第11話 男らしい刺客
科学部の手伝い中にエセ理系男子に絡まれ、機体トラブルが災いしてか、そうそうに退却した狭間。
しかし、運が悪いことに校庭を横断中に女子サッカー部長である安城由香里に呼び止められた。
「狭間っちょっと良いか?」
「なんだ安城また部員不足か?」
状況を読んで先に聞いた。それは、安城が狭間を呼び止める理由が分かっている狭間だからだ。
「いつも話しが早いねー狭間。実は部員が用事があって帰っちゃってな」
「分かった。練習試合に俺が参加すれば良いんだな?」
「おっ!そうなんだよ。じゃあ早速」
「おいマジか!?」
安城は狭間の手をグランド中央まで引っ張って向かった。
狭間が狼狽したのは、安城の決断の早さと強引な性格。普通は、運動着に着替えてからやるものだと思っているからなおさら。
「仕方ねぇなぁ良いぜ。俺は人手が足りないチームに入れば良いんだな?」
狭間は上着を脱ぎ捨てシャツを腕まくりした。ヤル気は充分らしい。
早速部員が二手に別れお互い向き合った。あとは試合開始のホイッスルが鳴るのを待つだけだ。
「ちょっと待ったーー!」
突然試合に割って入る男の声。この展開以前あったぞと、狭間は
振り返るとそこに見知らぬ男子学生がいた。
その男に見覚えがあった。さっき出会ったエセ理系男子明馬と一緒に今日転校して来た男だ。
名は桐生院軍馬。
紅く染めた髪に顎髭のオラオラ系イケメンだ。そいつが狭間に向かって中指を立てて白い歯を見せた。
「……俺になんの用だ?」
狭間は分かってはいるが、一応聞いた。
「俺と勝負しろ!」
「さっき同じ台詞聞いたよ……」
またかと狭間はため息を吐いた。
「良いよ。勝負方法は?」
早く帰りたい狭間は2倍速で話しを進めた。
「おっヤル気かてめえ?」
「……」
『アンタから挑発して来たんだろ』と狭間は思った。
「PK勝負だ狭間」
「PK勝負?」
「ああ、正し、負けた方が殴られるルールだ」
「ずいぶんと乱暴だな?」
「へへっ♬」
「……」
そこは陽気に笑うところかと狭間は思った。
「……分かった。負けた方が殴られるんだな」
「くくっスリルあるだろ?」
「まぁな、じゃあ、先にゴールを決めた方が勝ちで良いな?」
どうしても狭間は早く済まして帰りたいらしい。
「良いぜぇじゃあ俺が先行で良いか?」
「……良いよ」
ズルイとは思ったが、狭間は軍馬に先を譲った。ちなみにキーパーは対戦相手の狭間自ら担当する。つまり、正真正銘の決闘だ。
「じゃあ早速決めるぜ」
サッカーボールを踏んで意気揚々と軍馬が言った。
「ああ、いつでも良いぜ」
流石にグローブをはめた狭間が手を合わせると、ゴールポストの前でかかんで構えた。
「じゃあ、シュートッ!」
フェイントすらしないストレートな軍馬の蹴り。サッカーボールは右へ弧を描いて飛んで行った。しかし、狭間がキャッチして防いだ。
「おっ!オメエやるじゃない!」
シュートを阻まれ悔しがるどころか嬉しそうな軍馬を見た狭間は、中々男らしい性格だと感心した。
「次は俺の番だな」
今度は狭間が蹴る番になって軍馬と位置を入れ替わった。ボールを置いて後ろに下がり助走をつけて蹴った。
「もらった!」
軍馬は左に向かって飛んだ。しかし、ボールは真っ直ぐに飛んでゴールポストネットを突き刺した。
「しまったぁ!」
フェイントすると先読みして左に飛んだ軍馬だったが、結果は正面だった。つまり、狭間の方が真っ直ぐな男だった。
「これで俺の勝ちだな」
勝敗は先に点を入れた者の勝ち。先に手を入れた狭間は上着を着て、時間も押し迫っていたので帰ろうとした。
すると軍馬が回り込んで進路を塞いだ。
「まて、負けた俺を殴れ」
「別に良いよ」
敗者を殴るなんて狭間の趣味じゃない。だから面倒だし、彼は立ち去ろうとした。
しかし、納得いかない軍馬が回り込んだ。
「おいっ狭間っ勝者が敗者を殴るルール決めただろ? だったら男同士の約束守れよ!」
軍馬は実に男らしい性格だ。
「……良いのか?」
軍馬はテコでも動かない男と判断した狭間は、観念して手を握った。
「ああ、俺の顔を殴れ」
軍馬は左頬を指差し言った。
「分かった」
バキッ!
「ぐえっ!ぎゃあっ!」
狭間は思いきり軍馬の顔正面を殴った。そして彼は吹き飛ばされて悲鳴をあげた。
「だ、大丈夫か?」
「……」
心配して軍馬に駆け寄る狭間。
「大丈夫じゃないわよっ!!」
「えっ?」
女座りして左頬に手を添える軍馬。確か正面を殴られたはずだが……
それよりも狭間が固まった。その原因は急にオネエ態度に急変した軍馬を見たからだ。
先程の男らしい発言撤回したい気持ち。
「なにもこんなに強く殴るなんて、痛いじゃないのよっ!」
「……済まない悪かった……」
狭間はこの男が別な意味で怖くなって後ずさりした。
先程のエセ理系男子と言い、このエセオラオラ系男子の一風変わった裏の顔を知った狭間は心底関わりを持つのを止そうと感じた。
こうして狭間は逃げる様にグランドをあとにした。その後、部員たちは片付けの準備を始めた。
「アンタ終わったなら帰ってくれないか?」
一人たたずむ軍馬が邪魔とばかりに安城が話しかけた。
すると軍馬がニヤリと笑った。
「実は俺は政府関係者でな……」
「はあっ?」
オネエの内面を見た今、今更カッコつけても遅いと安城が呆れる様に返事した。
「近い将来、日本政府が人型機動兵器を主体とした特殊部隊の設立するプロジェクトがある。もちろん対ギガントビーストのだ」
「……で、なにが言いたい?」
「ふっ、君をその部隊の隊長にしてやっても良いのだが?」
「マジでっ!?」
頭は正直よろしくないと自覚していた安城は高校卒業後、自衛隊に入隊しようか真剣に考えていた。
そこに軍馬の誘いだ。嘘かも知れないのに彼女は信じて彼の両肩を掴んだ。
「痛っ!ちょっとお〜アンタ力強いわねっ!」
「……あっごめんなさい」
直ぐに手を離した。
どうやら普段男らしい軍馬は、暴力を振られるとオネエに変貌する様だ。それを知った安城は彼に対して、優しく扱う様になった。
「でも本当に隊長にしてくれるのか?」
「ええ、良いわよっ……いや、良いぜ!」
「……」
親指を見せて白い歯を見せて男らしさをアピールした軍馬。だが、もう遅い。
安城はドン引きしていた。
「その代わり条件がある」
気を取り直した軍馬が言った。
「なんだよっタダじゃないのか?」
ちょっと残念がる安城。まぁ、流石にタダでこんな上手い話はない。
「ああ、お前を正規隊員に採用する条件は……」
軍馬は安城の耳元でささやく様に条件を言った。
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