第33話 初めての二人きりの買い物宣言④


「わぁー! いっぱいあるね。今までメガネに縁がなかったからなんか新鮮だよ」

「そっか、裸眼の人はほとんど店に来る理由ないよね」

「うん。サングラスとかは路面店とかで見てたりしたけど、本格的なメガネは初めてかな」


 いちご大福の一件を終え、私たちは当初の目的であったメガネを選びにメガネ店に足を運んだ。

 フロアの一部が改築されたその店に入るや、すぐにおびただしい数のメガネ達が私たちを出迎える。


「(あ、そういえばクドウがデートに絶対に必要になるからって言って渡してきたメモがあったわね)」


 私は今の今まで忘れていたクドウの言葉を思い出し、店に入った途端に足を止めてメモを取り出した。


 ナギの事を考えてたり色んなことがあってこのメモの存在すっかり忘れてたわ。

 それにしても中身は何かしら。アイツがこのデートに必ず必要になるって豪語してたから……よほどの内容なのかも。私が知らない恋愛の指南とかかしら。


 私はメモを開け、中身を確認した。


////////

メガネの種類選択指南

 スクエア型 → クールを装える。丸顔の人は特に顔をシャープに見せられる。

 オーバル型 → 顔がベース型は最高に似合う。物腰柔らかい印象を与えられる。

 ウェリントン型 → 種類選ばず誰にでも似合うが、特に面長顔は推奨。

 ボストン型 → フレームの素材で印象変更可能。スタイリッシュにも落ち着いた印象にも。

 ラウンド型 → あの野比家、ポッター家のご子息が身につけている一品。ザ・メガネならこれ

 伊達メガネ → 偽物。死すべし。抹消対象

              ///////


「(なんだ、ゴミじゃない。変なの持たされたわね)」


 恋愛に対するアドバイスかと思ったらただのメガネの選び方指南なんて。

 というか伊達メガネに対する記載厳しいわね。クドウったら裸眼が伊達メガネするのをよほど嫌ってるみたい。


 私はしょうもない内容のメモをくしゃくしゃにしてポケットにじ込む。

 変な時間食っちゃった。ナギ、先に行っちゃってるし。


 先に奥にいたナギは一つのメガネをおもむろにかけてこちらを見た。


「みてみて詩葉。似合う?」

「うん!! めっちゃ似合ってる!!」


 普段メガネなんてしないナギだけど、メガネ姿もこれはこれで中々……じゅるり。あら、やだ、ヨダレが。隙をついて写真をパシャリと。


「こうして見ると、メガネにもいろんな種類や形があるんだね。この形のメガネはこの人に似合うとかあるのかな?」

「…………っ! えっと……顔の形で似合う似合わないは確かにあるわね。ナギだったらちょっと面長型の顔だからこのウェリントン型が似合うかも」

「え!! 詩葉そんな事も知ってるの!? すごいね、やっぱ賢いやぁ」


 ……グッジョブ、クドウ。良い仕事したわ。

 まさかあのメモのおかげでナギから褒められるなんて。思わぬ収穫よ。


 さっきのゴミっていう発言は取り消さなきゃね。

 クドウにはメガネケースぐらいいつか買ってあげよっと。


 さて、そろそろ私もメガネを選びますか。


「それじゃ、ナギ。今から私が何個かかけてみるから感想聞かせてね。まずはこれ」


 私は棚の一番先頭にある赤いフレームが特徴のメガネをかける。


「最高」


 続いて、茶色フレームのボストン型。


「これは?」

「向かう所敵なし」


 青フレームのスクエア型。


「それじゃあこれ」

「圧倒的」


 最後に、黄色の“の○太”型。


「これ」

「名古屋の至宝」

「ーーちょっとナギ、ふざけてない? それに今後どのメガネ付けても同じような感想しか出てこない気がするんだけど」

「ふざけてなんかないよ!! ちゃんと心から思ったこと述べてるし、それに詩葉はどのメガネ付けても似合ってるんだ!!」

「あ……あら……そう」


 て、照れるし、うれしぃ……。

 ナギったら、もぅ……。


「嬉しい言葉だけど、全部におんなじ感想言われたらどれにしようか迷っちゃって困る」

「うんうん全く困っちゃうよね。僕もいつも困ってるよ。なんでも似合う詩葉の美貌さには」

「話繋がってる感じ出してるけど、繋がってないからね? はぁ……もういっその事、ここにあるのぜ〜んぶ買っちゃおうかしら」

「そんなハリーポ○ターの買い物シーンみたいに簡単に言える額じゃないと思うけど」


 メガネ一個あたり九千円として、展示されてるのは500個くらいでしょ?

 毎日違うメガネ姿を見せて、ナギの『可愛い』がもらえるなら450万円くらい安いわ。


「そうだ! ナギがこの中にあるメガネから一つ、私に一番似合うもの選んで?」

「えぇーーっ!?」

「元はと言えば、ナギに選んでもらうための買い物だったからね。こうするのが一番」


 うん。我ながらいいアイデアじゃない。


「かなり重要な仕事だね。……6時間くらいもらってもいい?」

「かかりすぎじゃない!? 一日の4分の1を消費するほど重要じゃないよ!?」

「うむむ。これでもまだ足りない気がするけど……なるべく早く選んでみるよ」


 そう言って、ナギは血相を変えながらメガネを一つ一つ手に取り、スマホに映した私の写真とメガネを交互に見て吟味し始める。

 ナギの邪魔になるといけないので、私はそそくさとその場から離れたのだった。

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