたち込める。まるで、狭間に待ち受ける試練を暗示する様に……


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