第9話 放たれた刺客たち
翌日朝の全学年集会が体育館で行われた。主な内容は特別転校生の紹介だ。
長たらしい校長の挨拶が終わると上段に三人の転校生があがった。
三人共派手な色のブレザー姿の男子だ。中央に立つ白い制服姿の男子は、昨日転校して来た金髪美少年の重篤寺翔馬だ。
「皆さんこんにちは、僕の名は重篤寺翔馬。あの世界的トップの人型機動兵器会社社長の息子で母親は……」
翔馬は聞いてもいない自慢話をベラベラと喋った。彼のスピーチの最中生徒たちがざわつく。その内容は女子たちの黄色い声援とモテない男子モテない男子のやっかみの声。
続いて翔馬の左に立つ真っ赤に髪を染めた顎髭男がマイクを握った。顔はイケメンでワイルドな雰囲気を漂わせていて、髪が赤なのに制服まで真っ赤でバランスを考えない馬鹿っぽさがある。それと、見かけ通り優等生じゃないので、開いたブレザーは腕まくりしてノーネクタイのヤンキースタイル。
「ちわーすっ!」
「……」
優等生が通う高校に似つかわしくないチャラい赤毛の挨拶に、生徒たちが固まった。
と言うか、今まで底辺の生徒と接してなかった彼らにとってファーストコンタクトに等しい。
「俺は〜
強面だがチャラさが目立つ軍馬の自己紹介。この高校は進学校だから、彼みたいなヤンキーが通えるとは思えない。
どうやらスポーツ推薦で転校して来たそうだ。
続いて翔馬の右隣に立つ黒髪ストレートヘアーの眼鏡男子。彼は知的な雰囲気を漂わせるイケメンだ。ちなみに制服の色は青。クールキャラと言えば皆青である。(たまにイカれたキャラが青でも良いのでは?)
「皆様始めまして、私の名は
自己紹介を終えると明馬は深々とお辞儀した。それを見ていた女子たちの一部が黄色い声援を送り、やっかみ男子たちは『そのまま眼鏡落としてレンズ割れろ!』と馬鹿っぽいヤジを飛ばした。
こうして三人自己紹介が終わったが、わざわざ全学年集会で行われたのは初めて。
だから、高校側が特別扱いするほどの転校生と言えよう。
「では……」
教頭が降りるよう誘導するが、三人の転校生は動かず一点を見つめていた。
「翔馬さんあの男がターゲットですか?」
明馬が眼鏡のブリッジに手を当てて聞いた。
「そうだ。奴の名は狭間優斗。お前が狭間から奪う女は分かっているな?」
周りの先生に聞こえない様に翔馬が明馬に話しかける。
「分かってます。彼と仲が良い理系女子ですね?」
明馬の問いに翔馬がうなずく。
「俺の獲物は誰でぇよ? アレか、副会長?」
ズボンの両ポケットに手を突っ込んで、前屈みになって碧馬を探す軍馬。
その獲物を探す険しい形相は、女を狙う夜のハンターだ。
「待て待て!副会長は僕が狙っているんだ。
「ちーすっ!でも翔馬さん声デカイッスよ」
「あっ!うん、と、とにかくだ。
「ほほっヤルヤル!」
「貴様声がデカイ!」
好きでもない、ましてや好みじゃない女を落とせと言われてもヤル気は起きないものだが、報酬が高額だけに二人ともヤル気十分みたいだ。
「ところで、あの狭間と言う男には幼なじみの女がいるそうですね?」
明馬が翔馬に聞いてから、眼鏡のツルを持って眼鏡の位置を直す仕草をした。
この眼鏡を触る仕草は、インテリでなくてもしてしまう人類共通の癖。だけど、インテリがやるとより知的さが増す。
「あぁ、心配するな。奴の幼なじみを落とす刺客は決めてある」
それは誰かと明馬が聞こうとしたら、全学年集会終了の鐘が鳴った。
ぞろぞろと教室に戻る生徒たち。結局明馬はもう一人の刺客の名前は聞けなかった。
◇ ◇ ◇
放課後、狭間は科学部部長の今井玉樹の頼みで、開発中の人型起動兵器アクティブアーマーのテストパイロットをやることになった。
現役高校生にして大企業の試作機の開発を任されるなんて凄いと、狭間は彼女のことを関心した。
真東京学園の科学部室は新型研究施設だけあって校舎裏の大木で隠された秘密の場所にある。狭間は木々を抜けると校庭の二倍の面積の試験運転場に出た。
「デケエ……」
「なにを言ってるか? こんなもの企業の試験場に比べたら狭いわ」
狭間を案内していた玉樹に怒られた。ちなみに彼女は制服の上に白衣を羽織って、髪型はツインテールのいつものスタイルだ。
「で、俺が乗る試作機は?」
「そう急かすな。ほら見ろアレだ」
ドックの入り口に片膝をついて鎮座する試作機。全長はおよそ20メートル前後。直線的でスマートなフォルムで肝心の顔は、ひしがたツインアイに耳の代わりに付いたブレードアンテナが実にヒロイックなデザインだった。
あと、試作機だけあって装甲色はグレーと地味だ。しかし、玉樹が言うに正式採用のあかつきには、白と青の正義をイメージしたカラーリングにする予定らしい。(補足、普通赤が入るはずだが、青の方がクールだから赤は却下だそうだ)
「カッケェなぁ、でっコイツの名前は?」
狭間は機体の側まで寄って見上げて聞いた。
「白兵戦に特化した
「へーっ」
少なくともこんなカッコいいロボットに乗る救世主は、自分ではないと狭間は自覚していた。
「では早速この機体に乗り込んでくれ」
「お前無茶言うなぁ俺は
こんな鉄の塊の試作機を操縦するのは危険極まりない。だから、狭間は玉樹が眼鏡男子なら、お人好しでも断っていたに違いない。
「おおっーー引き受けてくれるか優斗君助かるよ」
気を良くした玉樹は狭間の背中を軽く叩いてから部員総出で、早速機体起動準備に入った。
準備には試作機だけあって一時間もかかった。それでも狭間は帰らず待った。
「良し!起動準備オーケーだ。早速操縦席に乗り込んでくれたまえ優斗君」
「説明もなしにいきなりか?」
「なに大丈夫だ。歴代のパイロットたちは練習なしのぶっつけ本番で敵を撃退したんだから」
困惑する狭間の背中を押し、コックピットまで誘導する玉樹。
「部長っそれってアニメの話じゃないんですか?」
眼鏡の地味な男子部員が的確なツッコミを入れた。
「ちょっと待って下さい」
玉樹の背後から声をかける男の声。彼女が振り返るとそこに、青い制服姿の長髪イケメン眼鏡がいた。
「なんですかアンタはっ部外者は立ち入り禁止ですよ!」
さっきツッコミを入れた地味眼鏡部員が注意した。
「フッ重篤寺重工の許可は得ている……」
彼は眼鏡のブリッジに指を添えて言った。重篤寺重工はこの高校を創設した親会社だ。
だから、一般生徒に重篤寺重工側の人間を追い払う権限はない。
「くっ……重篤寺重工のだと……」
権威に怯む地味眼鏡部員。
「とっとと立ち去れこの眼鏡が!」
「ひっ!!」
恐怖に怯えた地味眼鏡部員は一目散に逃げ出した。ちなみにこの男も眼鏡だから、眼鏡が眼鏡を追い払う悲しい出来事だった。
「さて、こんな
「なんだと……」
突然狭間の手柄を奪いに来た。翔馬が放った刺客の一人、その名は竹内明馬。
生徒会長選挙前から狭間に対する翔馬の嫌がらせ《攻撃》が始まった。
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